旅に危険は付き物
クロガネゲートは二階層からなる洞窟だ。
地上一階、地下一階。
203番道路とクロガネシティを繋ぐ要所となるトンネルで、街を行き来する人達が通る場所は開けているが、その途中にある地下一階へ向かう脇道は今は岩で塞がれている。
おそらくだが、地上一階と地下一階で野生のポケモンの強さが違うだとか、地形が入り組んでいて旅慣れていない人が入り込むのは危険だとかで、実力が足りないトレーナーが誤って地下一階に侵入してしまわないよう付近を巡回しているエリートトレーナーによってわざと岩が積まれているのだと思う。
ヒカリの「なんであっちの道は岩で塞がれてるんだろう」という疑問に答える形で、そんななんてことのない会話をしながら私達はクロガネゲートの中をのんびりと歩いていた。
クロガネゲートの中は薄暗い。いつ野生のポケモンが現れるかも分からないし、足場も悪いので走るのは避けた方が無難な場所だ。
といってもゲートの入口から出口まではほぼ真っ直ぐ一直線で、障害物があるかどうかしっかり確認出来る程度には明かりが灯してあることで、急いでいる人やせっかちな人は走って通り抜けて行く。私とヒカリが歩いている間も、何人かのトレーナーが走って横を通り過ぎていった。
きっとジュンもそんなふうに走ったんだろうなと二人で笑い合って、けれど私達にはそんなに急ぐ理由も無いからと他のトレーナー達とバトルをしながらゆっくりと足を進めていた。
そうしてクロガネシティへの道程のだいたい半分と少しを歩き進めた頃、私達は思わぬ出来事に見舞われ、足止めを余儀なくされた。
本当に突然の出来事。ゲート内にいた他のトレーナー達も驚きの声をあげていたから、普段起こるような事じゃなかったのだと思う。
クロガネ側の出口の向こうの景色が薄ぼんやりと見えてきて、出口が近付いてきたとヒカリと二人ほっと息を吐いた時、進行方向に立ち塞がるかのように頭上から降ってきた蠢く影達。
それは、夥しい数のズバットだった。
ズバットの影が壁に設置された明かりの光を遮りゲート内が薄暗くなる中、ズバットの敵意がこちらに向けられていることに気付いて私はすぐさま踵を返した。
ヒカリの悲鳴、他のトレーナー達の驚きと疑問の声がゲート内に反響する。
野生のポケモンとエンカウントした時はポケモンバトルをするものだけど、これはいくらなんでも数が違い過ぎた。まだ十分体力はあるといってもアリマサもレンゲも道中のバトルで消耗しているし、相手は数を把握出来ないほど集まっている。
逃げの一手しか無かった。
すぐそばをヒカリも走っていて、他のトレーナー達も混乱の中めいめいに走り回っているようだった。
バサバサとはばたくズバットの羽が身体のあちこちにぶつけられて痛みが走る。視界を遮るようにズバットがいるせいで行きたい方向へ向かえない。ただ闇雲にズバットが居ないところを求めて走り回るのみ。
そうして何分逃げ回ったのか。
ずるりと足元が滑って、突然地面が消えた。
「きゃあ!」
「な!?」
咄嗟にちょうど真横に並んでいたヒカリを引き寄せて縋るように腕に抱く。背中に何かが当たってバウンドし、そのままゴロゴロと何処かを転がり落ちる。
漸く止まった時には、全身の痛みで放心状態だった。腕の中にはヒカリが居る。
ゆっくりと目を開いて辺りを確認するけれど、さっきよりも暗いせいで視界は不明瞭だ。
ただ目の前にぽっかりと口を開いているのが穴だということは、分かってしまった。
はぁ、と深く息を吐き出す。
どうやら私達は、地面の下に落ちたらしい。
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