旅に危険は付き物
手慰みに捲っていた雑誌を閉じて、部屋の壁に取り付けられた時計を見る。
現在時刻は午後七時半を少し過ぎたぐらい。ポケモンセンターの窓の外、上を見上げれば控え目にチカチカと瞬く星空が広がっていて、下を見下ろせば心許ない灯りに照らされる人影もまばらな道路が闇の中に浮かんでいる。
私はふぅ、と息を吐き出し、とっくに読み終わってしまった数冊の借り物の雑誌をソファーの上に置いた。そろそろトイレにでも行こうとジョーイさんから借りた車椅子を引き寄せ乗り移ると、他に物音のない室内に思ったより大きく車椅子が軋む音が響く。ちらりと視線を向けた左足首には、きっちりと固定されたギプスと包帯。
ふぅ、と溜め息をもうひとつ。なるべく目立たないようにと頼んだけれど、ギプスの厚みの分どうしてもそこそこ存在を主張してくる。ヒカリには捻挫だと言うつもりなのだが、上手く誤魔化されてくれるだろうか。まぁ、一番目立つのは車椅子だろうが。
そんなことを考えて三度目の溜め息を吐き出した時、こんこんとノックの音が聞こえた。はい、と応えれば「お姉ちゃん?」と扉越しにヒカリのくぐもった声がする。「開いてるよ」と返せば、一拍置いてガチャリとドアノブを捻る音がしてゆっくりと扉が開いた。しょんぼりと肩を落とし草臥れた雰囲気を纏った少女が、足裏で床を舐めるように引き摺って一歩部屋に入ってくる。
「おかえり」
「ただいまー……って、え!? お、おねえちゃ、それ、え、あし!」
足元を見ながら歩いていたヒカリは私の方を見た瞬間、草臥れた雰囲気を吹っ飛ばし、ついでに身体もぴょんと跳ねさせてから、部屋の扉を閉めるのも忘れて私の目の前に滑り込んできた。私の顔と、手当がされた左足首と、見慣れないだろう車椅子を順繰りに見やって、今にも泣き出しそうに目を潤ませる。うん、予想通りの反応だ。私はヒカリを安心させるように笑いかけて、まず扉を閉めてくるようにと促した。濃紺の髪に絡んで入り込んできたらしい夜気がひやりと頬を擽っていく。
「アリマサとレンゲ、出してあげなね」
「あっ、う、うん」
慌ただしく来た道を戻って扉をバタンと閉めたヒカリの腰を指差せば、まごつきながらもモンスターボールをホルダーから外して二匹を解き放つ。
ぽん、と飛び出してきたアリマサはまだ取り乱した様子のヒカリにそっと寄り添い、続いて姿を現したレンゲは床に降り立つのと同時にしゅるりと形を変え少女の姿で勢い良くソファーへ身を投げ出した。
「ただいまー! つ、か、れ、たぁ……」
「随分と頑張ってきたみたいだね」
「そうなの。もうあたし一歩も動けないよぉ」
ソファーの上でごろんごろんと収まりの良いところを探すレンゲから借り物の雑誌を守ろうと手を伸ばすと、その前にアリマサが回収してくれる。ありがとうと言えばアリマサはちらりと私を見て、何故だか気まずそうにぎこちなく視線を逸らす。ヒカリは草臥れていてレンゲは疲れ切っていて、……アリマサは落ち込んでいる?
