30
ヤヒロの目の前に迫ったのは、王下七武海の一人である女帝ボア・ハンコックだ。
ルフィとヤヒロの仲を見たハンコックは、ただならぬ絆がそこにあると感じた。
この気持ちが何たるかはわかっていない。
しかし、ハンコックは無性にヤヒロを攻撃したくなった。
「わらわが相手じゃ!」
「あ、ハンコック!」
怒れるハンコックに対してニパッと笑顔を見せるヤヒロ。
あれは明らかに嫉妬心に燃えた女の顔をして凄んでいるのに、こちらは慣れ親しんだ友達風に懐っこい顔をして手まで振っている。
なんとも対照的な二人。
間に挟まれた海兵(主に一等兵)達は唖然として立ち尽くしている。――が、海兵達の意識は主にヤヒロへと向けられている。
あの女帝ハンコックの怒りを前にして怯むどころか気さくな笑みを見せる女。
鷹の目のミホークと互角に渡り合う女。
三大将及び王下七武海、全中将、そして元帥センゴクを前に啖呵を切って見せた女。
(((一体何者!?)))
恐れなのか何なのかはわからない。海兵達は武器を手にしつつも構えることさえできないでいる。
目はヤヒロに釘付けだが足は動かない。他の白ひげ海賊団やインペルダウンの囚人達を追いかけて戦わなければいけないのに空気がそうはさせてくれない。
〜〜〜〜〜
ミホークと戦えば注目は私に集まる。だからその間にエースの弟とジンベエを援護して処刑台に向かってくれ。
守ってやって欲しいんだ。私では無く、あの兄弟を。
私の強さは誰よりも知ってるだろ?
大丈夫。
だから信じて欲しい。私もマルコを信じてるから。
〜〜〜〜〜
ミホークを前にして小声で話し掛けて来たヤヒロの言葉通りに海兵の殆どがヤヒロに意識を向けている。
ヤヒロの威圧に飲まれたか。あれでは誰の命令であっても誰一人動けやしねェよい。と、マルコは背後を窺いつつルフィに攻撃しようとする中将を蹴り飛ばした。
「はァ…はァ…、すまねェ!」
足を取られて地面に転がったルフィは息を切らしながら礼を口にした。それにマルコはクッと喉を鳴らして小さく笑って手を差し伸べた。
「おれが援護する。エースの弟、お前は周りを気にせず真っ直ぐ走れ」
「え…? けど、」
「ルフィ君! 彼は白ひげ海賊団の1番隊隊長不死鳥マルコじゃ! 強さはわしが保証する!」
「だとよい。信用してくれるかい?」
「……わかった。恩に着るよ」
「良いってことよい」
マルコの手を掴んだルフィは再び処刑台に向かって走り出した。ジンベエとマルコがその周りを蹴散らして道を作って行く。
前線を行く三人の後ろを追う海兵達を蹴散らして援護するイワンコフは、不死鳥マルコが援護してくれるなんて心強いわね!と言いつつ更に言葉を続けた。「悪いわね! ヴァナタの力が必要で!」と。
「お安いご用です。イワさん」
ご心配なく…と、イワンコフの髪からむくっと姿を現したのは彼は戦場に飛び降りると先行して走り抜け、能力を駆使して地面を切り付けて処刑台への架け橋を作った。
「カニちゃん!」
「あれは! 革命軍のイナズマ!!」
「ルフィ君! 行け!」
「おう! ありがとう!」
イナズマの横を走り抜けて架け橋へと踏み込むルフィ。そのイナズマに向かって攻撃を仕掛ける海兵とマルコとジンベエが蹴散らした。
駆け上がるルフィの背中に目を向けたマルコは、処刑台を目前にしてルフィの前に立ちはだかる海軍中将ガープの姿に目を見張り、思わず「エースの弟!」と声を上げた。
「爺ちゃん! どいてくれ!!」
「ルフィ! わしゃ海軍中将じゃ! ここを通りたくばわしを殺してでも通れ! 麦わらのルフィ!」
「!!」
「それがお前達の選んだ道じゃあ!」
ガープを目の前にしてルフィはできねェと口にした。しかし、できなければエースは死ぬだけだとガープが怒声を上げた。
嫌だ!――そう言い掛けた時、ルフィの頭の中で記憶がふっと蘇った。
〜〜〜〜〜
「ルフィ、ガープはわざと負ける。あの人はエースもルフィも大事だからだ。海軍としての誇りとお前達に対する愛を天秤にかけた時、彼はお前達を選ぶ。必ず。だから――」
〜〜〜〜〜
思いっ切り殴ってやれ!
そう、ヤヒロの言葉にハッとしたルフィは咄嗟にギア2へと態勢を変えた。
「ルフィ! お前を敵とみなす!!」
固めた拳をルフィへと向けるガープに、ルフィは力の限り拳を振り抜いた。その瞬間にガープは目を瞑った。
「ガープ! 貴様!」
センゴクはそれを見逃さなかった。
「うわあああああ!!」
ドゴォォォン!!
