29
ヤヒロが到着すると同時にサッチは行動に出た。
『退路を開け』
電伝虫により後方にいる傘下の各船に連絡する。
これはヤヒロと別れる前に二人で算段したもので、白ひげ海賊団全員にも事前に知らせてある約束事だ。
エース奪還の為に接近する船は三隻のみ。それ以外の傘下の船はこの時の為に距離を保ち後続で待機。
エース奪還は少人数で行う。残りの者は負傷者を助けて撤退に全力を注ぐこと。
単独行動は隊長と言えども禁止。必ず二人以上五人以下のチームで行動し、危険を感じたら無理をせずに近くのチームの救援を待つこと。
必ず、誰一人、決して欠けることの無いように、細心の注意と、”逃げ”に対する勇気を持て。
この戦いは『生き残ること』が勝利であることを忘れないでほしい。
「オヤジ、全艦隊には連絡したから、おれはそろそろ次に移るぜ」
「あァ、わかった。サッチ、予定通り事を進めろ」
頷いたサッチはこっそりとモビー・ディック号を降りて隠密行動を開始した。
囚人達の元に近付くと辺りを見回してある人物を探しつつヤヒロから受けた指示を頭の中で何度も反芻する。
サッチはMr.3と共に海軍内部に侵入して処刑員と入れ替わってエースに接近して欲しい。Mr.3にはエースの錠を外すカギを事前に渡しとくから、タイミングを見て錠を外して。それからはエースとMr.3と全力で逃げること。エースは挑発に乗りやすいからサッチに任せるよ――と。
『数字の3を頂きに掲げてるから直ぐにわかるよ』と、そう言われて、"3を頂きに掲げてる"の意味がよくわからなかったが、「あ、3……」とサッチは思わず呟いた。本当にわかりやすい。
一方、囚人達の中をこっそり移動して辺りを見回しながらある人物を探しているMr.3。
サッチっていうんだけど、彼と一緒に海軍内部に侵入して処刑員と入れ替わって欲しいんだ。エースの錠のカギは事前に渡しておく。万が一の事も考えて蝋で型を取っといて。んで、タイミングを見て錠を外したら三人で全力で逃げる。必ずその時は私が後続を阻止するからさ。頼むよMr.3――と、手を繋がれて頼まれたら断れないガネ!!と心の中が彩り豊かな花畑と化して叫んだ数刻前を思い出しがら特徴を探す。
『フランスパンみたいなトサカをしたリーゼントヘアスタイルだから直ぐにわかるよ』と、そう言われて、"フランスパンみたいなトサカ"というイメージが今一つ浮かばなかったが、「あ、フランスパン……」とMr.3はポツリと呟いた。本当にわかりやすい。
群衆の中で程無くしてサッチとMr.3が無事に合流すると、それを確認したバギーは、海軍の目を逸らす為にハデに行動を起こして自分に心酔する囚人達と共に盛大に声を上げて暴れ(逃げ?)始めた。
更にそれ以外の(心酔していない真面な)囚人達は、戦うふりをしながら怪我を負った白ひげ海賊団の者達の救出をして、少しずつ前線から下がって船へと誘導して行く。そして、そんな彼らをサポートするのがイワンコフと彼が率いるカマバッカの者達だ。
急増チームの割に統率が取れてやがる。どうやったのかは知らねェが大した女だ。と、モビー・ディック号から戦況を見つめていた白ひげはグラグラグラと笑った。
こうして徐々に撤退を始める白ひげ海賊団の動きは、まだ海軍の者には気付かれていない。何故なら彼らの意識がルフィ、ジンベエ、クロコダイル、Mr.1、マルコ、そしてヤヒロに向けられているからだ。
ルフィはジンベエのサポートに守られつつエースの処刑台を目指して突っ走る。更に彼らを守るように戦っているのがクロコダイルとMr.1だ。
その様を視界に捉えたドフラミンゴは不敵な笑みを浮かべるとハルタの攻撃を往なして逃走した。
「あ! くそっ! あいつ逃げた!!」
「ハルタ隊長!」
各隊長は全隊員の撤退をスムーズに行う為、後続に立って海軍の追撃を打ち払うことに専念しなくてはならない。
「わかってる! 動くよ!!」
悔しい気持ちを押し殺しながらハルタは踵を返してその場を後にした。
一方、ドフラミンゴはクロコダイルの前に立ちはだかって声を掛けた。
「元王下七武海とは思えねェなァクロコダイル」
「あァ?」
「女の指示に従うたァ落ちたもんだ。どうだ? おれの傘下に入らねェか?」
「おれは誰の下にも就く気はねェ」
「フッフッフッ! じゃあ今のお前は何だ? 言ってることとやってることが違ェようだが?」
「おれの意志で動いてやっていることだ。てめェにどうこう言われる筋合いは無ェな」
クロコダイルが腕を砂に変えながら笑みを浮かべると、ドフラミンゴは眉間に皺を寄せて額に青筋を張った。だが直ぐに口角を上げてクロコダイルに攻撃を仕掛ける。
「ワニさん!」
「こいつはおれが相手をする。先に行け」
「わかった! ドフラミンゴ! ワニさんを傷付けんなよ! 宜しくな!」
「!」
『また会ったらそん時は宜しくな!』
海上で別れ際に言われた言葉を思い出したドフラミンゴは、自身の腕にあるミサンガに視線を落として舌打ちをした。そして、クロコダイルへの攻撃を止めて踵を返した。
