夕闇エチュード

 ゲームセンターの中を結局あちこち回って獏良くんは奇妙なゲームやらおどろおどろしいマスコットやらをとっても楽しんでいた。…もしかして私が引いてるの楽しんでるんじゃないかとちょっと頭に過ったけど獏良くんに限ってそれはないだろう。
とりあえず一通り満足したらしい獏良くんを見上げる。

「まだやりたいのある?」
「ううん、もうないよ。みょうじさん、付き合ってくれてありがとう。…みょうじさんは本当にいいの?」

 今日何回か尋ねられてちょっと手を出したりしたけれどやっぱり私はゲームは見ている方が好きだった。

「うん、見てるの楽しかったよ」

 …いや、内容はそうでもなかったけど。人が楽しそうにしてるのは純粋に、見ていて気分が良かった。そっか、と彼らしい綺麗な笑顔をみせて獏良くんは貰った袋にいれた戦利品の内から一つを取り出した。

「今日のお礼、みょうじさんにあげる」

 良い笑顔で差し出されたのはなんかお化け屋敷とかにありそうな妙な骸骨。少なくとも普通の女子に対して好意的にあげるようなものではない気がするけど獏良くんだからなんかもうそれはどうでもいい気がする。

「うん、ありがとう…」
「ううん、喜んでくれて良かった!」

 とっても楽しそうな顔に合わせて私は何とかちょっとだけ微笑んだ。



 今日、散々歩き回ったゲームセンターから出て近くにあった公園のベンチに座る。
まだ太陽が沈んでもいなかった空はすっかり夜の色で月さえ浮かんでいる。
なんだかやたら疲れた。隣に座った獏良くんはコーヒー(人形のお礼に私が買ったの)をしずしず飲んでいる。獏良くんブラックコーヒーなんて飲むのか…。そうか、まあ一応高校男子だもんな…。ココアとかホットミルク(そんなの自販機に売ってないけど)なイメージだった。てっきり獏良くんが選ぶかと思ってたココアを思い切って飲むと雲のかかった月が見える。あーあ。

「明日晴れないかなぁ」
「どうして?」
「雨になりそう」
「みょうじさんは晴れの方がいいの?」
「うん」
「そう…」

 獏良くんは意地の悪い三日月のように口を持ち上げる。

「それは晴れないといいね」

 意外にも美少年は意地悪な顔もサマになる。なんだ、ぼんやりしているばかりな王子様なのかと思ってたけどそうでもないんだ。
獏良くんのその台詞がブラックなからかいなのか機嫌を損ねたものなのかよくわからないまま、調子を合わせて捻った質問をしてみる。

「今日つまんなかった?」

 獏良くんは少し悪っぽい顔からころっと元に戻ってううん、とかわいらしく首を降る。

「みょうじさん、とっても楽しかった」
「それは良かったね」
「僕、気に入っちゃったよぉ」

 …気に入っちゃった、か。そう、やっぱり獏良くんゲーセン行かないんだね。私はなんとなく疲れちゃったよ獏良くん。
彼の家がどこにあるのかなんて知らないし、これ以上お互い用事なんてないしもう暗いからさっさとお別れしよう。

「じゃあまたね」
「なまえ」

 突然呼ばれた名前にびっくりして、反転しかけた体のまま顔だけで彼を振り返る。

 獏良くんはいつもと変わりないかわいい笑顔のまま、ゆっくりと目を細めた。
なぜだろう。太陽なんてとっくに沈んだのに一瞬だけ、空が夕暮れと夜の境、紫色を映した気がした。


「また、ぼくと遊ぼうねぇ」


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