ガープの拳はルフィに当たらなかった。そして、ルフィの拳はガープを思いっきり殴り飛ばした。
貴様も人の親か、ガープ…!、とセンゴクはギリッと奥歯を噛み締めた。
「エースゥゥゥッ!!」
「ルフィ!!」
エースの処刑台まであと少し――その時だ。
ドォォン!
「!?」
飛来した溶岩によって処刑台へと繋がる架け橋が壊され、崩れ落ちる瓦礫と共にルフィは地面へと落下した。
「ゲホッ! コホッ! くそ、あと少しだったのに……」
瓦礫を押し退けて何とか立ち上がったルフィは息を切らしながらキッと睨み付けた。
殴られた頬を手で摩りながら身体を起こしたガープは、いかん!ルフィ!そいつは海軍の中でも最も強く容赦せん男じゃ!と、焦りの表情を浮かべる。
「そう簡単に処刑台に上がらせると思ちょるんか?」
ズシンと足音を鳴らして立ちはだかる大きな影。それは三大将の一人、サカズキだ。
ボコボコと音を立てて溶岩と化した右拳をルフィに向けて容赦無く放った。それに目を見張ったルフィは躱そうと足に力を入れた。しかし――
く! 動かねェ…!
身体は限界だった。マグマの拳が目の前に迫る。ルフィは思わずギュッと目を瞑った。
ボボボッ!
「!」
爆ぜる音にハッとしてルフィは目を開けた。青い炎が壁となってサカズキの拳を受け止めた。
「お前!」
「こいつはおれが止める! 早く行け!」
「ッ…悪い!」
マルコの声に弾かれるように身体が動いたルフィは、再び処刑台を目指して走り出した。
「白ひげ海賊団1番隊隊長不死鳥マルコ。お前の首をここで獲るのも悪くはないのう」
「けっ! そう簡単に獲られて堪るかよい!!」
受け止めたサカズキの拳を弾いたマルコは、武装色の覇気を纏った蹴りを放った。だが、サカズキはそれを意図も容易く腕で受け止めた。
流石は海軍最強ってところかよい!
マルコはチッ!と舌打ちをした。
「まずは不死鳥、お前からじゃ!」
「!」
「大噴火!!」
マグマに変化させた腕を巨大化させたサカズキは、灼熱の正拳突きをマルコに向けて容赦無く放とうとした。
その時――
ズガァァン!!
「!」
「!」
サカズキとマルコの間に薙刀が投げ込まれた。サカズキはマルコから視線を外して薙刀を投げ込んだ人物へと移した。一方のマルコも同じように目を向けると顔を強張らせた。
「グララララッ! おれの大事な息子に手出しはさせねェぞマグマ小僧!!」
「オヤジ! なんで出て来たんだよい! わかってんだろい!?」
「マルコ、心配すんじゃねェ。お前は自分のすべきことをやりやがれ」
「けどよいオヤジ!」
「グララララッ! おれァ娘を信じてんだ! 問題ねェ!」
「ッ……!」
白ひげはモビー・ディック号から降りてサカズキの前へと立ちはだかった。その光景は少し離れたヤヒロの視界にも入っていた。
「余所見とは余裕じゃのう!」
ハンコックが容赦無くヤヒロに蹴りを放った。おっと!と声を零しながらヤヒロは身を引いてそれを躱して距離を取った。
「ハンコック! なんで怒ってんのかわかんねェけど!!」
「えェい黙れ!! わらわとルフィの間を割く痴れ者の言うことなど聞かぬ!」
メラメラと炎を燃やすハンコックの言葉にヤヒロはきょとんとした。
「よくわかんねェけど、折角の美人で可愛いってのに、そんな風に怒ってちゃあ台無しだぞ! ルフィに嫌われても良いのか!」
「なっ!?」
「優しく微笑んでる方が絶対良いぞ!」
勿体無ェ面してんじゃねェって、とヤヒロは続けて言った。それに海兵達は思った。これは所謂『褒め殺し作戦』といったところかと。
「わ、わらわは……、わらわは……」
「ルフィとはただの友達だ! ぶっちゃけた話! 私はハンコックの恋路を応援してる側だからなマジで!!」
実はヤヒロにとってボア・ハンコックは、ニコ・ロビンと一、二を争う程に高順位で好きな女性キャラだった。自分自身が恋路に疎いながらも、ハンコックのルフィに対するピュアな想いは超絶可愛くて堪らなかった。
褒め殺し作戦だなんてとんでもない。
ハンコックに対するヤヒロの言葉は全て純粋なもので、『応援してる側』はガチな告白だった。
「そ、そなた、ヤヒロと申したな」
「おう! 私はハンコックが好きだから喧嘩したくねェ! それに、そんな可愛い顔は殴れねェし、殴りたくない」
ヤヒロはニッと笑って答えた。
「はう!」
ズキューーーン!!