「おい、どこに行くドフラミンゴ」
「戦う気が削がれた。なァ、ワニさん」
「……」
「ヤヒロ、この仮はいずれ高くつけさせてもらうからな」
くつくつと喉を鳴らして笑うドフラミンゴはそこから離れて戦線を離脱した。
まさかドフラミンゴに『ワニさん』呼ばわりされるとは……。甚だ遺憾だ。酷く気分を害してイラついたクロコバイルは苦々しい表情を浮かべて舌打ちをした。そして、ヤヒロ達から離れた今は撤退するに越したことは無い。
視界の端に見えるモビー・ディック号。そこに憎き白ひげの姿を捉えたが、今はもうどうでも良いと思うことが不思議だった。
あれだけ殺してやりてェと思ってたんだがな……。
監獄で何度も顔を合わせた時のヤヒロの顔が思い浮かぶ時点で、その気が完全に削がれてしまったのだと思い知った。
「Mr.1、撤退だ」
「了解した」
二人はこの戦いから早々に身を引いた。
丁度その折――
「くっ! どこへ行く鷹の目!!」
「戦いたい相手がいるんでな」
「何!?」
ミホークはビスタの剣を弾くと同時にその場から退いて別の方向へ向かって走って行った。
何だかんだと世界一の剣豪と戦えた。それなりに十分楽しめた。と、ビスタはふゥと息を吐くと自分の持ち場へと戻ってハルタと合流した。そして、徐々に撤退へと行動を移した。
「げっ!? あいつは!?」
目の前に黒刀を手にした鷹の目が現れたことで、ルフィは思わず足を止めようとした。
「走れルフィ!」
「え"!?」
「私を信じろ! エースを助けてェなら行け!!」
「でも、あいつは!」
「おい、忘れてねェだろうな!?」
「ッ…! お、おー、覚えてる!!」
此処に来るまでにヤヒロと交わした会話の記憶が蘇る。
「ルフィはエースの処刑台に突っ走れ」
「おう! そのつもりだ!!」
「何があっても止まるな。止まったら蹴飛ばすからな」
「わかった! ヤヒロに蹴り殺されねェように頑張る!」
やべェ!止まったら蹴られる!ヤヒロの蹴りは尋常じゃねェほど痛ェんだ!!
先の訓練の賜物だろうか。尋常では無い程の必死な形相でルフィは走った。
「……」
麦わらの力量を推し量る…以前の問題だな。
恐怖に駆られたルフィの様子に若干引いたミホークは溜息を吐いた。そして、ルフィをスルーして、その後方にいたヤヒロと久方のぶりの対面を果たした。
「ミホーク…ッ!?」
「やはり戦いたいと思ってな」
ミホークは問答無用で本気の斬撃をヤヒロに向けて放った。それに驚いたヤヒロは一瞬の判断が遅れて避け切れないと思った。その時、青い炎が目の前に飛び込むのが見えた。
ズガァァン!!
衝撃音と共に土煙が舞い上がる。
「ッ……、マル…コ…」
軽く咳き込みながらヤヒロは目の前に立つマルコの背中を見つめた。
「てめェ……、鷹の目! 本気で攻撃しやがって正気かよい!?」
「何をそんなに怒る必要がある。おれは当然のことをしたまでだ」
「本気で言ってんのかよい……?」
「あァ」
再生の能力で負傷した傷が修復されていく様にヤヒロはグッと息を飲んだ。そして、視線をミホークに移した。相変わらず表情一つ変えることは無く冷静な様相に、ふぅと息を吐いてマルコの背中にそっと手を伸ばした。
「!」
背中に触れる感覚にピクンと反応したマルコは振り向いた。
「マルコ、守ってくれてありがとう」
「ヤヒロ……?」
少しだけ――
墓前の前に佇むマルコの背に触れた時のことを思い出しながら、ヤヒロはマルコにだけ聞こえる声で話し掛けた。その内容はマルコにとって不服なものだったのか、マルコは眉間に皺を寄せた。苦々しい表情を浮かべて、本気かよ?と小声で返すマルコにヤヒロはコクンと頷いた。
「本当に良いんだな?」
「ハハ、マジだ」
「はァ……、わかったよい。けど、無理だけはすんなよい。おれは事を済ませたら直ぐに戻るが、危険だと判断したら問答無用で割り込む。良いな?」
「ん、了解」
マルコはミホークとヤヒロの間から退いた。そして、両腕に青い炎を灯した。
「あ、マルコ」
「なんだ?」
「勝利祝いの宴に、一対一で飲み比べしような」
「は……?」
どういう神経してんだとマルコは思った。何故ここでそんな約束を取り付けんだとばかりにジト目を向けた。
「約束だぞ」
「ちょっ……、それは」
「あ、今、決定事項にした」
「ッ……!」
マルコの返事は大体わかる。だから聞いてやらない。と、にぱっと笑ったヤヒロはマルコの背中を軽く叩いた。一瞬だけ意識が遠くなった気がしたマルコだったが、頭を振って溜息を吐いた。だが直ぐにくつくつと喉を鳴らして軽く笑うとコクリと頷いた。
半獣型になったマルコは両翼を羽ばたかせると「じゃ、後は頼んだよい」と一言残してその場から飛び去って行った。
身構えていたミホークは、飛び去るマルコを見送ると視線をヤヒロに戻した。
「何のつもりだ」
「どうもこうも戦いてェんだろ?」
「本気か?」
「そりゃあ、できれば止めたい。けど、シャンクスにも言われたしなァ。一度だけ手合せしたら納得してくれるだろ?」
