17
本気で探し求めると不思議と見つかるって言うけど、こんなにあっさりと出会って良かったものかとヤヒロは思った。
目の前にいる赤髪の男――シャンクスは上機嫌に酒を呷って実に楽しそうだ。
「まァ、どうでも良いんだけど、もう無いの?」
「ま、まだ飲むのか?」
「え? 全く飲み足りねェんだけど……」
「だーはっはっはっ! 本当にとんでもねェ女だな!」
盛大に笑ったシャンクスがヤヒロの肩に腕を回した。
「ちょっ、何して」
「ヤヒロ」
「――ん?」
間近に迫る真面目な顔にヤヒロは思わずキョトンとした。
「おれはお前が気に入った。おれの仲間になれ」
「あ、うん、無理。私は白ひげ海賊団の一員でオヤジの娘だから」
「あァ、語弊だった。おれの女になれ」
「ヤダ」
「だーはっはっはっ! 即答か!」
肩に回されたシャンクスの腕をペシンと払い除けたヤヒロは、新たに追加された酒瓶を手に取ってコルクを外すとグビグビと一気に飲み干していった。
「ぷはァっ!!」
「おい、マジかよ。あれってかなり度数が高いってのに、一気に飲みやがった」
ヤソップが呆れて呟くとヤヒロの隣に座るベックマンが「あまり飲み過ぎるな」と諫めた。しかし――
「んー……、もっと強いの無い?」
「「「えェ!? どんだけ酒豪!!??」」」
物足りなさそうな表情を浮かべておかわりを要求するヤヒロに、船長と副船長以外の赤髪海賊団一同が絶叫した。
「ベンさん、何でそんな哀れな目を私に向けてんだ?」
「性別を間違えて生まれて来たお前が不憫に思えてな」
「葉巻を銜えて格好を付けながら毒を吐くって、あんた結構な性格してんのな」
眉間に皺を寄せてベックを睨みつけながら新たな酒瓶を手に取ったヤヒロ#は、慣れた手付きでコルクを開けた。それにほとほと呆れたヤソップは言った。
「頭、酒が底を尽きた」
「何!?」
驚くシャンクスに骨付き肉に噛り付きながらルウがヤヒロに指を差して「こいつが飲み尽しちまった」と言った。
片眉を上げたヤヒロは、人に指を差すんじゃねェよと思いながら何食わぬ顔でゴクゴクと酒を呷る。
ちょっと待て。補給したのってついこの間だったよな?
流石にシャンクスも頬をヒクリと引き攣らせて呆れた笑いを零すしかなかった。
◇
双方の出会いは、ほんの数刻前のこと――。
思っていたよりも早くに赤髪海賊団の船を見つけたヤヒロは、「おーい!」と手を振って声を上げた。最初に気付いたのは見張り台に居た船員で、海上に漂う小船に乗って手を振っている妙な女に目をパチクリとさせた。
「北東の方向に……妙な奴がこっちに向かって手を振ってますけど」
望遠鏡を片手に船員が下方の甲板に向けて声を掛けた。銜えた葉巻に火を点けようとしてマッチを擦る手を止めたベックマンが視線を北東方向の海上へと向ける傍らで樽に腰掛けていたシャンクスも身を引いて視線を向けた。
「おーい!」
妙に甲高い声音。どちらかと言うと女っぽい。
「何人だ?」
見張り台に向けてシャンクスが問うと船員は「小船一隻に一人だけっすね。陽気に手を振り続けてます」と答えた。
女っぽい声で、小船一隻に一で、海賊船に向かって手を振っているが『陽気』という言葉から遭難者では無い。じゃあ、何だって話になるのだが……。
甲板にいた船員達も北東方向に集まって騒ついている中、シャンクスとベックマンは顔を見合わせて言葉を交わす。
「まさかな」
「例の話から推測すれば、そのまさかはあり得るかもな」
苦笑するシャンクスに答えたベックマンはマッチを擦って葉巻に火を付けた。まさか向こうから来るとは予想もしていなかったと呟くと同時にシャンクスが足速に北東方向の欄干へと向かった。
あァ、あいつが――ヤヒロか。
赤髪海賊団もヤヒロに会う為に航行をしていた為、出会ってから意気投合するのに全く時間は掛からなかった。船上ではまだ日が高いというのに宴が催され、船一番の酒豪に勝るとも劣らないヤヒロの飲みっぷりに、彼らは「凄ェな姉ちゃん!」とお祭り気分で大いに盛り上がった。