ハンコックの胸に何かが突き抜けて行った。
「あァ、わらわにはルフィがいるというのに……、思わずこの者の言葉にトキメキを……」
ハンコックはくらりとよろけて地面に崩れ落ちた。手を口元に当ててワナワナと震えながら頬を赤く染める様は、まさに『THE 乙女』だった。それを見たヤヒロもまた胸キュンしたのは言うまでもない。
ハンコックはヤヒロに対する戦意を完全に無くした。それどころか海兵を蹴散らしてヤヒロの側に立ったのだ。
「なっ!? ボア・ハンコック! 貴様!! 裏切るのか!?」
「えェい! 黙れ!! わらわとヤヒロの女の友情は、下賤の輩にはわかるまい!!」
大きく身体を逸らしながら指を差して、どーん!と言い放つ。
いつもの女帝ボア・ハンコックがそこにあった。
「ふざけやがって!」
白煙のスモーカーがヤヒロに向かって攻撃しようとした。だがハンコックによって阻まれた。たしぎも刀を振るうが、ハンコックに阻まれてヤヒロに攻撃することができなかった。
「ハンコック、貴様!」
「わらわの大事な友を傷付ける輩はわらわが排除する! 頭が高い! そこになおれ!!」
どーん!!
またしても大きく身体を逸らしながら指を差して言い放つ女帝ボア・ハンコック。それに対してヤヒロは、本物を間近に見て、ちょっとだけミーハー心を擽られたか、凄く嬉しそうな笑みを浮かべていた。
かくして、王下七武海のうち三人は戦闘から離脱。
クロダイルやジンベエの穴も入れて残った王下七武海はたったの二人。しかし、バーソロミュー・くまが動く気配は全く無い。よって、ゲッコー・モリアただ一人が王下七武海としてその場に立っているわけなのだが――。
「キシシシシッ! あの女の影を奪い取っておれの部下にしてやる!!」
ヒュンッ!
「何!?」
バキッ!!
「誰が誰の部下になるってんだ。阿呆」
「か…はっ……、お、おれの出番……少な……」
問答無用でヤヒロに殴り飛ばされたゲッコー・モリアは敢え無く撃沈した。出番の問題を口にしたが、ヤヒロには全く関係の無い話だ。
「鬼だ……」
容赦の無い攻撃に海兵がポツリと呟いた。それに片眉と口角を上げた笑みを浮かべたヤヒロは、ふふんと鼻を鳴らした。
ハンコックはルフィとヤヒロの為にしか戦わない。ミホークは完全に傍観者。ドフラミンゴは突如として姿を消し、クロコダイルも撤退したのかその場にいなかった。ジンベエはルフィと共に行動。バーソロミュー・くまは動く気無し。
王下七武海はヤヒロを前にして戦闘不能となった。
そんな中でヤヒロの前に立ちはだかったのは、パシフィスタ軍団を引き連れた戦桃丸だ。
「パシフィスタ! あの女をやれ!!」
戦闘丸が命令を下すとパシフィスタは反応を示してヤヒロへと容赦の無い攻撃を始めた。
口をぱかりと開けてレーザービームが放たれ、ヤヒロはそれをギリギリながらに避け続けた。
チュドーン!チュドーン!チュドーン!
「ああああ! 面倒くせェ!!」
ビームの応酬にイラッとしたヤヒロは、足元に落ちていた鉄パイプらしきものを蹴り上げて手に持つと、一転して極悪な顔へと変えた。
な、何じゃあいつ!?雰囲気がガラリとまた変わった!?と、戦桃丸は思わず目を見張った。
表情や雰囲気だけでは無い。動きが一気に変わった。
ビームを躱したかと思ったら、あっという間にパシフィスタの元にいて、顔面を狙って武器を思い切り振り抜く。
ベキッ!!
どちからと言えば鉄パイプらしき武器の方が折れそうなものなのに、何故かパシフィスタの首がポロリと落ちて地面に転がった。
その様に戦桃丸と海兵達、処刑台で戦況を見つめているセンゴクと黄猿ボルサリーノや青雉クザンがギョッとした。
「オラオラ! 舐めてんじゃねェぞ! ゴルアァァッ!」
複数体のパシフィスタ軍団に容赦の無い攻撃を続けるヤヒロの顔は実に極悪かつ狂暴な鬼神そのものでありながら口端を上げた笑みを浮かべて次から次へとぶっ壊しに掛かっている。何か、ちょっと楽しそうにも見えなくも――いや、かなり怖い。
「たかだが機械風情が人間様に盾突いてんじゃねェぞ! ど阿呆がァ!!」
「「「あなたが人間とは思えません!!」」」
海兵達は青褪めた顔で涙目になりながら大合唱レベルで叫んだのだった。
「くそっ! わいの攻撃で終わらせてやる!!」
背中に担いでいる鉞を手にした戦桃丸がヤヒロに向かって思い切り振り翳して振るった。
本気の攻撃だった。
振り下ろされる鉞の軌道を軽く往なして方向を変えたヤヒロは、戦桃丸の懐に飛び込むと同時に頭を掴んで膝蹴りを顔面にぶちかました。
「ぐっ!?」
低い呻き声を漏らした戦桃丸を地面へと押し倒すと、ヤヒロは続けて鳩尾に容赦無く踏み付けるように蹴りをぶちかました。
ミシッという音と共に地面にまでヒビが入り込む威力に海兵達は騒然とし、ゴフッ!と声を漏らした戦桃丸は白目を剥いて気絶した。
ゆっくりと立ち上がってパンパンと手を払うヤヒロに笑みは無い。無言で冷酷な表情のまま鋭い目を周囲に向ける。
「戦う気が無いのなら武器を捨てろ。これから武器を手にしている奴は戦闘の意志があるとみなして容赦無く潰す。良いな?」
落ち着いた声音は酷く冷たい。そして、感情が一切籠っていない。
戦桃丸の武器を往なした際に手を離した鉄パイプらしき武器を拾い上げて、自らの肩をトントンと軽く叩いてから海兵達にビシッと差し向ける。
眼光鋭く、眉をハの字にして、ニタァと口角を上げて笑う。
「「「!!!!!」」」
(((その笑みは決して人には向けてはいけないものだ!!)))