軽く首を左右に動かしてコキコキと鳴らすヤヒロに、真一文字に固く結ばれたミホークの口元が緩んで孤を描いた。
「フッ…、成程。ならば遠慮無く戦わせてもらおう」
「あー! 言っておくけど!」
「なんだ?」
「訓練だぞ」
「何?」
「戦いは”殺し合い”だ。私はミホークとそれはしたくねェから、今から行うのは訓練。もしくは試合。あ、喧嘩でも良いぞ。まァ、そんな感じで宜しく」
「お前と戦えるのなら何でも構わん」
笑みを浮かべたミホークは黒刀を構えた。一方、その辺に落ちていた剣を拾い上げたヤヒロは、こんな感じかなといった具合で適当に構えてみた。
その様子にヤヒロを推し量るべく観察していた青雉のクザンは軽く目を丸くした。
「あらら、本気で鷹の目と戦う気か? いくら何でも無理でしょ」
そう思うのはクザンだけでは無い。他の海兵達も、また、白ひげ海賊団の隊員達やインペルダウンの囚人達も同じような気持ちで二人の動向を見守っていた。
だが――
次の瞬間、戦場に戦慄が走る。
「行くぞ」
ズガァァン!!
「!」
ミホークの斬撃を躱したヤヒロは瞬時にミホークの懐に入った。そして、手にした剣を振り下ろした。
ガキィィン!!
ミホークに簡単に受け止められて鍔迫り合いとなる。たったそれだけの一連の動きだけでヤヒロがどれだけ強いのかがわかる。
白ひげ海賊団の隊員達やインペルダウンの囚人達は、「凄ェ、世界一の剣豪と真面に戦ってる!」と、口々に言葉を漏らした。
そんな中――
鍔迫り合いをするミホークは超至近距離でニタァと笑みを浮かべたヤヒロに軽く目を丸くした。
なんだ…?
何だかとっても悪い笑みに思えた。だが、それは直ぐに消えると同時にヤヒロの表情は一転して威圧を持った狂気的なものへと変わった。その変わり様にミホークは思わず笑みを零した。
やはり、面白い! こうでなくてはな!
ガキィィン!!
鍔迫り合いから弾くようにお互いに距離を取ると、ミホークはすかさず攻撃に転じて連続で斬撃を繰り出した。一方、ヤヒロはその斬撃を受けずにヒラリと躱し続けた。巧みに足を動かしてまるで誘導するような動きだ。
ズドォォォン!!
ズガァァァン!!
ズドォォォン!!
ズガァァァン!!
「!」
ミホークは斬撃を止めた。あることに気付いたからだ。
「あれ? もうお終い?」
少し残念そうな表情を浮かべるヤヒロに、ミホークは小さく息を吐いた。
「ヤヒロ……、これが狙いか?」
「んー、何のことだ?」
軽く首を傾げたヤヒロだが、再びニタァとエグい程の悪い顔を浮かべた。
辺りはミホークの斬撃により土埃が激しく舞っている。ミホークとヤヒロの戦いを見つめていた隊員達や隊長達、インペルダウンの囚人達からは状況が今一つ把握できないでいた。――が、風でその土埃が消えると彼らは途端に絶叫した。
「「「えええええっ!!!???」」」
「うっ……かはっ……」
「う…うぅ……」
「痛ェ…痛ェよ……」
海兵達が無残にもボロボロになっているではないか。思わず海賊側の者達は絶句した。そして、察した。
世界一の大剣豪である鷹の目の斬撃を寸前で躱し続けていたヤヒロは、背後に必ず海兵達がいる位置に立ち、その斬撃を利用して海兵達を一掃したのだ。
「結構、狡猾な戦い方をするねェ」
「ちょっとやり過ぎじゃあないの?」
「舐めたことしちょるのう」
これには三大将もかなり腹が立ったようで、彼らの意識は全てヤヒロに向けられた。彼らだけではない。元帥のセンゴクやガープ、その他の中将や王下七武海の者達の意識もヤヒロに向けられた。
しかし、ミホークだけはヤヒロの意図が別にあることを察した。自分に注目を集める為に、わざと利用したか――と。
「たぶん、誰かが割り込む」
「……」
ヤヒロがそう言うと同時に眩い光がヤヒロとミホークの間に現れた。それは大将黄猿ボルサリーノだ。
「君、ちょっとやりすぎたねェ」
ボルサリーノは容赦の無い攻撃をヤヒロに向けて放とうとした。
「ぶは!!」
「んー? 何が面白いのかねェ」
思わず吹き出したヤヒロは咄嗟に手で口元を抑え、涙目で顔を真っ赤にしながらプルプルと身体を震わせた。それにミホークは眉をピクリと動かしてヤヒロを見つめた。おれとは端から真面に戦う気は無かったか、と。
「君、失礼だよ〜?」
ボルサリーノは足に光を集めて蹴りを放った。その時、ヒュンッと風を切る音がすると同時にガキィィン!!衝撃音が発した。
「んー……、これはどういうことかな?」
説明してくれるかなァ鷹の目?と、ボルサリーノはヤヒロに向けて放った蹴りを黒刀で妨害したミホークに視線を向けた。
「気が変わった」
「ダメでしょ〜。王下七武海の立場で海賊に味方するのはどうかと思うよ〜?」
ボルサリーノは眉間に皺を寄せて睨み付けるが、ミホークは平然としていつもと変わらない表情だった。
その時、またしてもヒュンッと風を切るような音がした――と同時にボルサリーノは目を見張った。
「悪い! 邦衛! ご退場願う!!」
「!?」
バキッ!!!!
