今と昔は別物変わりゆくもの
食事を終えて私以外の三人はジョーイさんに預けていたポケモンを迎えに行った。ついでにジュンは、次の街に行くには時間が微妙だからと部屋を借りる手続きもしている。コウキは研究所の職員が使うフィールドワーク時の野宿ポイントで野宿をするらしく部屋は借りない。
「この辺りは強いポケモンは出ないから、野宿の練習にはちょうどいいんだ」
野宿ポイントの管理もコウキの仕事の一つなんだそうだ。
野宿ポイントは屋外。放っておけばたちまち荒れて自然に戻ってしまうから、研究所の職員はフィールドワークに出かけた際はよっぽど天候が悪かったり体調が悪かったりしない限り野宿をするそう。当然毎日では無いしポケモンセンターに風呂だけ借りて身綺麗にしたりするみたいだが。
「そういやサキさん、これサキさんがくれるってヒカリに聞いたんだけど、本当に良いのか?」
手続きを終えたジュンが小走りにやってきて、ポケットに入っていたものを取り出す。
少し前に見たばかりのポケモン語翻訳機。
「私は必要無いからね」
「なら、ありがたく貰っとくぜ! ……でも、オレのポッチャマ全然喋ってくんないんだよな……」
ポケモン語翻訳機をいそいそと身に付けながら少し落ち込んだようにジュンは肩を落とす。
喋らない。気難しいのか、まさかとは思うが声が出ないとか。それではポケモン語翻訳機があっても意味が無い。
「ポッチャマ、喋ってるとこ見たことないんだよな」
「私達とは一緒に過ごすこともなかったですしね」
ぽぽんと音を立ててヒカリとコウキのモンスターボールから飛び出してきたアリマサとナエトルの言葉に、私は首を傾げる。
ナエトル、ポッチャマ、ヒコザルはこのシンオウ地方の御三家と呼ばれるポケモンだ。育てやすい為新米トレーナーの相棒に推奨されるポケモンを御三家と呼ぶが、どの地方でも御三家となるポケモンは野生では滅多に見つかることは無く、ポケモン研究所やブリーダーの元で繁殖された個体が新米トレーナーに引き渡される、と本で読んだことがある。
私はヒカリ達三人の元にいる三匹はポケモン研究所で繁殖されたのだと思っていたのだけど。
「ポッチャマは、私達とは違ってどこか別のところから連れてこられたんです。……仲良くしたかったのですけど、目も合わせてもらえなくて」
しょんぼりとナエトルは俯く。反対にアリマサは憤るようにお尻の炎を赤々と燃え上がらせ、たしたしと右足で床を蹴り付けた。
「馴れ合うつもりがない奴なんだから、ほっとけばいいんだって。そういう性格なんだろ、あいつは」
なんとなく、アリマサはポッチャマと仲良くしようと思っていたんじゃないかと思う。話し掛けて、けれど無視されて腹を立てている。そんな雰囲気を感じる。
「喋らない、もしくは声が出ない、か。研究所の健康診断では問題は無かった筈だけど……精神的なものか、健康診断の後に何かあったか、かな?」
「バトルはしてくれるんだけど、普段は素っ気ないんだ」
ジュンがモンスターボールのスイッチを押して、赤い光とともに水色の体が現れる。丸いフォルムの可愛らしいポケモン。
床に降り立ったポッチャマは辺りを一瞥した後、私達の居る方とは反対方向に顔を向けてしまう。つーんと効果音が付きそうな仕草にアリマサが鼻息を荒くした。
「相変わらず態度の悪い奴だな! 自分のトレーナーとも親しくしないつもりか」
ポッチャマは全く気にすることなくそっぽを向いたまま。これは、ジュンは大変そうだな。
バトルが強いトレーナーになるにはポケモンと信頼関係を築けているかが重要になるのだけど、ポッチャマは取り付く島もないといった様子だ。
……ふと思い立ってポッチャマに手を伸ばす。
「えい」
ぶにり。
柔らかな青い後頭部に指が沈む。これはなんとも言えない感触。面白くて二度三度とポッチャマをつつく。
ぶるぶると震え出すポッチャマにそろそろ頃合かと一歩下がった。
「気安く触れるなこの小娘!」
