旅に危険は付き物


「ヒカリ、サキ、大丈夫か? どこか変な痛みがあるとことか無いか?」
「痛いけど、擦り傷ぐらいかな……お姉ちゃんが庇ってくれたからそんなにぶつけてないの。お姉ちゃんは怪我してない?」
「ちゃんと動くよ」

 身体を動かせるぐらい痛みがひくのを待ってから、ヒカリはアリマサとレンゲをボールから出した。
 ずっとボールの中でやきもきしていたんだろう、アリマサはすぐにヒカリに駆け寄ると心配そうに怪我の有無を確認する。無傷ではないけれど、ヒカリは普通に動き回れるぐらいには元気そうだ。
 地面を転がったのだから擦り傷は仕方が無いが、動けないような怪我をしていなかったのはかなり幸運だ。見上げた先の天井に開いた穴はそれなりに高さのある場所にあって、あの高さから今私達が居るところに直接落ちていたらきっとただでは済まなかったと思う。
 すぐ横の丘になっている場所に一度ぶつかったのが良かった。まぁ多分、私の背中には後々大きな痣が出来るだろうけど。

「わたし達、そこの穴の上から落っこちてきたんだよね……。ここから元の場所に戻れるかな」
「その穴からじゃ無理だろうねぇ。あたしらじゃここは登れそうにない」
「なんとか他のポケモンに見つからないよう上への道を探すしかないだろうな」

 上からの助けを期待するのは分が悪い賭けだろう。他のトレーナー達はパニックになっていたし、ここに私達が落ちていることを気付いている人が居るかも分からない。
 来るかどうか分からない助けを待ち続けるには、野生のポケモンが地上より強い可能性があるこの地下一階は危険だ。
 動こうと動かまいと野生のポケモンは現れる。それなら自分達で出口を探す方が良いかもしれない。

「とりあえず壁沿いに進もうか。そうすればいざという時またここに戻ってこれるし」
「うん。……暗いから気を付けて進まないとだね」
「フラッシュの技を使えれば良かったんだけどねぇ……静電気ぐらいじゃ全然照らせやしない」
「あんまりでかいのは無理だけど、火ィ出しとくな」

 シュボッと音をたててアリマサの尾が燃え出す。火は小さくてこれっぽっちも辺りを照らせてはいないけど、ゆらゆらと揺れるオレンジ色にヒカリがホッと安心したような息を吐き出したから、ヒカリには効果があったみたいだ。
 落ち着いているように見えて、その実怯えていたのかもしれない。こういう時はきっと怯えるのが自然なんだろうな、とぼんやり思う。

「なんか落としたりとかしてないよな。んじゃとりあえず真っ直ぐ行ってみるか」
「うん」

 アリマサが先頭に立って歩き出す。地形が分からないからゆっくりと。その後ろをヒカリが続き、少し離れたところをレンゲが警戒するように辺りを伺いながら歩く。
 私も同じように一歩踏み出して、───そしてぎりっと奥歯を噛み締めた。
 大丈夫。ちゃんと動く。動くから、大丈夫。
 ここは留まるには危険な場所だから動かないといけない。動けないなんて言えやしない。
 ポケモンセンターに辿り着けさえすれば治してもらえるのだから、多少の無理は無理じゃない。

「その辺石転がってるから気を付けろよ」
「わ、ほんとだ。お姉ちゃん、石がたくさんあるよ」
「うん、分かってるよ。ちゃんと前見て歩いてねヒカリ」
「はぁい」

 一歩踏み出すごとに、足が痛みを訴えて悲鳴をあげる。
 ゆっくりと進むからなんとか着いていけているような状態だけど、慎重に歩いているフリをしているからまだ誰にもバレていないみたいだ。
 大丈夫。ここを抜けるまでだから、これぐらいの痛み隠し通せる。
 じわりじわりと出口を目指して進んでいく。
 大丈夫、大丈夫。
 ひたすらそう心の中で唱えながら、私は足から力が抜けてしまわないよう気合を入れて地面を踏み締めた。
 早く、ここから出なければ。

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