ヤヒロがボルサリーノに右ストレートを放って左頬をぶん殴った。殴られたボルサリーノは勢い良く吹き飛んで遥か先の壁にズドォォォォン!!!と激突した。
「なっ!? 黄猿さん!!」
「な、殴っただと!?」
「ば、バカな!? 何じゃあやつは!?」
「あらら、これはちょっとヤバいんじゃないの?」
「覇気を纏っておりゃあせんというのに、どういうことじゃ?」
パンパンパンッ
両手を叩くヤヒロの隣でミホークは少しばかり首を傾げた。
くにえ……とは何だ?と、細かい事が気になるのはミホークの悪い癖だったりする。そんな彼を前にヤヒロは肩を回して首をコキコキと鳴らした。
「ミホーク、私はあんたを信じてるからな」
「……危なくなったら加勢してやろう」
「できればエースを救出している彼らを助けてやって欲しいんだけどな」
「勘違いするなヤヒロ」
「……」
「おれは誰の味方にもならん。だがお前の味方にはなってやる。そう言ったはずだ」
ヤヒロはミホークに視線を向けるとミホークは少しだけ笑みを浮かべていた。その笑みは白ひげ海賊団に乗る為に別れ際に見せた笑みと同じだった。
「ッ……」
少しだけ目を丸くしたヤヒロは、ミホークから視線を外して少しだけ頬を赤くしてポリポリと頬を掻いた。
「……ありがとう」
ポツリと呟いたヤヒロに、ふっと軽く鼻を鳴らしてミホークは微笑しながら黒刀を背に収めた。
◇
吹き飛ばされたボルサリーノは殴られた頬に手を当て、痛みの為か眉間に皺を寄せながらフラフラと立ち上がった。
何者だろうねェ。ひょっとしたら白ひげより脅威かもしれないなァ。
思いのほかダメージが酷く、ボルサリーノの目付きは鋭くなってヤヒロを睨み付けた。
踵を返して広場の中央に立ったヤヒロは、処刑台に立つセンゴクやその横にいるガープ、そして、赤犬サカズキと青雉クザン、黄猿ボルサリーノと視線を動かして、最後に目の前にいる中将達へと見やった。
クツリと小さく笑みを浮かべたヤヒロは、ふぅーと息を深く吐き出すと非常に鋭い眼光へと変えて、冷酷で無慈悲な表情に好戦的なオーラで持って彼らに背を向けた。そして、親指で背中を指し示しながら声を盛大に張り上げて言い放つ。
「私は白ひげ海賊団エドワード・ニューゲートの娘! 赤龍と青不死鳥を背負う音速の鬼神! 夜叉鬼神7代目総長真嶋八尋だ! 覚えやがれ!!」
正面に向き直して中指を立てた右手を付き出して見せながら尚も続ける。
「ここから先は私の仲間を、家族を傷付けるようなら容赦しねェ! 戦うのなら覚悟しやがれ! わかったか海軍!!」
「ぐっ…! お、おのれ、どこまで侮辱する気だ! 小娘風情が!!」
怒りに打ち震えたセンゴクは、ワナワナしながら電伝虫を手にした。
「予定を早める! 死刑執行部隊! 直ちに処刑台へ来い!」
「了解」
予定を大幅に早めてエースの処刑を実行することにしたセンゴク。その一方では、三大将がゆらりと立ってヤヒロへと敵意を向ける。
ミホークはヤヒロをその場に残して中心から離れた場所に移動して様子を見ることにした。だがまずは両手を組んで目を瞑ると深呼吸を繰り返した。
ヤヒロが放つ異様な空気に触れると、やはりヤヒロと本気で戦いたいと思う気持ちが自ずと沸き起こる。
もし戦うなら、全てが終わった後だ。と、欲求を抑えることに集中する。
ヤヒロ対海軍の戦い。そして、エースの処刑阻止及び奪還組の戦いは山場を迎えるのだった。
『退路を開け』
電伝虫により後方にいる傘下の各船に連絡する。
これはヤヒロと別れる前に二人で算段したもので、白ひげ海賊団全員にも事前に知らせてある約束事だ。
エース奪還の為に接近する船は三隻のみ。それ以外の傘下の船はこの時の為に距離を保ち後続で待機。
エース奪還は少人数で行う。残りの者は負傷者を助けて撤退に全力を注ぐこと。
単独行動は隊長と言えども禁止。必ず二人以上五人以下のチームで行動し、危険を感じたら無理をせずに近くのチームの救援を待つこと。
必ず、誰一人、決して欠けることの無いように、細心の注意と、”逃げ”に対する勇気を持て。
この戦いは『生き残ること』が勝利であることを忘れないでほしい。
「オヤジ、全艦隊には連絡したから、おれはそろそろ次に移るぜ」
「あァ、わかった。サッチ、予定通り事を進めろ」
頷いたサッチはこっそりとモビー・ディック号を降りて隠密行動を開始した。
囚人達の元に近付くと辺りを見回してある人物を探しつつヤヒロから受けた指示を頭の中で何度も反芻する。