がちんと音を立てて私の指があった場所の空気をポッチャマの嘴が挟む。間一髪だ。一歩下がって正解だった。
振り返って憤りを露わにするポッチャマにふぅと私は安堵の息を吐き出す。
「うん、ちゃんと喋れるね」
「僕を無視するなこの愚か者めー!」
ずっと誰とも話さず無視を決め込んでいたとは思えない大声だ。
ぴょんぴょんと跳ね出すので頭を軽く押さえれば、短い手足のポッチャマはそのまま動けなくなる。
「お、お姉ちゃん……ポッチャマ凄く嫌がってるけど……」
「でも離したら私が襲われるからねぇ」
可愛らしい見た目のポッチャマに睨まれても可愛いだけだが、その小さな体から発せられているのは紛うことなき殺気だ。レベルはそう高くないと思うけど、その嘴に挟まれでもしたら多少の怪我はするだろう。
「くそ、くそ、この小娘め! 僕を馬鹿にしやがって! 僕はエリートトレーナーの元で産まれた、強いポケモンなんだぞ! やっぱり子供のお守りなんて僕に相応しくない、マスターの元で育てられていたらお前みたいな小娘簡単にけちょんけちょんにしてやれるのに!」
「……ふぅん?」
つまりポッチャマは、ジュンを自分のパートナーだと思っていないということか。
エリートトレーナーの元で産まれたポケモン。それは確かに強いポケモンだろう。強いトレーナーの元には強いポケモンがいる。強いポケモン同士の子供が強くなるのは自明の理だ。
エリートトレーナーは強いポケモン同士を掛け合わせ、産まれた子供から強い個体を選び更に倒させるポケモンまで選んで強いポケモンを育成する。
ポッチャマはそうやって産まれたポケモンのうちの一匹だったのだろう。
エリートトレーナーの元で、自分も強く育てられるのだと信じていた。
「なんでナエトル達を無視してたの」
「ふん、僕に劣る連中にわざわざ構ってやる必要ないだろ」
「……っのやろ……!」
「アリマサだめ!」
ポッチャマのあんまりな言い草にアリマサが怒っている。ヒカリが抱き上げて抑えているが、手を離したらすぐにポッチャマに向かっていきそうだ。アリマサの怒りは分かるが、ポッチャマもそうすることでしか自分を保てないんじゃないかとなんとなく思う。
ポッチャマは、自分が強いポケモンだということに縋っているような気がする。
「ねぇ、ポッチャマ。君ってもしかして、厳選落ち?」
「……ッ!」
息を呑む音。ついでかぱりと開かれたポッチャマの嘴。その奥に水の塊が見えた。
咄嗟に空いていた手を自分とポッチャマの間に翳すと、ポッチャマの嘴から吹き出た水流が手のひらにぶち当たり、しゃがんでいた私の太ももに流れ落ちる。
手のひらにじわじわと痛みが広がっていく。
「僕は! 僕は捨てられてなんかいない!」
翳していた手を避けると、ぎっと私を睨み付けるポッチャマの目からぼたぼたと大粒の涙が溢れ出していた。ああ、言葉を間違えたな、なんて思いながらも罪悪感はこれっぽっちも湧いてこない。少しぐらい、胸が痛んでもいいだろうに。昔はここまで情の無い人間ではなかった筈なのに、部屋に引き篭っている間に感情が無くなってしまったのだろうか。
しゃくりあげ始めてしまったポッチャマを押さえていた手を離しても、水の二撃目は来ない。小さな手がぎゅうと握り締められている。
「そうだね、ポッチャマは捨てられてなんかいない。孵化させたトレーナーに、選ばれなかっただけ」
「っ、うるさいうるさいうるさい!」
「でもポッチャマは、ジュンに選ばれたんだよ」
「僕の価値の分からない子供に選ばれたところで、嬉しくもなんともない!」
「じゃあジュンが、君の価値を分かってて選んだのだとしたら?」
「そんなことあるわけないじゃないか!」
語気は強いが、ポッチャマは俯いたまま。ポッチャマの向こうにいるジュンも口をへの字にして落ち込んだ様子のままだ。
「ポッチャマは、自分を孵化させたエリートトレーナーに選ばれたかった? それとも自分の強さを理解してくれる人に見出されたかった?」
「そんなの……っ!」