海兵達は次から次へと武器を放棄してその場にへたり込んでしまった。その中に中将も含まれていることから相当な威力だったのだろう。あまりに怖過ぎて失禁すらしてしまう海兵までいる程だ。
「ひぃぃぃッ! な、なんだあの女! マジで怖ェェよコビー!!」
「おおお鬼! 鬼ですよ! 本物の鬼ですよォォォッ!!」
お互いの肩を抱き合ったヘルメッポとコビーは、涙や鼻水を垂らしながら恐れ慄いて首を左右にブンブンと振った。本当に可愛そうなぐらいに、極限の恐怖に当てられて歪めた顔だった。
彼らだけではない。
海兵達は本当に心の底から恐怖を抱いてガタガタと身体を震わせた。彼らの目の前に立つのは地獄の底にいる閻魔以上に恐ろしいまさに鬼神。
「ちょっとやりたい放題しすぎでしょ」
「んー、怖い顔だねェ。手加減はしないよぅ」
「!」
そんな海兵達を背後にしてヤヒロの前に立ったのは海軍三大将の二人。
青雉クザンと黄猿ボルサリーノだ。
流石に海軍大将を、それも二人を同時に相手にするのは厳しいのでは……と、白ひげ海賊団の隊長達や隊員達にイワンコフ他、囚人達はその様子に焦りを見せた――が。
「上等だ。どっちが先にくたばるか、勝負しようじゃねェか」
鉄パイプらしき武器を振り翳しながら二人に向けて中指を立てた左手を突き出し、舌をべ〜っと出して好戦的な笑みを浮かべて笑うヤヒロ。
「「「えェェェッ!?」」」
海兵達は声を揃えて叫んだ。対して白ひげ海賊団の隊員達と囚人達は共に肩を組み合うと叫んだ。
「流石はヤヒロの姐御だぜ!!」
沸きに沸いて大盛り上がりだ。
「あーなったら止められねェな」
隊長達は呆れにも似た溜息を吐いてくつくつと笑う。
な、なんてことなの!?誰もヤヒロに加勢するどころか、まるで当り前のように見てるだけだなんて……。あれが通常運転ってことなの!? 海軍大将の二人を相手にしてるのに!?と、思ってもみない光景を前にしてイワンコフは思わずゴクリと固唾を飲み込んだ。
青雉と黄猿に対峙するヤヒロの背中を見つめていたミホークは僅かに口角を上げた笑みを浮かべた。そして、ある気配を察知して視線を海へと向けた。
海軍の軍艦がそこかしこにある中で、此方に向かって真っ直ぐ近付いて来る一隻の船の存在。それはこの頂上戦争が間も無く終わることを意味していることをミホークは知っている。
「ヤヒロ、早くしろ」
ミホークは静かにヤヒロに告げた。振り返ることはしないまま肩に担ぐ鉄パイプらしき武器を二、三揺らしたヤヒロ。恐らくそれが返事だったのだろうが、「今から楽しいところだから邪魔すんな」と言っているようにも思えた。
やはり面白い女だ、とミホークは再びフッと笑みを零した。
「じゃ、始めようか」
「女相手におれ達二人がかりってのは気が引けるけど」
「まァ、普通じゃ無いみたいだから仕方が無いねェ。さっき殴られた分、返させてもらうよぅ?」
ヤヒロ対青雉クザン&黄猿ボルサリーノの戦いが始まろうとしていた。その一方、白ひげ対赤犬サカズキの戦いが繰り広げられている。
誰がこんな展開を予想しただろう?
