「遊びに来たぜぃ☆」
いくらいいっていったからってその週の日曜日に来ることないだろ。
* * * * *
テニス部が仁王家に突撃してきたのは出会ったその週の日曜日だった。
今日はちょうど練習試合のない日曜日で、じゃあ遊びに行こう、と昨日いいだしたのはブン太らしい。
ったく、ホントにもう……図々しすぎて呆れを通り越して尊敬すらするよ。
ま、もとからここはずっと一緒にテニスやってきた雅治の家でもあるわけだし、遠慮しろよっていう方が難しいのかもしれない。
ま、それはわかるんだが。
「全員で来るとは」
予想もしなかった。
あまりの事態にひきつり笑いをしていると、赤也が不思議そうな顔をした。
「仁王センパイからなんにも聞いてないんスか?」
「ほう赤也くん、それは興味深い発言だね、続けてごらん」
「え、いやだから、昨日仁王センパイが遊びに来てもいいってゆってたっスよ? オミセンパイには俺から伝えるから、とかいって」
あー、うん、その理由は予想の範囲内でしたね。
「なんじゃ、もう来たんか」
のし、と後ろから俺の肩に顎を乗せてくる人物に俺は眉根を寄せた。
ちらりと横目で睨むと、にへら、とだらしない笑顔を浮かべる。
「玄関先に出てくるんだったら上半身裸のままで来るな!」
耳のそばで怒鳴ってやると目を細めて眉をしかめながら、うるさいのう、と文句を言ってきた。
顎をどかす気はないらしい。
わざと俺に今日の訪問のことを教えずにいたのは、明らかにこいつの「わざと」で、しかもそれは俺のリアクションをみてせせら笑いたいという、心底気に食わない理由なのだ。
「……このまま裸族を玄関先に置いておくわけにいかないから、どうぞ」
これ以上、今ここで文句をいっても仕方ない。
そういって促すと柳さんが口元を押さえてすいっと斜め下を向いた。
……雅治の考えてること並にわかんないよ、この人の笑いのツボ。
* * * * *
居間に全員を通してその場でくつろいでもらうことにした。
幸い今日は姉さんもいないし、両親も出かけている。
雅治と2人きりとかいうえらくお寒い休日を過ごすところだったので少し助かった。
スウェットの上を着てきた雅治が一家の主のようにどっかりとソファに座りやがったので、飲みもの、おやつの用意は俺がするハメになる。
お前が来てもいいって最終的な許可出したんだろう、お前がもてなさないでどうするんだという文句は飲み込んだ。
礼儀正しい人たちがお土産を持ってきてくれたのでお菓子には困らなそうだ。
また変なものだして柳さんに笑われたらたまらない。
お土産の中にはジュースもあったので、それをコップにわけて出せばいいだろう。
よし、大丈夫、今日はあんまり笑われないぞ!
ぐっと拳を握って気合いを入れた。
そう思った矢先、そういや人数分のコップがないことが判明した。
ジュースはあるが、紙コップはないし、5人家族の家にそんなに余分にコップがあるわけでもない。
あー……湯のみでいいかな。あ、いやしかし……湯のみにジュース入れて持ってったらまた笑われるよな、それくらいはわかる。
しかしほかにコップ代わりになるものもない。
紙コップとかないし……マグカップ? も変だよな……。いや、マグカップのほうがマシ……?
……訊きに行けば、いいかな。
あ、いやでも、訊きに行っても笑われるかな。
なんだか俺、柳さんに笑われるの軽いPTSDになってるんじゃない?
結局、「訊きに行って笑われる」のと、「何もいわないで湯のみに入れて持って行って笑われる」の、どちらのがより笑われるか真剣に考えた結果、訊きに行った方がまだましという結論に至った。
思い立ったが吉日、とばかりにスリッパの底をぱたりぱたりと鳴らしながら居間の方へと歩いていく。
「おーい」
声をかけると、なぜかブン太が小さい声で「きたきた」と笑った。
あ? え、何?