サッチはMr.3と共に海軍内部に侵入して処刑員と入れ替わってエースに接近して欲しい。Mr.3にはエースの錠を外すカギを事前に渡しとくから、タイミングを見て錠を外して。それからはエースとMr.3と全力で逃げること。エースは挑発に乗りやすいからサッチに任せるよ――と。
『数字の3を頂きに掲げてるから直ぐにわかるよ』と、そう言われて、"3を頂きに掲げてる"の意味がよくわからなかったが、「あ、3……」とサッチは思わず呟いた。本当にわかりやすい。
一方、囚人達の中をこっそり移動して辺りを見回しながらある人物を探しているMr.3。
サッチっていうんだけど、彼と一緒に海軍内部に侵入して処刑員と入れ替わって欲しいんだ。エースの錠のカギは事前に渡しておく。万が一の事も考えて蝋で型を取っといて。んで、タイミングを見て錠を外したら三人で全力で逃げる。必ずその時は私が後続を阻止するからさ。頼むよMr.3――と、手を繋がれて頼まれたら断れないガネ!!と心の中が彩り豊かな花畑と化して叫んだ数刻前を思い出しがら特徴を探す。
『フランスパンみたいなトサカをしたリーゼントヘアスタイルだから直ぐにわかるよ』と、そう言われて、"フランスパンみたいなトサカ"というイメージが今一つ浮かばなかったが、「あ、フランスパン……」とMr.3はポツリと呟いた。本当にわかりやすい。
群衆の中で程無くしてサッチとMr.3が無事に合流すると、それを確認したバギーは、海軍の目を逸らす為にハデに行動を起こして自分に心酔する囚人達と共に盛大に声を上げて暴れ(逃げ?)始めた。
更にそれ以外の(心酔していない真面な)囚人達は、戦うふりをしながら怪我を負った白ひげ海賊団の者達の救出をして、少しずつ前線から下がって船へと誘導して行く。そして、そんな彼らをサポートするのがイワンコフと彼が率いるカマバッカの者達だ。
急増チームの割に統率が取れてやがる。どうやったのかは知らねェが大した女だ。と、モビー・ディック号から戦況を見つめていた白ひげはグラグラグラと笑った。
こうして徐々に撤退を始める白ひげ海賊団の動きは、まだ海軍の者には気付かれていない。何故なら彼らの意識がルフィ、ジンベエ、クロコダイル、Mr.1、マルコ、そしてヤヒロに向けられているからだ。
ルフィはジンベエのサポートに守られつつエースの処刑台を目指して突っ走る。更に彼らを守るように戦っているのがクロコダイルとMr.1だ。
その様を視界に捉えたドフラミンゴは不敵な笑みを浮かべるとハルタの攻撃を往なして逃走した。
「あ! くそっ! あいつ逃げた!!」
「ハルタ隊長!」
各隊長は全隊員の撤退をスムーズに行う為、後続に立って海軍の追撃を打ち払うことに専念しなくてはならない。
「わかってる! 動くよ!!」
悔しい気持ちを押し殺しながらハルタは踵を返してその場を後にした。
一方、ドフラミンゴはクロコダイルの前に立ちはだかって声を掛けた。
「元王下七武海とは思えねェなァクロコダイル」
「あァ?」
「女の指示に従うたァ落ちたもんだ。どうだ? おれの傘下に入らねェか?」
「おれは誰の下にも就く気はねェ」
「フッフッフッ! じゃあ今のお前は何だ? 言ってることとやってることが違ェようだが?」
「おれの意志で動いてやっていることだ。てめェにどうこう言われる筋合いは無ェな」
クロコダイルが腕を砂に変えながら笑みを浮かべると、ドフラミンゴは眉間に皺を寄せて額に青筋を張った。だが直ぐに口角を上げてクロコダイルに攻撃を仕掛ける。
「ワニさん!」
「こいつはおれが相手をする。先に行け」
「わかった! ドフラミンゴ! ワニさんを傷付けんなよ! 宜しくな!」
「!」
『また会ったらそん時は宜しくな!』
海上で別れ際に言われた言葉を思い出したドフラミンゴは、自身の腕にあるミサンガに視線を落として舌打ちをした。そして、クロコダイルへの攻撃を止めて踵を返した。
「おい、どこに行くドフラミンゴ」
「戦う気が削がれた。なァ、ワニさん」
「……」
「ヤヒロ、この仮はいずれ高くつけさせてもらうからな」
くつくつと喉を鳴らして笑うドフラミンゴはそこから離れて戦線を離脱した。
まさかドフラミンゴに『ワニさん』呼ばわりされるとは……。甚だ遺憾だ。酷く気分を害してイラついたクロコバイルは苦々しい表情を浮かべて舌打ちをした。そして、ヤヒロ達から離れた今は撤退するに越したことは無い。
視界の端に見えるモビー・ディック号。そこに憎き白ひげの姿を捉えたが、今はもうどうでも良いと思うことが不思議だった。
あれだけ殺してやりてェと思ってたんだがな……。
監獄で何度も顔を合わせた時のヤヒロの顔が思い浮かぶ時点で、その気が完全に削がれてしまったのだと思い知った。