火拳のエースを処刑するどころの話では無い。世界最強の海賊である白ひげと、突如として現れた鬼神の如く強い女が、海軍最高戦力を前に戦いを繰り広げているのだ。まして海兵達は恐れをなして戦えないまま意気消沈。対して白ひげ海賊団とインペルダウンの囚人達は相変わらず士気が高くて応援している始末。
シャボンティ諸島で避難して戦況を見守っていた人々や新聞記者の者達は映し出されるモニタを呆然と見つめるしかなかった。
ルフィとヤヒロの仲を見たハンコックは、ただならぬ絆がそこにあると感じた。
この気持ちが何たるかはわかっていない。
しかし、ハンコックは無性にヤヒロを攻撃したくなった。
「わらわが相手じゃ!」
「あ、ハンコック!」
怒れるハンコックに対してニパッと笑顔を見せるヤヒロ。
あれは明らかに嫉妬心に燃えた女の顔をして凄んでいるのに、こちらは慣れ親しんだ友達風に懐っこい顔をして手まで振っている。
なんとも対照的な二人。
間に挟まれた海兵(主に一等兵)達は唖然として立ち尽くしている。――が、海兵達の意識は主にヤヒロへと向けられている。
あの女帝ハンコックの怒りを前にして怯むどころか気さくな笑みを見せる女。
鷹の目のミホークと互角に渡り合う女。
三大将及び王下七武海、全中将、そして元帥センゴクを前に啖呵を切って見せた女。
(((一体何者!?)))
恐れなのか何なのかはわからない。海兵達は武器を手にしつつも構えることさえできないでいる。
目はヤヒロに釘付けだが足は動かない。他の白ひげ海賊団やインペルダウンの囚人達を追いかけて戦わなければいけないのに空気がそうはさせてくれない。
〜〜〜〜〜
ミホークと戦えば注目は私に集まる。だからその間にエースの弟とジンベエを援護して処刑台に向かってくれ。
守ってやって欲しいんだ。私では無く、あの兄弟を。
私の強さは誰よりも知ってるだろ?
大丈夫。
だから信じて欲しい。私もマルコを信じてるから。
〜〜〜〜〜
ミホークを前にして小声で話し掛けて来たヤヒロの言葉通りに海兵の殆どがヤヒロに意識を向けている。
ヤヒロの威圧に飲まれたか。あれでは誰の命令であっても誰一人動けやしねェよい。と、マルコは背後を窺いつつルフィに攻撃しようとする中将を蹴り飛ばした。
「はァ…はァ…、すまねェ!」
足を取られて地面に転がったルフィは息を切らしながら礼を口にした。それにマルコはクッと喉を鳴らして小さく笑って手を差し伸べた。
「おれが援護する。エースの弟、お前は周りを気にせず真っ直ぐ走れ」
「え…? けど、」
「ルフィ君! 彼は白ひげ海賊団の1番隊隊長不死鳥マルコじゃ! 強さはわしが保証する!」
「だとよい。信用してくれるかい?」
「……わかった。恩に着るよ」
「良いってことよい」
マルコの手を掴んだルフィは再び処刑台に向かって走り出した。ジンベエとマルコがその周りを蹴散らして道を作って行く。
前線を行く三人の後ろを追う海兵達を蹴散らして援護するイワンコフは、不死鳥マルコが援護してくれるなんて心強いわね!と言いつつ更に言葉を続けた。「悪いわね! ヴァナタの力が必要で!」と。
「お安いご用です。イワさん」
ご心配なく…と、イワンコフの髪からむくっと姿を現したのは彼は戦場に飛び降りると先行して走り抜け、能力を駆使して地面を切り付けて処刑台への架け橋を作った。
「カニちゃん!」
「あれは! 革命軍のイナズマ!!」
「ルフィ君! 行け!」
「おう! ありがとう!」
イナズマの横を走り抜けて架け橋へと踏み込むルフィ。そのイナズマに向かって攻撃を仕掛ける海兵とマルコとジンベエが蹴散らした。
駆け上がるルフィの背中に目を向けたマルコは、処刑台を目前にしてルフィの前に立ちはだかる海軍中将ガープの姿に目を見張り、思わず「エースの弟!」と声を上げた。
「爺ちゃん! どいてくれ!!」
「ルフィ! わしゃ海軍中将じゃ! ここを通りたくばわしを殺してでも通れ! 麦わらのルフィ!」
「!!」
「それがお前達の選んだ道じゃあ!」
ガープを目の前にしてルフィはできねェと口にした。しかし、できなければエースは死ぬだけだとガープが怒声を上げた。
嫌だ!――そう言い掛けた時、ルフィの頭の中で記憶がふっと蘇った。
〜〜〜〜〜
「ルフィ、ガープはわざと負ける。あの人はエースもルフィも大事だからだ。海軍としての誇りとお前達に対する愛を天秤にかけた時、彼はお前達を選ぶ。必ず。だから――」
〜〜〜〜〜
思いっ切り殴ってやれ!
そう、ヤヒロの言葉にハッとしたルフィは咄嗟にギア2へと態勢を変えた。
「ルフィ! お前を敵とみなす!!」
固めた拳をルフィへと向けるガープに、ルフィは力の限り拳を振り抜いた。その瞬間にガープは目を瞑った。
「ガープ! 貴様!」
センゴクはそれを見逃さなかった。
「うわあああああ!!」
ドゴォォォン!!