ここのエントランスで別れてから何があったのだろう。
「おねえ、ちゃん……」
「ん?」
考えようとしたところで、斜め下からヒカリが私を呼んだ。車椅子に座る私の足元に膝をついたヒカリは私の足を睨み付けるように見ていて、大粒の雫が下睫毛に乗っているのが見える。あと一度瞬きをすれば落ちそうだな、なんて思った瞬間、勢い良くヒカリが顔を上げたせいでそれは瞬きの前にどこかに飛んでいった。
「こ、これ、って、まさか、骨折……? クロガネゲートで、わ、わたし、を、かばったせい……?」
すん、と鼻を啜る音が混じる言葉。ぎゅうとスカートを握り締める音。ぐしゃりと歪んだ表情。
ああ、これも予想通りだな、とヒカリを待つ間想像していたのと全く同じ言動に私は笑った。これなら上手く煙に巻けるだろう。あとは考えていた台本を諳んじてみせればいい。
それできっと、ヒカリの罪悪感を薄く出来る筈だ。
「これね、ただの捻挫だよ。ちょっと大袈裟に手当てされちゃったけど」
「ねん、ざ」
「全治一週間。三日ぐらいはなるべく動かしちゃ駄目ってことで、こんながっちり固定されてるの」
ぱちくりとヒカリは瞬きを繰り返す。瞬きとともに私の言葉を噛み締めるような素振りを見せ、徐々にヒカリの身体から強ばりが抜けていく。もう少し、かな。ヒカリが完全に落ち着きを取り戻す前にと、私は言葉を続けた。
「走ったのなんて、引き篭る前が最後だったから……まぁこんなことになっても、仕方ないよね。運動不足のせいだよ」
ぽふ、とヒカリの頭に手を乗せて、そっと撫でる。ヒカリのせいじゃない、旅なんてしていればそこそこの怪我なんて珍しくない、昼間はちょっと運が悪かっただけ。更に言葉を重ねて、ヒカリの罪悪感が薄まるよう上書きする。
視界の端で、レンゲがくありと欠伸を零すのが見えた。
「……ほ、ほんとに、大丈夫なんだよね?」
ヒカリが震える声で囁くように尋ねてくる。ちらりと私の足を見ていたから、見た目のインパクトが強過ぎて安心しきれないのかもしれない。ギプスなんてどんなものかは知っていたとしても、見るのは今日が初めてだろうし。
「うん、大丈夫。ただの、ちょっとした怪我だよ」
私が努めてゆっくりと言い含めるように答えると、ヒカリはほう、と長く長く息を吐き出してぐいと袖で目元を拭った。
「……なら、よかったぁ……」
震える唇が緩く笑みの形になる。
目元はまだくしゃりと泣きそうなまま、けれどもう張り詰めた雰囲気は遠ざかろうとしている。
ひとつ区切りがついたような空気の中で、私はそっと身体から力を抜き、背もたれに体重をかけた。
「……さて、もう八時前になるけどご飯食べる? それとも先にお風呂に入る?」
ぺち、と手を叩いて明るく声を上げれば、ヒカリはきょとんと目を瞬かせ、それから少し慌てたように自分の服の裾を見回した。クロガネゲートでのことで少し土に汚れていたのが、更に黒い煤のような汚れまで増えている。
「……お、おふろ、かな。クロガネ炭鉱でバトルしてたから黒くなっちゃったみたい」
「そっか。じゃあ早く入っておいで」
「うん!」
自分の汚れっぷりに気付いて、恥ずかしそうにヒカリははにかんだ。握り締めていたせいで少しシワが寄ってしまったスカートをちょいちょいと伸ばし、部屋の隅へ向かうと持ったままだった鞄を私の鞄の横に下ろす。
サッとマフラーと帽子を外し、纏めてあった着替えセットを鞄から取り出す動きは、まだ旅立ってからほんの数日しか経っていないというのにもうすっかり慣れたものだ。
「それじゃ、お風呂入ってくる!」
「うん。あがるぐらいにご飯の準備しとくよ」
ヒカリは一人で風呂場へと向かう。ぱたぱたと廊下を走る足音、脱衣所のドアを開けて閉める音。その後はもう何も聞こえなくて、途端に部屋の中はしんと静まり返る。
「……レンゲは、一緒に入らないの?」