「Mr.1、撤退だ」
「了解した」
二人はこの戦いから早々に身を引いた。
丁度その折――
「くっ! どこへ行く鷹の目!!」
「戦いたい相手がいるんでな」
「何!?」
ミホークはビスタの剣を弾くと同時にその場から退いて別の方向へ向かって走って行った。
何だかんだと世界一の剣豪と戦えた。それなりに十分楽しめた。と、ビスタはふゥと息を吐くと自分の持ち場へと戻ってハルタと合流した。そして、徐々に撤退へと行動を移した。
「げっ!? あいつは!?」
目の前に黒刀を手にした鷹の目が現れたことで、ルフィは思わず足を止めようとした。
「走れルフィ!」
「え"!?」
「私を信じろ! エースを助けてェなら行け!!」
「でも、あいつは!」
「おい、忘れてねェだろうな!?」
「ッ…! お、おー、覚えてる!!」
此処に来るまでにヤヒロと交わした会話の記憶が蘇る。
「ルフィはエースの処刑台に突っ走れ」
「おう! そのつもりだ!!」
「何があっても止まるな。止まったら蹴飛ばすからな」
「わかった! ヤヒロに蹴り殺されねェように頑張る!」
やべェ!止まったら蹴られる!ヤヒロの蹴りは尋常じゃねェほど痛ェんだ!!
先の訓練の賜物だろうか。尋常では無い程の必死な形相でルフィは走った。
「……」
麦わらの力量を推し量る…以前の問題だな。
恐怖に駆られたルフィの様子に若干引いたミホークは溜息を吐いた。そして、ルフィをスルーして、その後方にいたヤヒロと久方のぶりの対面を果たした。
「ミホーク…ッ!?」
「やはり戦いたいと思ってな」
ミホークは問答無用で本気の斬撃をヤヒロに向けて放った。それに驚いたヤヒロは一瞬の判断が遅れて避け切れないと思った。その時、青い炎が目の前に飛び込むのが見えた。
ズガァァン!!
衝撃音と共に土煙が舞い上がる。
「ッ……、マル…コ…」
軽く咳き込みながらヤヒロは目の前に立つマルコの背中を見つめた。
「てめェ……、鷹の目! 本気で攻撃しやがって正気かよい!?」
「何をそんなに怒る必要がある。おれは当然のことをしたまでだ」
「本気で言ってんのかよい……?」
「あァ」
再生の能力で負傷した傷が修復されていく様にヤヒロはグッと息を飲んだ。そして、視線をミホークに移した。相変わらず表情一つ変えることは無く冷静な様相に、ふぅと息を吐いてマルコの背中にそっと手を伸ばした。
「!」
背中に触れる感覚にピクンと反応したマルコは振り向いた。
「マルコ、守ってくれてありがとう」
「ヤヒロ……?」
少しだけ――
墓前の前に佇むマルコの背に触れた時のことを思い出しながら、ヤヒロはマルコにだけ聞こえる声で話し掛けた。その内容はマルコにとって不服なものだったのか、マルコは眉間に皺を寄せた。苦々しい表情を浮かべて、本気かよ?と小声で返すマルコにヤヒロはコクンと頷いた。
「本当に良いんだな?」
「ハハ、マジだ」
「はァ……、わかったよい。けど、無理だけはすんなよい。おれは事を済ませたら直ぐに戻るが、危険だと判断したら問答無用で割り込む。良いな?」
「ん、了解」
マルコはミホークとヤヒロの間から退いた。そして、両腕に青い炎を灯した。
「あ、マルコ」
「なんだ?」
「勝利祝いの宴に、一対一で飲み比べしような」
「は……?」
どういう神経してんだとマルコは思った。何故ここでそんな約束を取り付けんだとばかりにジト目を向けた。
「約束だぞ」
「ちょっ……、それは」
「あ、今、決定事項にした」
「ッ……!」
マルコの返事は大体わかる。だから聞いてやらない。と、にぱっと笑ったヤヒロはマルコの背中を軽く叩いた。一瞬だけ意識が遠くなった気がしたマルコだったが、頭を振って溜息を吐いた。だが直ぐにくつくつと喉を鳴らして軽く笑うとコクリと頷いた。
半獣型になったマルコは両翼を羽ばたかせると「じゃ、後は頼んだよい」と一言残してその場から飛び去って行った。
身構えていたミホークは、飛び去るマルコを見送ると視線をヤヒロに戻した。
「何のつもりだ」
「どうもこうも戦いてェんだろ?」
「本気か?」
「そりゃあ、できれば止めたい。けど、シャンクスにも言われたしなァ。一度だけ手合せしたら納得してくれるだろ?」
軽く首を左右に動かしてコキコキと鳴らすヤヒロに、真一文字に固く結ばれたミホークの口元が緩んで孤を描いた。
「フッ…、成程。ならば遠慮無く戦わせてもらおう」
「あー! 言っておくけど!」
「なんだ?」
「訓練だぞ」
「何?」
「戦いは”殺し合い”だ。私はミホークとそれはしたくねェから、今から行うのは訓練。もしくは試合。あ、喧嘩でも良いぞ。まァ、そんな感じで宜しく」