ガープの拳はルフィに当たらなかった。そして、ルフィの拳はガープを思いっきり殴り飛ばした。
貴様も人の親か、ガープ…!、とセンゴクはギリッと奥歯を噛み締めた。
「エースゥゥゥッ!!」
「ルフィ!!」
エースの処刑台まであと少し――その時だ。
ドォォン!
「!?」
飛来した溶岩によって処刑台へと繋がる架け橋が壊され、崩れ落ちる瓦礫と共にルフィは地面へと落下した。
「ゲホッ! コホッ! くそ、あと少しだったのに……」
瓦礫を押し退けて何とか立ち上がったルフィは息を切らしながらキッと睨み付けた。
殴られた頬を手で摩りながら身体を起こしたガープは、いかん!ルフィ!そいつは海軍の中でも最も強く容赦せん男じゃ!と、焦りの表情を浮かべる。
「そう簡単に処刑台に上がらせると思ちょるんか?」
ズシンと足音を鳴らして立ちはだかる大きな影。それは三大将の一人、サカズキだ。
ボコボコと音を立てて溶岩と化した右拳をルフィに向けて容赦無く放った。それに目を見張ったルフィは躱そうと足に力を入れた。しかし――
く! 動かねェ…!
身体は限界だった。マグマの拳が目の前に迫る。ルフィは思わずギュッと目を瞑った。
ボボボッ!
「!」
爆ぜる音にハッとしてルフィは目を開けた。青い炎が壁となってサカズキの拳を受け止めた。
「お前!」
「こいつはおれが止める! 早く行け!」
「ッ…悪い!」
マルコの声に弾かれるように身体が動いたルフィは、再び処刑台を目指して走り出した。
「白ひげ海賊団1番隊隊長不死鳥マルコ。お前の首をここで獲るのも悪くはないのう」
「けっ! そう簡単に獲られて堪るかよい!!」
受け止めたサカズキの拳を弾いたマルコは、武装色の覇気を纏った蹴りを放った。だが、サカズキはそれを意図も容易く腕で受け止めた。
流石は海軍最強ってところかよい!
マルコはチッ!と舌打ちをした。
「まずは不死鳥、お前からじゃ!」
「!」
「大噴火!!」
マグマに変化させた腕を巨大化させたサカズキは、灼熱の正拳突きをマルコに向けて容赦無く放とうとした。
その時――
ズガァァン!!
「!」
「!」
サカズキとマルコの間に薙刀が投げ込まれた。サカズキはマルコから視線を外して薙刀を投げ込んだ人物へと移した。一方のマルコも同じように目を向けると顔を強張らせた。
「グララララッ! おれの大事な息子に手出しはさせねェぞマグマ小僧!!」
「オヤジ! なんで出て来たんだよい! わかってんだろい!?」
「マルコ、心配すんじゃねェ。お前は自分のすべきことをやりやがれ」
「けどよいオヤジ!」
「グララララッ! おれァ娘を信じてんだ! 問題ねェ!」
「ッ……!」
白ひげはモビー・ディック号から降りてサカズキの前へと立ちはだかった。その光景は少し離れたヤヒロの視界にも入っていた。
「余所見とは余裕じゃのう!」
ハンコックが容赦無くヤヒロに蹴りを放った。おっと!と声を零しながらヤヒロは身を引いてそれを躱して距離を取った。
「ハンコック! なんで怒ってんのかわかんねェけど!!」
「えェい黙れ!! わらわとルフィの間を割く痴れ者の言うことなど聞かぬ!」
メラメラと炎を燃やすハンコックの言葉にヤヒロはきょとんとした。
「よくわかんねェけど、折角の美人で可愛いってのに、そんな風に怒ってちゃあ台無しだぞ! ルフィに嫌われても良いのか!」
「なっ!?」
「優しく微笑んでる方が絶対良いぞ!」
勿体無ェ面してんじゃねェって、とヤヒロは続けて言った。それに海兵達は思った。これは所謂『褒め殺し作戦』といったところかと。
「わ、わらわは……、わらわは……」
「ルフィとはただの友達だ! ぶっちゃけた話! 私はハンコックの恋路を応援してる側だからなマジで!!」
実はヤヒロにとってボア・ハンコックは、ニコ・ロビンと一、二を争う程に高順位で好きな女性キャラだった。自分自身が恋路に疎いながらも、ハンコックのルフィに対するピュアな想いは超絶可愛くて堪らなかった。
褒め殺し作戦だなんてとんでもない。
ハンコックに対するヤヒロの言葉は全て純粋なもので、『応援してる側』はガチな告白だった。
「そ、そなた、ヤヒロと申したな」
「おう! 私はハンコックが好きだから喧嘩したくねェ! それに、そんな可愛い顔は殴れねェし、殴りたくない」
ヤヒロはニッと笑って答えた。
「はう!」
ズキューーーン!!