「あたしはねぇ、外で水浴びしてきたから今日はもういっかなって」
気怠げな声はどうも睡魔に抗っている様子だ。晩ご飯がまだだからと何とか頑張って起きている状態らしい。アリマサの方を見れば小さくウキャ、と呟いたが、その声は小さ過ぎてヒカリのマフラーに取り付けられていた翻訳機は反応しなかった。……身体に着いた煤を気にしているようだから、多分あとで入るとか言ったのだと思う。
そこで何となく会話は完全に途切れて、ひんやりとした夜の気配だけが満ちた。自分の思った通りに事が運んだ満足感が胸にあるのに、どこか座りの悪いような気がする雰囲気に首を傾げる。
今にも寝落ちしそうなレンゲ、しっぽの炎がいつもより控え目に揺らぐアリマサ。
長く、呼吸をひとつ。
「私、ちょっとトイレ行ってくるね」
そういえばヒカリが帰ってくる直前、トイレに行こうとしていたのだったと思い出して私は車椅子を回した。ぎ、と小さな軋む音を立てて進み、廊下へ出ていく。そこは照明を全部付けていたから眩しくて、私はトイレへの道すがら外に繋がる扉の辺りの電気を消した。ヒカリ達は帰ってきたから、もうこんなに迎える為の灯りはいらないだろう。
そうして用を済ませ静かな室内に戻れば、いつの間にか人の姿になっていたアリマサが窓際に立っていた。戻ってきた私に気付いて、何故か軽く睨む様な目付きで私を見る。
「……よく、あんなにすらすらと嘘がつけるよな」
低く、淡々とした声だった。
なんのことかと一瞬考えて、そういえば私がジョーイさんに触診され骨折の可能性があると言われたあの場には、足元にアリマサ達が居たことを思い出す。アリマサは、私の足の怪我が捻挫なんて軽いものではないと知っていたのだった。
「ヒカリに秘密にしてくれてありがとうね」
「良いのかよ、全治一週間とか言って。骨折じゃそんな早く治んないだろ」
「それが、治るんだよね」
笑いながら言えば、アリマサは怪訝そうに眉を寄せる。普通なら治るはずがないのだからアリマサが信じられないのも当然だ。私もジョーイさんに聞いた時は「本当に?」と聞き返してしまった。
「毎日朝昼晩の三回、食事と一緒にラッキーのタマゴうみのタマゴを飲めば一週間で完全に治るらしいよ。骨がちゃんとくっつくまでの三日ほどは足を動かさないことが前提で」
「……まじあの技デタラメだな……」
アリマサがドン引きしたように言うのに私もうんうんと頷く。ラッキーが生み落とすタマゴには自己治癒能力を高める効果があるのだと、この前ポッチャマの水鉄砲を手のひらで受け止めてタマゴを飲ませてもらった後に調べて知ったが、まさか人間の骨折をたった一週間で治せるほどとは思わなかった。傷にもなっていなかったのにあれはかなり勿体無かったのではないかと、今更ながら遠い目をしてしまう。
そんな私を横目にアリマサはハッと目を見開いた後、わざとらしく咳払いをした。急に表情を険しくさせ、また私を睨んでくる。
「さっきの、さ。……ヒカリが気にして、旅やめるとか言い出さないように隠したいのは分かる。分かるけどな」
妙に早口で息継ぎは苦しそうだ。落ち着いて、と声を挟もうかと思ったが、それよりもアリマサが畳み掛けるように言い募る方が早かった。
「骨折だぞ。捻挫で誤魔化すには無理があるだろ。クロガネゲートの地下でも歩くのがきついだけじゃなくて……痛むことまで、全部隠してたじゃねぇか」
ぶつぶつと、でも途切れずに言葉は続く。無茶だの、限度があるだの、今後どうするつもりだったんだの。
私はそれを、曖昧に頷いて聞き流した。アリマサはとても正しいことを言っているな、なんて思いながら。言い方はどこか八つ当たりのようだけれど。
「はーい、そこまでにしな」
アリマサはいつ話し終わるんだろうと思い始めた頃、間に入ったのはレンゲだった。手をパタパタ振りながら身体を起こすも眠気に引き戻されるようにくんにゃりと揺れて、それでも視線はこちらから離さない。