で、
話は冒頭に戻るわけで――。
まさか酒が底を尽いた悲劇に見舞われてガクリと項垂れ「疫病神だ」と呟いて恨めし気な目でヤヒロを見つめる結果になるとは思いもしなかくて、酒が底を尽きたと同時に宴は早々に終わりを迎えた。
「まァ、偶には休肝日ってェことで良いんじゃないか」
紫煙を燻らしながらベックマンが言うと、シャンクスを始め殆どの船員は実に嫌そうな顔を浮かべたが、船医に限っては言っても聞かない連中には丁度良いとばかりに喜んだ。
「何か悪ィな。飲んだ気は全然無ェんだけど飲み過ぎたみたいで……アハハハッ!」
頭をポリポリと掻きながら楽しそうに笑うヤヒロに、反省してねェの丸わかりだな、おい!と、ベックマンと船医を除く赤髪海賊団御一行は胸の内でツッコんだ。
「気にするな。順調に進めば数日後にはそれなりに栄えた島に着く予定だから問題無い。近頃飲み過ぎる人がいたから丁度良い機会だ」
ベックマンの言葉にシャンクスが不服そうな表情を浮かべた。
「おいベック、それはおれのことか?」
「ハハッ! あんた以外にいねェっての!」
ヤソップが笑って指摘すると相変わらず骨付き肉を頬張っているルウも一緒に笑い、それに釣られるように船員達がどっと笑った。
―― 仲良いなァ。
赤髪海賊団の雰囲気に思わず笑みを零したヤヒロは、白ひげ海賊団の船に乗っていた頃をふと思い出し、今頃どうしてんのかなァと物思いに耽った。
「少し早いが疲れただろう? そろそろ休むか?」
「ん?」
ほんの僅かなヤヒロの心情の変化に気付いたシャンクスが話を転じてヤヒロに声を掛けると、最後の肉片を咀嚼したルウが「空いた部屋ってあったかな?」と言った。
「んにゃ、確か今は満室で空きは無かったはずだ」
顎に手を当てながらヤソップが答える。そして、ルウと顔を見合わせたヤソップはシャンクスに向かって言った。「まさかと思うが……、連れ込む気か?」――と。
「人聞きが悪いな。おれの部屋が一番安全だろう? 無駄に広いしな」
シャンクスの言葉にルウは「確かにあの部屋は無駄に広い」と頷いた。
「酒に酔い潰れて眠るだけの部屋にしては無駄にな。無駄に」
「だっはっはっ!」
嫌味を込めてヤソップは言ったが、シャンクスは全く意に介していない。
「ったく……、あんたって人は」
呆れて溜息を吐いたベックマンは、不思議そうな表情を浮かべて首を傾げているヤヒロの様子に気付いた。何を考えているのかとベックマンが訝し気に眉を顰めると、「いやいや」とヤヒロが軽く首を振った。
「船長室とかって気が引けるからさ、どっか隅っこで雑魚寝するよ」
本当に性別を間違えて生まれて来たんだなと改めて思ったベックマンは、溜息を吐いて「何を言いだすのかと思えば……」と零した。
「男所帯の中で女が一人で無防備に寝るなんて危険以外無いだろ?」
ベックマンの言葉を引き継ぐようにシャンクスが言うとヤヒロは「襲われたら襲われた時だって」と事も無げに言った。そして、にへらと満面の笑顔を浮かべてエグイ言葉を彼らに贈る。
「そん時は容赦無く玉をぶっ潰すから」――と。
「可愛い笑顔で言うことじゃ無ェだろ?!」
船員達が一斉に悪寒を感じて叫んだのは仕方が無いことだった。
初めて顔を突き合わした時、赤髪海賊団の船員達によるヤヒロの第一印象はこうだった。
可愛い子だ!
べっぴんだ!
美人だ!!
マジマブい女だ!!
頬を赤くして鼻の下を伸ばしてデレッとした表情を浮かべてヤヒロを色欲の目で見つめた。だが、次に思わぬ酒豪ぶりを見せつけられると印象が変わった。
な、何だこの女?
凄ェ女だな……。
おいおい、あれを一気に飲むってあり得ねェ。
どこの酒飲みオヤジだよ。
(((あいつ……、女だよな?)))