ハンコックの胸に何かが突き抜けて行った。
「あァ、わらわにはルフィがいるというのに……、思わずこの者の言葉にトキメキを……」
ハンコックはくらりとよろけて地面に崩れ落ちた。手を口元に当ててワナワナと震えながら頬を赤く染める様は、まさに『THE 乙女』だった。それを見たヤヒロもまた胸キュンしたのは言うまでもない。
ハンコックはヤヒロに対する戦意を完全に無くした。それどころか海兵を蹴散らしてヤヒロの側に立ったのだ。
「なっ!? ボア・ハンコック! 貴様!! 裏切るのか!?」
「えェい! 黙れ!! わらわとヤヒロの女の友情は、下賤の輩にはわかるまい!!」
大きく身体を逸らしながら指を差して、どーん!と言い放つ。
いつもの女帝ボア・ハンコックがそこにあった。
「ふざけやがって!」
白煙のスモーカーがヤヒロに向かって攻撃しようとした。だがハンコックによって阻まれた。たしぎも刀を振るうが、ハンコックに阻まれてヤヒロに攻撃することができなかった。
「ハンコック、貴様!」
「わらわの大事な友を傷付ける輩はわらわが排除する! 頭が高い! そこになおれ!!」
どーん!!
またしても大きく身体を逸らしながら指を差して言い放つ女帝ボア・ハンコック。それに対してヤヒロは、本物を間近に見て、ちょっとだけミーハー心を擽られたか、凄く嬉しそうな笑みを浮かべていた。
かくして、王下七武海のうち三人は戦闘から離脱。
クロダイルやジンベエの穴も入れて残った王下七武海はたったの二人。しかし、バーソロミュー・くまが動く気配は全く無い。よって、ゲッコー・モリアただ一人が王下七武海としてその場に立っているわけなのだが――。
「キシシシシッ! あの女の影を奪い取っておれの部下にしてやる!!」
ヒュンッ!
「何!?」
バキッ!!
「誰が誰の部下になるってんだ。阿呆」
「か…はっ……、お、おれの出番……少な……」
問答無用でヤヒロに殴り飛ばされたゲッコー・モリアは敢え無く撃沈した。出番の問題を口にしたが、ヤヒロには全く関係の無い話だ。
「鬼だ……」
容赦の無い攻撃に海兵がポツリと呟いた。それに片眉と口角を上げた笑みを浮かべたヤヒロは、ふふんと鼻を鳴らした。
ハンコックはルフィとヤヒロの為にしか戦わない。ミホークは完全に傍観者。ドフラミンゴは突如として姿を消し、クロコダイルも撤退したのかその場にいなかった。ジンベエはルフィと共に行動。バーソロミュー・くまは動く気無し。
王下七武海はヤヒロを前にして戦闘不能となった。
そんな中でヤヒロの前に立ちはだかったのは、パシフィスタ軍団を引き連れた戦桃丸だ。
「パシフィスタ! あの女をやれ!!」
戦闘丸が命令を下すとパシフィスタは反応を示してヤヒロへと容赦の無い攻撃を始めた。
口をぱかりと開けてレーザービームが放たれ、ヤヒロはそれをギリギリながらに避け続けた。
チュドーン!チュドーン!チュドーン!
「ああああ! 面倒くせェ!!」
ビームの応酬にイラッとしたヤヒロは、足元に落ちていた鉄パイプらしきものを蹴り上げて手に持つと、一転して極悪な顔へと変えた。
な、何じゃあいつ!?雰囲気がガラリとまた変わった!?と、戦桃丸は思わず目を見張った。
表情や雰囲気だけでは無い。動きが一気に変わった。
ビームを躱したかと思ったら、あっという間にパシフィスタの元にいて、顔面を狙って武器を思い切り振り抜く。
ベキッ!!
どちからと言えば鉄パイプらしき武器の方が折れそうなものなのに、何故かパシフィスタの首がポロリと落ちて地面に転がった。
その様に戦桃丸と海兵達、処刑台で戦況を見つめているセンゴクと黄猿ボルサリーノや青雉クザンがギョッとした。
「オラオラ! 舐めてんじゃねェぞ! ゴルアァァッ!」
複数体のパシフィスタ軍団に容赦の無い攻撃を続けるヤヒロの顔は実に極悪かつ狂暴な鬼神そのものでありながら口端を上げた笑みを浮かべて次から次へとぶっ壊しに掛かっている。何か、ちょっと楽しそうにも見えなくも――いや、かなり怖い。
「たかだが機械風情が人間様に盾突いてんじゃねェぞ! ど阿呆がァ!!」
「「「あなたが人間とは思えません!!」」」
海兵達は青褪めた顔で涙目になりながら大合唱レベルで叫んだのだった。
「くそっ! わいの攻撃で終わらせてやる!!」
背中に担いでいる鉞を手にした戦桃丸がヤヒロに向かって思い切り振り翳して振るった。
本気の攻撃だった。
振り下ろされる鉞の軌道を軽く往なして方向を変えたヤヒロは、戦桃丸の懐に飛び込むと同時に頭を掴んで膝蹴りを顔面にぶちかました。
「ぐっ!?」
低い呻き声を漏らした戦桃丸を地面へと押し倒すと、ヤヒロは続けて鳩尾に容赦無く踏み付けるように蹴りをぶちかました。
ミシッという音と共に地面にまでヒビが入り込む威力に海兵達は騒然とし、ゴフッ!と声を漏らした戦桃丸は白目を剥いて気絶した。
ゆっくりと立ち上がってパンパンと手を払うヤヒロに笑みは無い。無言で冷酷な表情のまま鋭い目を周囲に向ける。
「戦う気が無いのなら武器を捨てろ。これから武器を手にしている奴は戦闘の意志があるとみなして容赦無く潰す。良いな?」
落ち着いた声音は酷く冷たい。そして、感情が一切籠っていない。
戦桃丸の武器を往なした際に手を離した鉄パイプらしき武器を拾い上げて、自らの肩をトントンと軽く叩いてから海兵達にビシッと差し向ける。
眼光鋭く、眉をハの字にして、ニタァと口角を上げて笑う。
「「「!!!!!」」」
(((その笑みは決して人には向けてはいけないものだ!!)))