ポッチャマが握り締めた手を自分の足に振り下ろす。行き場の無い感情を発散させるように力強く、けれどまだ幼いポッチャマの力なんてたかが知れてて手と足がぶつかる音はぺちん、なんて弱々しい気の抜ける音だった。
流れ落ちる涙が床に小さな水溜まりを作っている。
「僕は、僕を強く育ててくれる人に選んでほしかったに決まってる」
なのにトレーナーになったばかりの子供じゃ、僕の強さなんて分かりっこないだろ。
しゃくりあげる音、鼻を啜る音。ジュンが小さくポッチャマ、と呼ぶ。
私はそんなポッチャマの言葉に笑う。
「……そういえばジュン、君のお父さんってタワータイクーンのクロツグさんだよね」
「うぇっ!? お、おうそうだけど……サキさんなんで知ってるんだ?」
「前に雑誌で見たことあるの」
母が引き篭っている私に買ってくれていた雑誌の中に、バトルタワーの特集が載っていたことがある。確かバトルフロンティアがオープンした時のインタビュー記事。
フロンティアブレーンとなるトレーナーは当時シンオウで最強と言われていたエリートトレーナー達だった。エリートトレーナーといっても、そのうちの数人は最初からエリートトレーナーだった訳じゃない。普通のトレーナーから実力でのし上がり、その才覚を見せ付けてポケモン協会に特例でエリートトレーナーと認められた人達だった。タワータイクーン・クロツグもその一人。そんなフロンティアブレーンのインタビュー記事は多くの人が注目しておりかなりのボリュームになっていた。クロツグさんの家族構成が載っていたのはそのインタビューの一部だ。
クロツグさんはフタバタウン出身でフタバタウン在住。幼馴染みでエリートトレーナーの奥さんと結婚し、子供は男の子一人。クロツグさんの年齢は私の母と同年代で、そうなると子供の年齢はだいたい決まってくる。
あの頃フタバタウンに居た子供で男の子だったのは、ジュンしか居なかった。
「クロツグさんは、スクールで学んでエリートトレーナーになった訳じゃない。圧倒的な才能でエリートトレーナー達の上を行ったから協会にその強さを認められた人だよ」
ジュンはそんなお父さんとエリートトレーナーのお母さんの間に産まれた子。
私がそう言うとポッチャマは俯けていた顔を少し上げて、ぼんやりとジュンの方を見詰める。私の声を聞いているのか、聞いていないのか。
きっと聞いてくれていると信じて言葉を続ける。
「確かにジュンはトレーナーになったばかりだけど、絶対ご両親の才能を受け継いでると思う。ジュンには、きっとポケモンの強さを見極める目がある」
「……ポッチャマ、オレ才能とかはまだよく分からないけどさ、自信持って言えることがあるぜ」
ジュンがポッチャマに近付いて抱き上げた。目線を同じ高さにして、さっきまでの落ち込んだ様子とは真逆の眩しい笑顔を浮かべる。
「オレはお前と旅がしたいと思った。お前と一緒に強くなりたいと思った。だから、オレはお前を、ポッチャマを選んだんだ!」
ポッチャマの表情は変わらない。というか分からない。ポケモンの表情の違いなんて私には判断がつかない。
ただ明らかに分かることは、ポッチャマの瞳の輝きがただ目が潤んでいるからだけではないということだ。
ポッチャマの小さな手が自分を抱き上げるジュンの手に添えられる。
「…………そこまで言うなら、君を僕のパートナーだと認めてあげる。──ちゃんと僕を強く育ててよね」
「っ! 当然だろ!」
ポッチャマの言葉は、相変わらず尖っていて誤解を招きそうな物言いだ。けれどその眼は雄弁にその心を語る。
……ジュンとポッチャマは、これで大丈夫そうだ。
「よし、ヒカリ!」
「え、は、はい! なに?」
「オレとポッチャマは、これからレベリングに行ってくる! それで今より強くなる! だから明日、バトルしようぜ」
射抜くような力強い二つの視線が、ヒカリとアリマサを見ている。ああ、これがライバルというやつか、と思う。ヒカリとアリマサはその視線をしっかりと受け止め、見返す。まるで、炎みたいな。