「お前と戦えるのなら何でも構わん」
笑みを浮かべたミホークは黒刀を構えた。一方、その辺に落ちていた剣を拾い上げたヤヒロは、こんな感じかなといった具合で適当に構えてみた。
その様子にヤヒロを推し量るべく観察していた青雉のクザンは軽く目を丸くした。
「あらら、本気で鷹の目と戦う気か? いくら何でも無理でしょ」
そう思うのはクザンだけでは無い。他の海兵達も、また、白ひげ海賊団の隊員達やインペルダウンの囚人達も同じような気持ちで二人の動向を見守っていた。
だが――
次の瞬間、戦場に戦慄が走る。
「行くぞ」
ズガァァン!!
「!」
ミホークの斬撃を躱したヤヒロは瞬時にミホークの懐に入った。そして、手にした剣を振り下ろした。
ガキィィン!!
ミホークに簡単に受け止められて鍔迫り合いとなる。たったそれだけの一連の動きだけでヤヒロがどれだけ強いのかがわかる。
白ひげ海賊団の隊員達やインペルダウンの囚人達は、「凄ェ、世界一の剣豪と真面に戦ってる!」と、口々に言葉を漏らした。
そんな中――
鍔迫り合いをするミホークは超至近距離でニタァと笑みを浮かべたヤヒロに軽く目を丸くした。
なんだ…?
何だかとっても悪い笑みに思えた。だが、それは直ぐに消えると同時にヤヒロの表情は一転して威圧を持った狂気的なものへと変わった。その変わり様にミホークは思わず笑みを零した。
やはり、面白い! こうでなくてはな!
ガキィィン!!
鍔迫り合いから弾くようにお互いに距離を取ると、ミホークはすかさず攻撃に転じて連続で斬撃を繰り出した。一方、ヤヒロはその斬撃を受けずにヒラリと躱し続けた。巧みに足を動かしてまるで誘導するような動きだ。
ズドォォォン!!
ズガァァァン!!
ズドォォォン!!
ズガァァァン!!
「!」
ミホークは斬撃を止めた。あることに気付いたからだ。
「あれ? もうお終い?」
少し残念そうな表情を浮かべるヤヒロに、ミホークは小さく息を吐いた。
「ヤヒロ……、これが狙いか?」
「んー、何のことだ?」
軽く首を傾げたヤヒロだが、再びニタァとエグい程の悪い顔を浮かべた。
辺りはミホークの斬撃により土埃が激しく舞っている。ミホークとヤヒロの戦いを見つめていた隊員達や隊長達、インペルダウンの囚人達からは状況が今一つ把握できないでいた。――が、風でその土埃が消えると彼らは途端に絶叫した。
「「「えええええっ!!!???」」」
「うっ……かはっ……」
「う…うぅ……」
「痛ェ…痛ェよ……」
海兵達が無残にもボロボロになっているではないか。思わず海賊側の者達は絶句した。そして、察した。
世界一の大剣豪である鷹の目の斬撃を寸前で躱し続けていたヤヒロは、背後に必ず海兵達がいる位置に立ち、その斬撃を利用して海兵達を一掃したのだ。
「結構、狡猾な戦い方をするねェ」
「ちょっとやり過ぎじゃあないの?」
「舐めたことしちょるのう」
これには三大将もかなり腹が立ったようで、彼らの意識は全てヤヒロに向けられた。彼らだけではない。元帥のセンゴクやガープ、その他の中将や王下七武海の者達の意識もヤヒロに向けられた。
しかし、ミホークだけはヤヒロの意図が別にあることを察した。自分に注目を集める為に、わざと利用したか――と。
「たぶん、誰かが割り込む」
「……」
ヤヒロがそう言うと同時に眩い光がヤヒロとミホークの間に現れた。それは大将黄猿ボルサリーノだ。
「君、ちょっとやりすぎたねェ」
ボルサリーノは容赦の無い攻撃をヤヒロに向けて放とうとした。
「ぶは!!」
「んー? 何が面白いのかねェ」
思わず吹き出したヤヒロは咄嗟に手で口元を抑え、涙目で顔を真っ赤にしながらプルプルと身体を震わせた。それにミホークは眉をピクリと動かしてヤヒロを見つめた。おれとは端から真面に戦う気は無かったか、と。
「君、失礼だよ〜?」
ボルサリーノは足に光を集めて蹴りを放った。その時、ヒュンッと風を切る音がすると同時にガキィィン!!衝撃音が発した。
「んー……、これはどういうことかな?」
説明してくれるかなァ鷹の目?と、ボルサリーノはヤヒロに向けて放った蹴りを黒刀で妨害したミホークに視線を向けた。
「気が変わった」
「ダメでしょ〜。王下七武海の立場で海賊に味方するのはどうかと思うよ〜?」
ボルサリーノは眉間に皺を寄せて睨み付けるが、ミホークは平然としていつもと変わらない表情だった。
その時、またしてもヒュンッと風を切るような音がした――と同時にボルサリーノは目を見張った。
「悪い! 邦衛! ご退場願う!!」
「!?」
バキッ!!!!