海兵達は次から次へと武器を放棄してその場にへたり込んでしまった。その中に中将も含まれていることから相当な威力だったのだろう。あまりに怖過ぎて失禁すらしてしまう海兵までいる程だ。
「ひぃぃぃッ! な、なんだあの女! マジで怖ェェよコビー!!」
「おおお鬼! 鬼ですよ! 本物の鬼ですよォォォッ!!」
お互いの肩を抱き合ったヘルメッポとコビーは、涙や鼻水を垂らしながら恐れ慄いて首を左右にブンブンと振った。本当に可愛そうなぐらいに、極限の恐怖に当てられて歪めた顔だった。
彼らだけではない。
海兵達は本当に心の底から恐怖を抱いてガタガタと身体を震わせた。彼らの目の前に立つのは地獄の底にいる閻魔以上に恐ろしいまさに鬼神。
「ちょっとやりたい放題しすぎでしょ」
「んー、怖い顔だねェ。手加減はしないよぅ」
「!」
そんな海兵達を背後にしてヤヒロの前に立ったのは海軍三大将の二人。
青雉クザンと黄猿ボルサリーノだ。
流石に海軍大将を、それも二人を同時に相手にするのは厳しいのでは……と、白ひげ海賊団の隊長達や隊員達にイワンコフ他、囚人達はその様子に焦りを見せた――が。
「上等だ。どっちが先にくたばるか、勝負しようじゃねェか」
鉄パイプらしき武器を振り翳しながら二人に向けて中指を立てた左手を突き出し、舌をべ〜っと出して好戦的な笑みを浮かべて笑うヤヒロ。
「「「えェェェッ!?」」」
海兵達は声を揃えて叫んだ。対して白ひげ海賊団の隊員達と囚人達は共に肩を組み合うと叫んだ。
「流石はヤヒロの姐御だぜ!!」
沸きに沸いて大盛り上がりだ。
「あーなったら止められねェな」
隊長達は呆れにも似た溜息を吐いてくつくつと笑う。
な、なんてことなの!?誰もヤヒロに加勢するどころか、まるで当り前のように見てるだけだなんて……。あれが通常運転ってことなの!? 海軍大将の二人を相手にしてるのに!?と、思ってもみない光景を前にしてイワンコフは思わずゴクリと固唾を飲み込んだ。
青雉と黄猿に対峙するヤヒロの背中を見つめていたミホークは僅かに口角を上げた笑みを浮かべた。そして、ある気配を察知して視線を海へと向けた。
海軍の軍艦がそこかしこにある中で、此方に向かって真っ直ぐ近付いて来る一隻の船の存在。それはこの頂上戦争が間も無く終わることを意味していることをミホークは知っている。
「ヤヒロ、早くしろ」
ミホークは静かにヤヒロに告げた。振り返ることはしないまま肩に担ぐ鉄パイプらしき武器を二、三揺らしたヤヒロ。恐らくそれが返事だったのだろうが、「今から楽しいところだから邪魔すんな」と言っているようにも思えた。
やはり面白い女だ、とミホークは再びフッと笑みを零した。
「じゃ、始めようか」
「女相手におれ達二人がかりってのは気が引けるけど」
「まァ、普通じゃ無いみたいだから仕方が無いねェ。さっき殴られた分、返させてもらうよぅ?」
ヤヒロ対青雉クザン&黄猿ボルサリーノの戦いが始まろうとしていた。その一方、白ひげ対赤犬サカズキの戦いが繰り広げられている。
誰がこんな展開を予想しただろう?
火拳のエースを処刑するどころの話では無い。世界最強の海賊である白ひげと、突如として現れた鬼神の如く強い女が、海軍最高戦力を前に戦いを繰り広げているのだ。まして海兵達は恐れをなして戦えないまま意気消沈。対して白ひげ海賊団とインペルダウンの囚人達は相変わらず士気が高くて応援している始末。
シャボンティ諸島で避難して戦況を見守っていた人々や新聞記者の者達は映し出されるモニタを呆然と見つめるしかなかった。
頂上戦争 D
【〆栞】