「あのさ、コップ足りない分湯のみに」
入れてもいい、という言葉を俺が言う前に、ブン太と赤也がふきだした。
つられたように柳生さんや真田さん、ジャッカルまで笑っている。
柳さんに関してはいうまでもないだろう。
雅治がにやにや笑いながらその異様な光景をみつめている俺を見た。
「湯のみに入れてきんしゃい」
「あ、おう、え、何これ」
「だ、だって仁王のいったとおり……!」
そういってなおげらげらと笑い転げるブン太、とその横で赤也。
柳さんも下向いて肩揺らしてるし、柳生さん真田さんもまた然り、柳さんよりは揺れてないけど。
ジャッカルは笑いながらも申し訳なさそうに俺を見ている。
え、なに、仁王のいったとおりって雅治なにいったの?
「だからゆうたじゃろ? 『オミは真剣に考えた挙句絶対俺らに訊きに来る』って」
「……何を」
「ジュースを湯のみにいれることじゃ。お前今、台所で湯のみに入れていいか先に訊くのと、いわないで持ってくのどっちが笑われるか考えとったじゃろ」
「……考えてない!」
ムキになってそういうが考えていたのはばればれのようだ。一層ブン太と赤也の笑い声が大きくなる。死にそうだとかも聞こえてきた。
柳さん、もうそれ以上堪えると窒息死するぞ。
ああほら、隣に座ってる柳生さんが心配してますよ!
「そうかそうか、ならそれでええけど。ほれ、早くいれてきんしゃい」
にやにやしながら手をひらひらと振って俺を促す雅治と睨みつけてから、足音高く台所に戻る。
ああくそあの馬鹿! 人のこと笑いの種にしやがって!
だあもう何が腹立つって笑われたのもそうだが雅治の予想通りの反応をしてしまった俺に一番腹立つ!
人数分コップと湯のみにジュースを注いでお盆に乗せ、お菓子の袋を持って居間へと向かう。
ただその途中で話し声が聞こえてきて、一度足を止めた。
影から様子をうかがってみる。
ま、またなんか予想してんのか? 今度はそうはいかないぞ、先に聞いてて回避してやる!
「……あー笑った笑った。オミって面白ぇーな」
ブン太が笑いすぎで浮かんだ涙をぬぐって座りなおす。
赤也はまだ笑いの余韻が残っているようだ。ぴくぴくと未だに肩が震えている。
ブン太の方に首を向けていて顔はこちらを向いていないが、雅治がにんまりと笑ってみせたのがわかった。
見えないのになぜって、わかるんだよ、そういうのは。
「じゃろ? 俺の自慢の弟じゃ」
あ、それ、は。
俺が嫌みのつもりでいおうとして、恥ずかしくていえなかった。
……え、ちょ、なんだよ雅治。
恥ずかしいこというなよ、ブラコンだと思われるぞ!
ってか、なん、急に何いいだすんだ。俺今めっちゃ顔赤いぞ多分。
俺が聞いてること予想してくんないかな少しくらい!
え、あー、もう。
くそ、しかし、なんか嬉しい。
俺もブラコンの気でもあるのだろうか。雅治相手に? それは御免だ。
いや、面白いという方面であっても雅治が自慢に思っててくれてることが嬉しいのであってブラコンでは。
あ、いや、そういうのもブラコンっていうのだろうか、ああ、なんかわからなくなってきた。
畜生、ちょっと嬉しかったから特別に俺の秘蔵っ子、ビーフジャーキーも出してやろうじゃないか。
「ホントに持ってきた!」
「俺の雅臣に関する予想は百発百中じゃからの」
また笑い始めたみんな、それからそんなことをいって笑った雅治を見て呆然としたのはいうまでもないだろう。
え、な、なにが、え、何を持ってきたって? え?
話をまとめると、どうやら俺がこっそりやりとりを聞いているのに雅治と柳さんは気づいていたらしい。
台所の方に俺が戻ったがわかり、柳さんが雅治に「聞かれていたぞ」というと「しっとる」としれっといったという。
雅治は、これは俺の予想だが、いつものように意地悪そうに口角を引き上げて笑ったのだろう。
そうして彼は、自信満々にいいきった。
「出される菓子にオミの秘蔵ビーフジャーキーがついとるぜよ」
読まれてる俺が馬鹿なのか、それともそんなことで楽しんでる雅治たちが馬鹿なのか。
わからないけど、多分、みんななんだとは思った。
遊ぶのはいいが俺で遊ぶな
(やっぱり、そんな状況も楽しいかななんて思う俺が一番馬鹿なのかもしれない)
(なんて、ね)
Oh,my brother!・[出会い編]完
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