「受けて立つよ、ジュン」
「おう。じゃあ、また後でな! 行こうぜ、ポッチャマ」
「うん。行こう、ジュン。……そうだ、小娘。いつかお前もお前のポケモンも、僕が倒してやるからな!」
そう言って一人と一匹はポケモンセンターを飛び出していった。慌ただしい。しかも最後にポッチャマに何か言われたんだけど。まさか小娘呼ばわりが定着したりしないだろうな。
立ち上がるとずっとしゃがんでいたせいか、足がジンと痺れた。
「私、トレーナーじゃないんだけどなぁ」
あと、ポッチャマに謝りそびれた。酷いことを言ってしまったから、次に会った時にでもちゃんと謝らなければ。
痺れた足を軽く撫でて、痛んだ手のひらに眉を顰める。
「お姉さん、あちらの椅子にどうぞ」
「え?」
聞こえた声に顔を横に向けると、そこにあったのは丸いピンク色のシルエット。ジョーイさんといつも一緒に居るラッキーだ。指の無い手に手のひらを乗せられ近くにあった椅子まで引かれる。
椅子に座ると、水で濡れていた太ももの上にタオルが置かれ、痛んでいるのとは反対の手にマグカップが渡された。ラッキーは私の痛む手をそっと持つと、摩るようにして何か力を込める。
「マグカップの中身はタマゴうみのタマゴです。治癒力を高めるものなので飲んでくださいな」
「ありがとうございます」
どうやら手当てをしてくれるらしい。摩られている手がじんわりと温かくなり、少しずつ痛みが引いていく。マグカップに口を付けて中身の白い液体を啜れば、仄かな甘みが口の中に広がった。滑らかな舌触り。とびきり美味しい、という程ではないが、素朴な味は普通に美味しい。味付けなんてされてないだろうから当然の味だ。
ちびちび舐めるように飲めばだんだん身体が火照ってくる。手の痛みはもう全然分からないし、朝からずっと痛んでいた顔の筋肉もマシになった。タマゴうみは使用したポケモンの体力を回復する技だが、人間にも効果があるようだ。
「もうポケモンに喧嘩を売っては駄目ですよ。ポッチャマはまだレベルが低かったので大したことにならなかっただけ。人間は脆いんですから」
「ぜ、善処します……」
ラッキーの声がとんでもなく低くなって、思わず目を逸らす。私にラッキーの声が聞こえているということは翻訳機を身に付けているヒカリとコウキにも当然聞こえているわけで、二人は怯えたように私とラッキーを遠巻きにしていた。
あまり離れると音が私に届かなくなるんじゃ……。というか、目の前にいるラッキーからは普通の鳴き声、離れた所からラッキーの翻訳された声が聞こえるというのはかなり違和感があるからあまり離れないで欲しい。
と、思ったところでラッキーの言葉が会話が出来ること前提だったことに気付く。
「不思議そうな顔をされてますね」
「あ、いやぁ、あはは……」
「あちらの二人がつけてるクリップ、ポケモン語翻訳機でしょう? 知ってますよ。翻訳機は元々ジョーイが使う為に開発されたものですから」
「そうなんですか!?」
「そうなんです。ポケモン達の治療をする時に、どこが痛むかとかジョーイが分かれば便利でしょう?」
言われてみれば確かにそうだ。ハンサムさんのような警察でも役立つとは思うけど、ポケモンと人間は言葉が通じないのが普通なのだから翻訳機が無くともなんとかなるだろう。けれどポケモンを治療する為に接する機会の多いジョーイさんなら、翻訳機があれば迅速な対応が可能になるだろうから大助かりの筈だ。
「まだ実用化には至ってませんから、限られた人しか実物は持ってませんけどね。存在だけならポケモン協会の方やポケモンリーグ関係者、ジムリーダーやジョーイ、ジュンサーは知っています」
「……でも、まだ普通の人は知らない方が良い、とか?」
「そうですね。そういうものが開発されていることは別に知られても構いませんが、悪事を働こうとする人も居ますから、あなた達が翻訳機を持っているということは内緒にしておいた方が良いと思います」
