同級生と好敵手
 学生にとって、長い一日に終わりを告げる鐘がなる。だけどそれは私にとってまた始まりを告げる鐘でもあるのだ。

「あーやっぱ久々の授業はだりーわ」
「水沢、これ二人分ってどういうことだよ」

 各々が帰り支度を済ませてぱらぱらと教室を後にしていくなか、私も支度をしていると背後から米屋君と出水君が声をかけてくる。出水君の手に掲げられたファイルにまとめられたルーズリーフは、ここしばらくの授業内容を出水君用にまとめなおしたものだ。

「米屋君はそれコピーしてよ」
「えぇ? 弾バカいつもノートもらってるじゃん」

 出水君は米屋君と違ってそれなりに勉強もするし真面目な方だ。昔、ノートがわかりやすいと褒められてからはお菓子をもらうことを条件に、計測中の暇な時間を使ってそのままあげられるようルーズリーフに内容をまとめなおしている。そうはいっても出水君一人分なら自分の復習にもなるしまぁいいとはいえ、米屋君の分もとなるとさすがに面倒というのが本音だ。

「それが成績の差だよ米屋君。どうせたいして勉強しないでしょ」
「うわっ、きびしー」

 事実図星のようで文句を言いながらも笑っている米屋君。それをざまーみろ、と悪態をつきながらからからと笑う出水君。上等だ今日はバトるぞこのやろう、とじゃれあう二人を見ていると、日常が戻ってきたなぁ、という気分になる。

「水沢は今日は本部行くか?」
「……うん、行くよ」

 今日も計測の為に鬼怒田さんの所に顔を出さなければいけないだろう。だけどその理由を告げるわけにいかないから曖昧にぼかす。そんな私に米屋君は少しからかいを含めて呆れたように言うのだ。

「また鬼怒田さんとこか?」

 B級ソロプレイヤーという私の肩書きは迅さんの次くらいには有名らしい。部隊に所属せず、ランク戦も殆どやらない事でも有名で、本部で見かける私は大抵が技術開発局へと消えて行く。一部の間ではそうやってコネを作ってボーダーに籍を置き続けているのだと、変に勘ぐるような声もあるらしい。米屋君いわく。

「いい加減部隊入れって」
「この肩書き気に入ってるんだよ」

 はぁ? と二人同時に訝しげな視線を投げられてちょっと良心が痛む。そりゃあ男の子だから強くなりたいし上にいきたいのだろうけど。私はまた違った事情があるから曖昧に言葉を濁す。

「そいえば緑川君が退屈そうにしてたよ、遊んであげなよ」
「確かにしばらくバトってないなー」
「今日防衛任務のシフトじゃね?」

 なんだか話が続いてしまい、私が帰り支度を済ませて肩に鞄をかけると、お互いに何を言い出すわけでもなく、自然と本部への道を共にする。A級部隊に所属する二人に私が混じるのはなんとも場違いに感じるが、彼らは緑川君程あからさまな態度を取らないので今は甘えておくことにしよう。

「はー、早く敵こねーかな」
「物騒な事言うなよ」
「米屋君は一回献血して血の気抜いてきたら?」
「名案。おい世間様の役に立ってこいよ」
「もう十分役に立ってるだろー」

 三人並んでくだらない話をしながらのろのろと本部へ向かう。それに、と米屋君は一度言葉を切ってこちらを見た。

「迅さんに聞いたんだけどさ」
「うん?」
「そろそろ水沢とバトれるらしいじゃん?」

 にたりとした笑顔は随分と好戦的で、思わずひやりと背筋が冷える。まさか迅さんに限ってブラックトリガーの情報は漏らしていないと思うけど、どうして突然そんな事を米屋君に言ったんだろう?

「……迅さんそんな事言ったの?」
「もうすぐ遊び相手が増えるぞって」
「それがなんで水沢になるんだよ」
「迅さんがその後水沢の事見てたから」

 な? と伺うような視線を投げられて困惑する。迅さんが意味のないことを漏らすとは思えないから、敢えて言葉にせずとも発した意図を米屋君が汲むと期待しての行動だろう。それに何と答えるべきか少し思案していると、出水君がそれに割って入る。

「それはつまり本気の水沢とやれるってことか?」

 米屋君と同じ、爛々と戦いに期待する瞳を向けられた。そして自分の中でまたストリと納得する感覚。迅さんが狙っていたのは多分出水君だ、と直感する。

「今まで本気じゃなかったって思ってるの?」
「お前はそういうの誤魔化すのヘタだよな」

 にたり、二人の強気な笑みにおし負けてつい降参のポーズをとる。何を言っていいか今の段階ではわからないから黙るしかないのだ。

「多分迅さんが暗躍してるから、その時がくるまでノーコメント」
「ははっ。当たりって言ってるの丸わかりジャン」

 お前って本当駆け引き下手だよなー、と米屋君に笑われる。栞にもよくわかりやすいねーって言われるしこの従姉弟達は敏いのだろうか。言葉を濁した私にすこしは気をつかってくれたのか二人は話題を変えてくれる。

「とりあえず弾バカ、練習相手になれよ」
「上等、蜂の巣にしてくれる」

 そう二人が盛り上がり始めて丁度本部に到着した。模擬戦に向かう二人に別れを告げて私はいつもどおり技術開発局へ。今日も変わらず数値が高水位で不安定なのだろうか。
 早く玉狛に行くためにもさっさと計測を済ませようと足を急がせた。


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