知らない街、次の街へ……行く?


 ムックルの群れの鳴き声が朝を告げる。
 私がいるのは、カーテンを閉め切った暗い部屋じゃない。薄っぺらいカーテン越しにぼんやりと陽が射し込む清潔感に満ちた部屋。
 ポケモンセンターの二段ベッドの上段で気怠く上半身を起こす。
 時計を見ればまだ六時にもなっていないのに、部屋の中に私以外の気配は無かった。

「……どこに行ったのかな」

 寝起きのせいか喉が痛む。ベッドを降りて簡易キッチンに行き、水をちびちびと舐めるように飲めば痛みは少しだけマシになった。
 部屋の入口の下駄箱に、ヒカリの靴は無い。
 まだ朝食には早いし二度寝は寝坊する気がする。何もやることがない微妙な空き時間。とりあえず洗濯物を回収するとして、その後はどうしようか。
 すぐにでも部屋を出れるよう鞄を持ち出しやすい場所に出して、洗濯乾燥機のある風呂場に向かう。
 微かに聞こえるヒカリの声。外、だろうか。
 自分の分の洗濯物を簡単に畳んで鞄に突っ込み、窓に近寄った。カーテンを開けて、すぐ外の出っ張りに丸まっていたコリンクと目が合って面食らう。……なんだ、レンゲか。

「おはようレンゲ。ヒカリとアリマサは外?」
「みゅ」

 窓を開けて尋ねれば、レンゲは短く鳴き声をあげてこくりと頷く。翻訳機があればそうだよとか聞こえたのだろうか。普通のトレーナーならこういうやりとりが当たり前なのだろう。はいかいいえでのコミュニケーション。会話なんて出来ない。
 ポケモンが人の姿になれると知っている人以外は、ポケモンの言葉を聞くことは出来ない。それが普通のことだというのに、昨日のよく喋っていたレンゲを思い出すと、言葉が通じないというのは話したがりのポケモンには窮屈そうだななんて思う。

「みゅ、みゅあーん。きゅう」
「んー、何言ってるか分からないなー」

 話し掛けるように私に向かって鳴き声をあげるレンゲの頭を撫でて、窓の外に身を乗り出す。人の姿は見えないけれど、なんとなくざわついているような気がした。レンゲも部屋の外に居たし、やっぱりヒカリとアリマサは外に居るのだろう。

「暇だな」

 窓枠に頬杖をついて明るくなりつつある外を眺める。レンゲはごろりと体勢を変えて毛繕いをしていた。
 空は雲一つない一面の青。
 今日も絶好の旅日和だ。
 そうして暫く、私はヒカリとアリマサが帰ってくるまでぼんやりと空を見上げ続けた。

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