「アリマサは素直じゃないから言い方キツいけどさ、サキのこと心配してたんだよ。今も、トイレまで車椅子押した方が良いのかもって思って、人の姿になったんだよねぇ?」
「……うるせぇ」
アリマサは短く返して、ツンとそっぽを向く。その横顔は少年らしく幼い。
幼いから、次に私を見据えてきた時、あまりにも真剣な表情をしていて少し驚いた。
「あのさ、サキ」
「……ん?」
「昨日の夜あんたと話した時、俺はあんたが危ない目にあっていても見捨てるかもしれないって言って、あんたも自分のことは見捨てろって言った」
「言ったね」
「でもさ、なんつーか……良心の呵責っていうのか、自己嫌悪っつーのか。なんか苦しいわ」
今度は、相槌を打てなかった。瞬きも出来ずにお互いの目を見合う。まるで睨み合いだ。あーあ、せっかくお願いしたのに、な。
「まだ俺は弱くて、何かあった時守れるのはきっと一人だけだ。でも昨日の夜のは半分脅しみたいなものだった。強くなればきっとついでにあんたも守れるだろうってタカをくくってた。……こんなに早く、あんたが大怪我するなんて想像してなかった。甘かったんだ」
抑えた口調はじわじわとせり上がってきたコップの水嵩のようだと思った。溢れそうで、溢れない。
「俺もレンゲも、地下であんたの足音がおかしい事に気付いてた。気付いてて、あんたの見捨てろって言葉を言い訳にして知らないフリをした。助けられないって分かってたからだ」
そこまで一息に言って、アリマサは口を噤んだ。
唇を噛み、視線を床に落とす。
「……ごめん」
短くても感情が強く込められた、絞り出すような声だった。
だから私はそれを聞こえなかったことにする。そんな感情を私は受け取る気は無い。必要が無い。昨夜の言葉を撤回する気もさせる気も無いのだから。
代わりに、いつものように口元を緩めた。
「……そろそろヒカリがあがってくるね。晩ご飯、準備しないと」
勢い良く顔を上げたアリマサは一瞬だけ目を見開き、それから怒りを露わにするように力いっぱい眉を寄せた。泣きそうにも見えるその顔から私は目を逸らす。もう睨み合いはしなくていい。
ほんの少しの間を置いて、アリマサは諦めたように短く息を吐き出した。
「……俺がやる」
「ん?」
「飯。俺がやるから、やり方だけ教えてくれ」
ぶっきらぼうな、いつも通りの声。
これで元通りだと私は笑みを深めた。昨日みたいに作り笑いが下手だと言われるかと思ったけれど、アリマサももうこちらを見ていない。
「やり方っていっても、もう作ってあるから温めるだけだよ」
「その足で作ったのかよ……」
「みんななかなか帰ってこなかったからね」
気まずそうにアリマサが呻いて、レンゲがごめんねぇと間延びした声で呟く。
その後は私の指示でアリマサがラップをかけた料理を電子レンジで温めているうちにおかしな空気は薄れ、そのうちにぱたぱたと足音を響かせて待ち望んだ彼女が帰ってくる。
「おまたせー!」
温め終わったのを告げる電子音が鳴るのと、ヒカリが部屋に入ってくるのと、どちらが先だっただろう。
寝巻きに着替えたヒカリは温まった料理の匂いに気付くとぱっと表情を明るくさせた。
「美味しそうな匂い!」
「タイミングぴったしだな」
そのままヒカリはダイニングテーブルの席に着き、その横にふらふらとレンゲが歩いて行く。温め終わった料理の大皿はアリマサの手で机の中央に置かれ、取り受け皿とトングまで人数分用意される。私がヒカリ達を待っている間に作ったのは肉野菜炒めと茹でたウィンナー、目玉焼き、そしてインスタントのオニオンスープだ。この足では買い物には行けないので、ポケモンセンターが準備してくれて無料で使い放題の、冷蔵庫の中にある食材のみで作った。味付けは備え付けのレシピ集を参考にしたから確実に美味しいはずだ。
私は車椅子を動かして、アリマサが椅子をどかしてくれたヒカリの前に着く。
