「ま、まって、…うそ、でしょ」

「この度は御愁傷様でした」

周りの音が遠ざかっていく。
視界が真っ暗になっていく。

私に聞こえるのは、賑やかな両親の声だけだった。


「あら、起きた?」

「……」

むくりと起き上がり、周りを見渡すと知らない場所だった。
私が寝ていたベッドの横に座って本を読んでいた有希子さんは私が目を覚ましたことにいち早く気づき、安堵の声を漏らした。

「お母さんと、お父さんは?」

「っ…」

悲しそうな、今にも泣き出しそうな有希子さんの顔を見てわかった。やっぱり、お母さんとお父さんは死んだんだ。
わかってる、わかってるけど、お母さんの霊もお父さんの霊もいない。何も聞こえない。
いやに迫る現実から目を背けたくて、でも背けられなくて、私は咽び泣いた。
釣られて有希子さんも泣いた。ごめんね、ごめんね、と私に謝っていた。謝る必要はないのに。

「わたし、ちゃんと生きるから」

天国にいるであろう両親にそう告げて、私は眠りについた。

まだ高校一年生…15歳の私にはわからないことがほとんどで、遺産相続やら葬式の準備やら何から何まで工藤夫妻がやってくれた。
葬式には沢山の人が来てくれた。みんな私に一声かけ出て行く。
私はまだ学生なので工藤家に居候することになり、5歳の新一も喜んでくれたし工藤夫妻も本当の子供のように可愛がってくれた。
遺産は全て私のお小遣いと学費になり、工藤夫妻はお金には困ってないから、と私の差し出した金を受け取ってはくれなかった。



「強く生きなさい、恭子」

そんな声が聞こえたような気がした。


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