奪おうとする人がいるかもしれませんから。
その言葉に私はヒカリとコウキを見る。私達は子供だ。ポケモンが居たって、私達個人では大の大人に敵わない。状況次第ではポケモンの助けを望めないこともあるかもしれない。特にヒカリと私は、元引き篭もりで世間知らずだ。旅に出ると決めた時にも思った事だが、やっぱり誰よりも気をつけなきゃいけない。便利だがリスクもある道具を手に入れたのだから。
「……はい、手当ては終わりましたよ」
「あ、ありがとうございました」
飲み終わったマグカップと太ももの上のタオルをラッキーに返す。まだ服は濡れているがこれぐらいなら自然に乾きそうだ。
くれぐれも気を付けるように、と念押ししてラッキーはジョーイさんの元へ帰っていった。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「うん。手はもう痛くないよ。でもどこかで服乾かさないとなぁ」
「今日は良い天気なので、外にいる方が乾きやすいかもしれませんね」
「じゃあちょっとコトブキシティを回ってみようかな。ヒカリとコウキはどうする?」
「わたしはアリマサと特訓する! ジュンとポッチャマに負けてられないもの!」
「僕はそろそろこの街を出ます。野宿の準備は初めてなので、早めにしておかないと……」
「そっか」
ならコウキとはここで一旦別れることになる。次はいつ会えるか分からないが、旅立つ町が近ければ旅のルートもほぼ同じの筈だ。そう遠くないうちにまた会えたらいいな。
「ナナカマド博士の助手としての仕事は大変だろうけど、頑張ってね」
「はい、頑張ります。ナエトルと、一緒に」
コウキが視線を向けた先では、ナエトルとアリマサが互いに鼓舞しあっていた。
「私はバトルは苦手ですけれど……コウキを守れるように強くなります」
「いつか腕試ししような、ナエトル。俺は絶対負けねぇけど!」
「ヒコザルには敵わないでしょうけど、驚かせるぐらいはしてさしあげますよ」
この二匹は普通に仲が良い。ライバルという程競い合ってはいないようだが、きっと互いの戦い方から色々学びあえるのではないかと思う。性格はほぼ真反対。戦い方もきっと全然違う。ヒカリもコウキと強くなったらバトルをしようと約束していた。
「じゃ、またね、コウキ!」
「うん、また! ヒカリ、ちゃんと落ち着いて行動するんだよ。サキさんに迷惑掛けないようにね!」
「っ! もう、母親みたいなこと言って! 絶対絶対、大丈夫なんだから!」
ポケモンセンターの前で手を振り合う。コウキはクロガネシティ方面に、ヒカリはマサゴタウン方面に向かうようだ。
さて、適当にぶらつくつもりだけど、私はどこに向かおう。
「お姉ちゃん、夕方になったらポケモンセンターに集合ね」
「分かった。無理しないようにね。危なくなったら一度ポケモンセンターに戻るように。アリマサも、嫌な予感がしたら逃げるんだよ。戦略的撤退の言葉を忘れないで」
「はぁい。じゃ、いってきまーす」
「俺の最優先はヒカリだからな。ヒカリが危ない目に遭わないように気を付けるぜ。……行ってくる」
「分かってるならいいよ。行ってらっしゃい」
道路に出るヒカリを見送れば、コトブキシティに、一人。
服を乾かさなきゃいけない。日当たりの良い場所を歩かなければ。
正直、日陰をひっそり歩いていたいけれど。
「人の、少ないとこってどこだろうなぁ」
宛もなく私は一歩踏み出す。
そういえば昔はこの道を一人で歩いたこともあった。
風景は全く違うし、視界の高さも変わったから、同じ街だと思うとおかしな感じだ。私がこの街で何も感じないのは、見た目が違い過ぎて別の街のように思っているせいかもしれない。
それなら、それでいい。
昔を思い出して腹を立てて、この街の人に手当り次第殴り掛かるなんてことにならないならば。
……なんて、冗談だけど。
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