今と昔は別物変わりゆくもの
取り敢えず大通りより一本外れた道を景色を眺めながら歩く。この辺りはオフィス街になっているらしく、昼時を過ぎた今人通りはほとんど無い。時たまスーツ姿の男性や女性が忙しそうに駆け足で通り過ぎるぐらいだ。
よく晴れているからか、濡れた服はほんの少し湿っているがもう気にならない程度に乾いている。
このままポケモンセンターに帰ってもいいのだけど、夕方まではまだまだ時間が有り余っている。今帰ったところで暇を潰せるものも無いし、かといって娯楽施設を利用するのも気が乗らない。
結局私は人気の無い道をのんびり歩くしかない。
「……ん?」
道の先に横に大きな柵が見えた。否、柵というより門だろうか。柵の上からは大きな建物が聳え立っているのが見える。建物自体は結構前から見えていたが、真正面にある柵もあの建物の敷地内のようだ。この道はあの柵で行き止まりらしい。
「なんの建物だろう」
昔はあんなに大きな建物は無かった筈だ。そう、確かあそこは平屋建ての邸が建っていただけで、その周りは更地だった。私は近寄ったことはないが子供達が鬼ごっこをしたりサッカーをしたりと遊び場として使っていた場所だったと思う。
近寄ってみると柵はやっぱり門で、今は閉じられているが観音開きで開くようになっているようだ。
柵に沿って視線を走らせると端に表札が掲げられていた。
「……ポケモン協会シンオウ本部」
ポケモン協会はずっと昔からコトブキシティにある。だが前は一番大きな大通りを真ん中としてマサゴタウン側から見た時、ポケモンセンターのある右側の区域にあったと思う。ここはコトブキシティの左側の区域の一番端。あの頃にはもうかなり古い建物だったから建て替えられるのはおかしくないが、まさかこんな広い場所に出来た大きな建物が協会本部だとは思いもよらなかった。
レトロな外観は観光客向けホテルでもおかしくない洒落たデザインだ。
壁には細かい装飾もあるようで、柵の上から建物を覗き込んでみる。
「あ」
ちょうど建物から出てきた人と目が合う。ほんのり赤みがかった、肩につかないぐらいで切り揃えられたふわふわとした白い髪の女性。きょとりと瞬いた垂れ目がちな赤い瞳が柔らかく細められる。
見蕩れて視線が離せなくなる程のとんでもない美人だ。
女性は何故か私に向かってぶんぶんと手を振り始めるので、思わず手を振り返す。見た目は花畑の中心で微笑んでいそうな美女だが、その仕種はまるで幼子のようだ。けれどそのアンバランスさがともすれば人形のように思える雰囲気を良い意味で壊している。
止め時が分からず互いに手を振り続けていると建物から新たに二人出てきた。青灰色の真っ直ぐな長い髪の女性と、陽に輝く見事な金髪の女性。これまた人外かと思う程の美女で、三人が揃っている場所だけ色とりどりの花が咲き乱れる異空間になったように錯覚する。そこだけ圧が凄い、圧が。
二人の女性は私の方を見ると何故か、金髪の女性は上品に小さく手を振り、青灰色の髪の女性はグッと力強く親指を立ててきた。……どういうことだ。
取り敢えず最初の女性と同じように手を振り返す。知り合い、ではないはずだ。こんなとんでもない美人、一度見たら忘れられるわけがない。だが、それなら何故あの人達は少し視界に入っただけの私に対してあんなにフレンドリーなのか。
そんなことを考えているうちに三人は連れ立って建物の裏へと姿を消した。
身体から力が抜けて、知らない内に身体が強ばっていたことに気付く。フレンドリーな態度を取られても、美人の迫力は凄いということなんだろう。
「……別のとこ行こ」
この道はここで行き止まりだ。風景を眺めるにもオフィス街でビルばかりだし、行きにじっくり見たのだからもう特に見るところは無い。
踵を返し今度は青い空を見上げながら歩く。
それにしても本当に凄い美人達だった。あんなに綺麗なら、芸能人にでもなれそうだ。いやポケモン協会に出入りしてたならポケモントレーナーなのかもしれない。もしかしたらもう既に有名なのかも。
きらりと二つ、空が瞬く。
美人を見たからか、何だか得をしたような気分だ。
トラウマの場所、コトブキシティ。だが思い出は上書き出来る。今日から、この街は美人に出会えた良い場所だ。
そう思っている方がきっと、精神衛生上良い。
二つの瞬いた光はテンガン山へと飛んでいく。こんな真昼に流れ星だなんて見えるんだな、なんて思いながら視線を街中に移せば派手なピエロの格好をした人が目に入った。見なかったことにして通り過ぎても良かったのだけど、怪しいハンサムさんに話し掛けたヒカリとコウキを思い出して、私もちょっとぐらい無謀な行動をとってもいいかとピエロに近寄ってみる。危ない人だったら、すぐに逃げよう。
コトブキシティはポケモン協会のお膝元。レベルの高いポケモンが近付かないようエリートトレーナーが多く巡回しているこの街付近は、そうそうおかしな人はやってこないだろうけど。
「こんにちは」
にっこり笑ったピエロは、不気味な道化の化粧なんて丸無視で、やっぱり怪しいところなんて一つもないどこにでも居そうな普通のおじさんだった。
20181212
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