呆気に取られてヤヒロを見つめる船員達。そして今、凄く良い笑顔で「玉を潰す」と言ってのけたヤヒロから放たれる異様な雰囲気に気圧された船員達は一瞬で畏怖を抱いた。
怖っ!?
マジ?
何この女!?
何もされてねェのに何か大事な息子が痛ェ!
赤い龍と青い不死鳥と、その間に描かれた金糸の文字といった派手な衣服を身に纏う時点で普通の女じゃないとは思っていたが、まさかここまで異質なものを見せつけられるとは思っていなかった。そして、(幹部達を除いて)彼らの中にある『女』の価値観が今まさにガラガラと崩れ始めていた。
「まァ、ヤヒロが良くても、おれ達が却って困るんだ。そこんとこ理解してくれるか?」
苦笑するシャンクスに目を丸くしたヤヒロは、「そっか、わかった」とあっさりと頷いた。悪いなと言いつつシャンクスは密かにホッとして腰を上げた。
「じゃあ、ついて来い」
船内に向かうシャンクスの後を追う様に、立ち上がったヤヒロは足早に動いたが、ふと足を止めて振り返った。
船員達はどうしたんだと目を丸くしているとヤヒロは口を開いた。
「今日はありがとうございました。少しの間だけどお世話になります。宜しく。それと、先に休ませてもらいますので、失礼します!」
声を大にして丁寧に挨拶をしたかと思うば頭を深々と下げた。それから上げられた顔は何とも明るい笑顔だ。そうしてヤヒロは船内へと入って行った。
思わぬヤヒロの行動に船員達は呆気に取られてぽかーんとしていた。だが直ぐに何処からともなくククッと笑う声が漏れ出ると忽ち楽し気な声が上がった。
「ハハハ! あの嬢ちゃんは出鱈目かと思えば礼儀礼節はちゃんとしてんだな!」
額に手を当ててヤソップは笑った。
「良い子だ」
「確かにな」
ヤソップの言葉に同意するようにルウとベックマンも笑みを零して頷き、それを切っ掛けに船員達もヤヒロを気に入ったと口々に話し始めた。
そんな声はヤヒロの耳には届いていなかったが、シャンクスの耳にはしっかり届いていたようで――確かに面白い女だとシャンクスは笑みを零した。
目の前にいる赤髪の男――シャンクスは上機嫌に酒を呷って実に楽しそうだ。
「まァ、どうでも良いんだけど、もう無いの?」
「ま、まだ飲むのか?」
「え? 全く飲み足りねェんだけど……」
「だーはっはっはっ! 本当にとんでもねェ女だな!」
盛大に笑ったシャンクスがヤヒロの肩に腕を回した。
「ちょっ、何して」
「ヤヒロ」
「――ん?」
間近に迫る真面目な顔にヤヒロは思わずキョトンとした。
「おれはお前が気に入った。おれの仲間になれ」
「あ、うん、無理。私は白ひげ海賊団の一員でオヤジの娘だから」
「あァ、語弊だった。おれの女になれ」
「ヤダ」
「だーはっはっはっ! 即答か!」
肩に回されたシャンクスの腕をペシンと払い除けたヤヒロは、新たに追加された酒瓶を手に取ってコルクを外すとグビグビと一気に飲み干していった。
「ぷはァっ!!」
「おい、マジかよ。あれってかなり度数が高いってのに、一気に飲みやがった」
ヤソップが呆れて呟くとヤヒロの隣に座るベックマンが「あまり飲み過ぎるな」と諫めた。しかし――
「んー……、もっと強いの無い?」
「「「えェ!? どんだけ酒豪!!??」」」
物足りなさそうな表情を浮かべておかわりを要求するヤヒロに、船長と副船長以外の赤髪海賊団一同が絶叫した。
「ベンさん、何でそんな哀れな目を私に向けてんだ?」
「性別を間違えて生まれて来たお前が不憫に思えてな」
「葉巻を銜えて格好を付けながら毒を吐くって、あんた結構な性格してんのな」
眉間に皺を寄せてベックを睨みつけながら新たな酒瓶を手に取ったヤヒロ#は、慣れた手付きでコルクを開けた。それにほとほと呆れたヤソップは言った。
「頭、酒が底を尽きた」
「何!?」
驚くシャンクスに骨付き肉に噛り付きながらルウがヤヒロに指を差して「こいつが飲み尽しちまった」と言った。
片眉を上げたヤヒロは、人に指を差すんじゃねェよと思いながら何食わぬ顔でゴクゴクと酒を呷る。
ちょっと待て。補給したのってついこの間だったよな?
