夕闇エチュード

 いつもの帰り道から少し外れたところにあるゲーセンはゲーセンらしく、とても賑やかだ。目的の台に向かうわけでもなく周囲を見回す獏良くんを見ている限りとても行き慣れている気はしない。まあゲーセンにこだわりがあるわけでもないから獏良くんが本当は来たことなくても別にいいんだけど。

「あ、あれいい?」

 獏良くんが指差す方はメダルゲームコーナー。TRPG好きという前知識からすればビデオゲームよりもたしかにそれっぽい気がする。私もどっちかといえばメダルゲームの方が好きだ。

「うん、いいよね」
「みょうじさんも好き?」
「見るのがね」

 まっすぐ目的のゲームへ向かって歩く獏良くんの半歩後ろをついて歩く。幸が不幸か同じ制服は目に付かない。
騒がしい機械音の間を抜けて獏良くんは小さい人形の入った箱の並ぶクレーンゲーム(所謂UFOキャッチャーってやつ)に辿り着いた。可愛らしいアニメというよりちょっとトラウマになりそうな絵本といった風情の人形たちがガラスの向こうからこっちを覗いている。

「…これ?」
「うん、かわいいよねぇ」
「そう…うん。そう、だね」

 一応肯定したけれど特に私の返答を聞くつもりがなさそうな獏良くんはお金をいれて構えた。100円しか入れないとはチャレンジャーな、と思ったけどもしかしたら転校前のゲーセンで鍛えていたりして獏良くんにとってはこれくらい余裕なのかもしれない。
チープな機械音とともに伸びたアームが人形をいれた箱を出口の近くまでまで運ぶ。

 獏良くん上手い。
近くにそういう人はいないし、ちょっと感動していると出口寸前でアームから箱を繋いでいた紐が落ちた。落ち方によっては上手く入ってくれるかと思ったけど絶妙なバランスで箱は筐体内に留まった。

「あー、惜しいね。でも獏良くんすごい上手だね、もうちょっと」

 獏良くんをフォローしながら横から斜めになったまま静止している人形の箱を覗き込んでみる。次どうするんだろう?と彼を伺うと、微笑みの表情を変えないままボタンの前に立っていた獏良くんは何の前置きもなく筐体を殴った。

 …え?殴

「よし、取れた」
「ええええええ!獏良くん台パンはダメだってぇ!」

 「よし」じゃないよ!
やっぱり本当はゲーセンなんて滅多に行かないんだろう。獏良くんはゲーセンのルールをさっぱりわかってない。もし理解してたら獏良くんみたいな人はこんなことしないだろうし。

「え?」

 出てきた人形を持ったまま予想通り私の言葉にきょとんとした獏良くん。

「だからね、ゲーセンには台パ…えとこういう筐体を叩くのはどういう理由があっても駄目っていう暗黙のルールがあってね…?」
「あ、そっかぁ…。じゃあこれ駄目かなぁ」

 表情が見えないくらい頭を下げて、萎れたネギみたいにひどくしょんぼりした姿。

「…し、知らなかったんだし…今回だけは貰っておいたら?今度からは絶対に駄目だよ?」
「うん」

 どうしてそこまでしてそんな人形が欲しかったのかはさっぱりわからないけど獏良くんには獏良くんなりの趣味があるんだろう。知らなかった上に初めての一回なら…ま、まぁしょうがないよね。

 気を取り直して獏良くんの拳の被害にあった筐体から離れる。

「みょうじさんはしたいのある?」
「え?うーん…特にないかなぁ。やってるの見るのは好きだけど私こういうの苦手だし」
「へえ、そうなんだ」

 一つ頷いて獏良くんは歩き出す。ゲーセンに来る来ないはともかくゲームが好きなのは本当みたいだ。

「じゃあ、あれやっていい?」

 指差す先には禍々しい髑髏が詰まった箱。…………。

「…カワイイネ」
「うん!」

 輝く笑顔には悪いけどやっぱりこの人の趣味はわからない。






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