ヤヒロがボルサリーノに右ストレートを放って左頬をぶん殴った。殴られたボルサリーノは勢い良く吹き飛んで遥か先の壁にズドォォォォン!!!と激突した。
「なっ!? 黄猿さん!!」
「な、殴っただと!?」
「ば、バカな!? 何じゃあやつは!?」
「あらら、これはちょっとヤバいんじゃないの?」
「覇気を纏っておりゃあせんというのに、どういうことじゃ?」
パンパンパンッ
両手を叩くヤヒロの隣でミホークは少しばかり首を傾げた。
くにえ……とは何だ?と、細かい事が気になるのはミホークの悪い癖だったりする。そんな彼を前にヤヒロは肩を回して首をコキコキと鳴らした。
「ミホーク、私はあんたを信じてるからな」
「……危なくなったら加勢してやろう」
「できればエースを救出している彼らを助けてやって欲しいんだけどな」
「勘違いするなヤヒロ」
「……」
「おれは誰の味方にもならん。だがお前の味方にはなってやる。そう言ったはずだ」
ヤヒロはミホークに視線を向けるとミホークは少しだけ笑みを浮かべていた。その笑みは白ひげ海賊団に乗る為に別れ際に見せた笑みと同じだった。
「ッ……」
少しだけ目を丸くしたヤヒロは、ミホークから視線を外して少しだけ頬を赤くしてポリポリと頬を掻いた。
「……ありがとう」
ポツリと呟いたヤヒロに、ふっと軽く鼻を鳴らしてミホークは微笑しながら黒刀を背に収めた。
◇
吹き飛ばされたボルサリーノは殴られた頬に手を当て、痛みの為か眉間に皺を寄せながらフラフラと立ち上がった。
何者だろうねェ。ひょっとしたら白ひげより脅威かもしれないなァ。
思いのほかダメージが酷く、ボルサリーノの目付きは鋭くなってヤヒロを睨み付けた。
踵を返して広場の中央に立ったヤヒロは、処刑台に立つセンゴクやその横にいるガープ、そして、赤犬サカズキと青雉クザン、黄猿ボルサリーノと視線を動かして、最後に目の前にいる中将達へと見やった。
クツリと小さく笑みを浮かべたヤヒロは、ふぅーと息を深く吐き出すと非常に鋭い眼光へと変えて、冷酷で無慈悲な表情に好戦的なオーラで持って彼らに背を向けた。そして、親指で背中を指し示しながら声を盛大に張り上げて言い放つ。
「私は白ひげ海賊団エドワード・ニューゲートの娘! 赤龍と青不死鳥を背負う音速の鬼神! 夜叉鬼神7代目総長真嶋八尋だ! 覚えやがれ!!」
正面に向き直して中指を立てた右手を付き出して見せながら尚も続ける。
「ここから先は私の仲間を、家族を傷付けるようなら容赦しねェ! 戦うのなら覚悟しやがれ! わかったか海軍!!」
「ぐっ…! お、おのれ、どこまで侮辱する気だ! 小娘風情が!!」
怒りに打ち震えたセンゴクは、ワナワナしながら電伝虫を手にした。
「予定を早める! 死刑執行部隊! 直ちに処刑台へ来い!」
「了解」
予定を大幅に早めてエースの処刑を実行することにしたセンゴク。その一方では、三大将がゆらりと立ってヤヒロへと敵意を向ける。
ミホークはヤヒロをその場に残して中心から離れた場所に移動して様子を見ることにした。だがまずは両手を組んで目を瞑ると深呼吸を繰り返した。
ヤヒロが放つ異様な空気に触れると、やはりヤヒロと本気で戦いたいと思う気持ちが自ずと沸き起こる。
もし戦うなら、全てが終わった後だ。と、欲求を抑えることに集中する。
ヤヒロ対海軍の戦い。そして、エースの処刑阻止及び奪還組の戦いは山場を迎えるのだった。
頂上戦争 C
【〆栞】