流石にシャンクスも頬をヒクリと引き攣らせて呆れた笑いを零すしかなかった。
◇
双方の出会いは、ほんの数刻前のこと――。
思っていたよりも早くに赤髪海賊団の船を見つけたヤヒロは、「おーい!」と手を振って声を上げた。最初に気付いたのは見張り台に居た船員で、海上に漂う小船に乗って手を振っている妙な女に目をパチクリとさせた。
「北東の方向に……妙な奴がこっちに向かって手を振ってますけど」
望遠鏡を片手に船員が下方の甲板に向けて声を掛けた。銜えた葉巻に火を点けようとしてマッチを擦る手を止めたベックマンが視線を北東方向の海上へと向ける傍らで樽に腰掛けていたシャンクスも身を引いて視線を向けた。
「おーい!」
妙に甲高い声音。どちらかと言うと女っぽい。
「何人だ?」
見張り台に向けてシャンクスが問うと船員は「小船一隻に一人だけっすね。陽気に手を振り続けてます」と答えた。
女っぽい声で、小船一隻に一で、海賊船に向かって手を振っているが『陽気』という言葉から遭難者では無い。じゃあ、何だって話になるのだが……。
甲板にいた船員達も北東方向に集まって騒ついている中、シャンクスとベックマンは顔を見合わせて言葉を交わす。
「まさかな」
「例の話から推測すれば、そのまさかはあり得るかもな」
苦笑するシャンクスに答えたベックマンはマッチを擦って葉巻に火を付けた。まさか向こうから来るとは予想もしていなかったと呟くと同時にシャンクスが足速に北東方向の欄干へと向かった。
あァ、あいつが――ヤヒロか。
赤髪海賊団もヤヒロに会う為に航行をしていた為、出会ってから意気投合するのに全く時間は掛からなかった。船上ではまだ日が高いというのに宴が催され、船一番の酒豪に勝るとも劣らないヤヒロの飲みっぷりに、彼らは「凄ェな姉ちゃん!」とお祭り気分で大いに盛り上がった。
で、
話は冒頭に戻るわけで――。
まさか酒が底を尽いた悲劇に見舞われてガクリと項垂れ「疫病神だ」と呟いて恨めし気な目でヤヒロを見つめる結果になるとは思いもしなかくて、酒が底を尽きたと同時に宴は早々に終わりを迎えた。
「まァ、偶には休肝日ってェことで良いんじゃないか」
紫煙を燻らしながらベックマンが言うと、シャンクスを始め殆どの船員は実に嫌そうな顔を浮かべたが、船医に限っては言っても聞かない連中には丁度良いとばかりに喜んだ。
「何か悪ィな。飲んだ気は全然無ェんだけど飲み過ぎたみたいで……アハハハッ!」
頭をポリポリと掻きながら楽しそうに笑うヤヒロに、反省してねェの丸わかりだな、おい!と、ベックマンと船医を除く赤髪海賊団御一行は胸の内でツッコんだ。
「気にするな。順調に進めば数日後にはそれなりに栄えた島に着く予定だから問題無い。近頃飲み過ぎる人がいたから丁度良い機会だ」
ベックマンの言葉にシャンクスが不服そうな表情を浮かべた。
「おいベック、それはおれのことか?」
「ハハッ! あんた以外にいねェっての!」
ヤソップが笑って指摘すると相変わらず骨付き肉を頬張っているルウも一緒に笑い、それに釣られるように船員達がどっと笑った。
―― 仲良いなァ。
赤髪海賊団の雰囲気に思わず笑みを零したヤヒロは、白ひげ海賊団の船に乗っていた頃をふと思い出し、今頃どうしてんのかなァと物思いに耽った。
「少し早いが疲れただろう? そろそろ休むか?」
「ん?」
ほんの僅かなヤヒロの心情の変化に気付いたシャンクスが話を転じてヤヒロに声を掛けると、最後の肉片を咀嚼したルウが「空いた部屋ってあったかな?」と言った。
「んにゃ、確か今は満室で空きは無かったはずだ」
顎に手を当てながらヤソップが答える。そして、ルウと顔を見合わせたヤソップはシャンクスに向かって言った。「まさかと思うが……、連れ込む気か?」――と。
「人聞きが悪いな。おれの部屋が一番安全だろう? 無駄に広いしな」
