夕闇エチュード 

 私のクラスには「獏良了」という王子様がいる。といっても本物の王子様というわけじゃない。「親衛隊」とかいうのがいる、いわゆる「王子様」だ。
確かに彼はとても人目を引く容姿をしている。ちょっと女の子っぽい大きいぱっちりした目に色白の肌、体型はすらっとモデルみたい。さらに髪は長くて美しい白銀。私は親衛隊ではないけれど彼の髪は好きだった。

 さて、そんな王子様と私はなんの偶然か本日、日直コンビになってしまった。いいなぁいいなぁって羨望が刺さってくるけど私は別に嬉しくない。相手がどうでも日直なんて面倒なだけだ。部活やら下校やらで人がいなくなった教室で獏良くんと二人きり。日誌を書く手を止めて、そのいつも以上に白い顔を見る。

「ねぇ、大丈夫?具合悪いなら先帰っていいよ。どうせ日誌もう少しだから」
「ううん、僕も日直なんだから」

 ね、とちょっと顔色悪いながらも笑う獏良くんはいい人だ。いい人すぎて少し心配でもある。

「ごめんね、すぐ終わらせるから」

 ううん、と首を振る顔はやっぱり白い。あんまり申し訳なくて1.3倍くらいのスピード(自分比)で日誌の空欄を埋める。

「…じゃあ教官室に届けてくるから帰ってていいよ」
「ありがとう、みょうじさん…」

 ぼんやりした返事を背中で聞きながら教室を出てさっさと日誌だけ渡して戻る。別に今日は用事なんてないけど学校にぐだぐだいる理由はもっとない。歴史の資料集は置き勉にしとこう、なんて考えながら教室の扉を開く。

「…あ。…獏良くん大丈夫?」
「…うん」

 もう帰ってるんじゃないかとも思ったけれど獏良くんはまだ教室にいた。そういう性格なのか具合が悪いせいなのかずいぶんのんびりした帰り仕度だ。

 体調が悪いだろう獏良くんには特に話しかけずに、資料集をロッカーに突っ込む。振り返れば開けっ放しのカーテンから見えた空が青から色を変え始めている。
あ。と思ってこちらからは後ろ向きな獏良くんの髪を見つめれば案の定、珍しく黄色を帯びている美しい色。やっぱり本当にきれいな髪だなぁ、いいなぁ。少女漫画とかに出てくるほどではないけど、それなりにぼんやりして眺めてると鞄を掴んだ獏良くんが突然にっこりして振り返る。

「ねぇ、みょうじさんちょっと遊ばない?」
「…へ?いや、具合良くないんだから早く帰った方がいいと思うけど」
「ううん、平気になっちゃった」
「そ、そう?いや、でもさ」
「みょうじさんは僕と遊ぶの嫌?」

 …その目はずるいと思う。


 人気のない昇降口で靴を履き替えると獏良くんの背が高いのをなんとなく実感した。初めて隣に並ばなきゃいけなくなった彼と人一人分の間を空けて歩き始める。

「それで…どこ行きたい?」
「んー、ゲーセン」

 ゲ、ゲーセン…?

「獏良くんってゲーセン行くの?」
「うん、行くよぉ」

 なんとなく意外だ。お友達の遊戯くんやら城之内くんなら行きそうだけどむしろ彼自身は喫茶店とかの方が好きそうなのに。

「獏良くんってゲーム好きだったの」
「うん、好きだよ」

 随分はっきりした答えだ。そういえば遊戯くんとか城之内くんってカードゲーム得意だもんな。「あ、そう」とどこまでも愛想のない返事を咄嗟に返してからなんとか話題を探す。

「パズルゲームとか…好き?」
「好きだけど、一番好きなのはTRPGなんだ」

 …それ、ゲーセンとはジャンル違うと思うけど。
考えが顔に思わず出ていたのか獏良くんは「でもゲームなら何でも好きだよ」と言う。確かにゲーム好きってそういうものだと思う。


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