シャンクスの言葉にルウは「確かにあの部屋は無駄に広い」と頷いた。
「酒に酔い潰れて眠るだけの部屋にしては無駄にな。無駄に」
「だっはっはっ!」
嫌味を込めてヤソップは言ったが、シャンクスは全く意に介していない。
「ったく……、あんたって人は」
呆れて溜息を吐いたベックマンは、不思議そうな表情を浮かべて首を傾げているヤヒロの様子に気付いた。何を考えているのかとベックマンが訝し気に眉を顰めると、「いやいや」とヤヒロが軽く首を振った。
「船長室とかって気が引けるからさ、どっか隅っこで雑魚寝するよ」
本当に性別を間違えて生まれて来たんだなと改めて思ったベックマンは、溜息を吐いて「何を言いだすのかと思えば……」と零した。
「男所帯の中で女が一人で無防備に寝るなんて危険以外無いだろ?」
ベックマンの言葉を引き継ぐようにシャンクスが言うとヤヒロは「襲われたら襲われた時だって」と事も無げに言った。そして、にへらと満面の笑顔を浮かべてエグイ言葉を彼らに贈る。
「そん時は容赦無く玉をぶっ潰すから」――と。
「可愛い笑顔で言うことじゃ無ェだろ?!」
船員達が一斉に悪寒を感じて叫んだのは仕方が無いことだった。
初めて顔を突き合わした時、赤髪海賊団の船員達によるヤヒロの第一印象はこうだった。
可愛い子だ!
べっぴんだ!
美人だ!!
マジマブい女だ!!
頬を赤くして鼻の下を伸ばしてデレッとした表情を浮かべてヤヒロを色欲の目で見つめた。だが、次に思わぬ酒豪ぶりを見せつけられると印象が変わった。
な、何だこの女?
凄ェ女だな……。
おいおい、あれを一気に飲むってあり得ねェ。
どこの酒飲みオヤジだよ。
(((あいつ……、女だよな?)))
呆気に取られてヤヒロを見つめる船員達。そして今、凄く良い笑顔で「玉を潰す」と言ってのけたヤヒロから放たれる異様な雰囲気に気圧された船員達は一瞬で畏怖を抱いた。
怖っ!?
マジ?
何この女!?
何もされてねェのに何か大事な息子が痛ェ!
赤い龍と青い不死鳥と、その間に描かれた金糸の文字といった派手な衣服を身に纏う時点で普通の女じゃないとは思っていたが、まさかここまで異質なものを見せつけられるとは思っていなかった。そして、(幹部達を除いて)彼らの中にある『女』の価値観が今まさにガラガラと崩れ始めていた。
「まァ、ヤヒロが良くても、おれ達が却って困るんだ。そこんとこ理解してくれるか?」
苦笑するシャンクスに目を丸くしたヤヒロは、「そっか、わかった」とあっさりと頷いた。悪いなと言いつつシャンクスは密かにホッとして腰を上げた。
「じゃあ、ついて来い」
船内に向かうシャンクスの後を追う様に、立ち上がったヤヒロは足早に動いたが、ふと足を止めて振り返った。
船員達はどうしたんだと目を丸くしているとヤヒロは口を開いた。
「今日はありがとうございました。少しの間だけどお世話になります。宜しく。それと、先に休ませてもらいますので、失礼します!」
声を大にして丁寧に挨拶をしたかと思うば頭を深々と下げた。それから上げられた顔は何とも明るい笑顔だ。そうしてヤヒロは船内へと入って行った。
思わぬヤヒロの行動に船員達は呆気に取られてぽかーんとしていた。だが直ぐに何処からともなくククッと笑う声が漏れ出ると忽ち楽し気な声が上がった。
「ハハハ! あの嬢ちゃんは出鱈目かと思えば礼儀礼節はちゃんとしてんだな!」
額に手を当ててヤソップは笑った。
「良い子だ」
「確かにな」
ヤソップの言葉に同意するようにルウとベックマンも笑みを零して頷き、それを切っ掛けに船員達もヤヒロを気に入ったと口々に話し始めた。
そんな声はヤヒロの耳には届いていなかったが、シャンクスの耳にはしっかり届いていたようで――確かに面白い女だとシャンクスは笑みを零した。
酒豪の鬼神
【〆栞】