アリマサは全員分の白米をよそって並べてから、レンゲとは反対のヒカリの横の席に座った。
「それじゃ、いただきます」
「いただきまーす」
食事が始まってしばらくは、箸の触れる音と小さな咀嚼音だけが続いた。レンゲは半分眠ったような顔でゆっくりと口を動かしていて、たまに箸から肉や野菜を取りこぼした時だけ覚醒し、茶碗で素早く受け止めている。
「……今日ね」
そんな中、ぽつりとヒカリが言葉を落とす。
「今日、ジム戦行ってみたけど……ジムリーダーのヒョウタさんに、負けちゃった」
その声はどこか言葉を選ぶように途切れ途切れで、分かりやすく萎れていた。帰ってきた時のヒカリが落ち込んでいたのはそのせいかと思いながら、私は黙って続きを待つ。
「ヒョウタさんにね、力は充分だけど……まだ足りないものがあるねって言われたの」
「足りないもの?」
私が聞き返すと、ヒカリはうん、と小さく頷いた。
「ジュンも同じこと言われたらしくて。それで一緒に特訓してみたんだけど……結局、何が足りないのか、さっぱりなの」
箸先にご飯を乗せたまま、ヒカリは困ったように眉を寄せる。斜め上を見ているのは、特訓の内容を思い出しているからか。ふぅ、と溜め息を吐いて箸を口に運ぶ。
「強くなりたいって思ってるし、ちゃんと指示も出してるつもりなのに……なんで勝てなかったんだろう」
「その時の運とかも、あるからね」
私はそう言って、口に運んだスープをゆっくり飲み下した。実際のバトルを見ていない私には分かることは少ない。……まぁ何となく、分からないこともないけれど。
「バトルをしていればきっと見えてくるものもあるよ。まだまだこれからなんだから」
「……うん」
ヒカリは私の言葉に少しだけ肩の力を抜いたようだった。私からのアドバイスを求めていた訳ではなく、ちょっと愚痴りたかっただけなんだろう。
それから二、三口分ほど食べ進めたところで、私は話題を変えるように口を開いた。
「そういえば、今日帰るの遅くなったでしょ」
「え、あ……うん、ごめん」
反射的に謝るヒカリに、私は首を振る。
「怒ってるわけじゃないよ。ただね、今日助けてくれたあの人が言ってたの。ポケモンが連れ去られる事件が多発してるって」
「……それって、この前ハンサムさんから聞いたやつ?」
「うん。同じ話だと思う」
ヒカリは箸を止め、少し考えるように視線を上げた。
「でもさ、そんな話、他ではあんまり聞いたことないよ? ニュースでもやってないし……」
不思議そうにヒカリは首を傾げる。その疑問はもっともだ。ただ話に聞くだけで、実際に見た街の光景は至って平穏そのもの。私もハンサムさんから聞いただけの時は、話半分で居た。だけど。
「ニュースになってなくても、あの人まで言うなら間違いないよ」
「そうなの?」
ヒカリはぱちぱちと瞬きをする。
「あのお姉さん、そんなことまで分かるすごい人だったの?」
「……まぁ、そんな感じ。だからあまり遅くならないように気を付けてね。危ない人が出るかもしれないから」
「ふーん……分かった! ジュンにも伝えておくね」
ヒカリはいまいち理解しきれては居なさそうだが、危ないということは分かってくれたらしい。
私がジムでどんな戦い方をしたのかを聞く頃には、テーブルの上にはいつものような穏やかな空気が戻っていた。
話をしながら思い出すのは、あの女性の探るような銀の瞳と、彼女に付き従っていた男の鋭く射抜いてきた紅の瞳。あの人たちが言うことなら間違いは無い。嘘をつかれる理由も無いし。
――だって、あの女性は。
絶対に忘れることの出来ない存在感は、一度認識したら頭の片隅から消えてはくれない。一時期はどんな雑誌にも引っ張りだこで、表紙まで飾っていた人。
このシンオウ地方で今現在最強のポケモントレーナーであり、治安維持に努めるエリートトレーナー達のまとめ役でもある、……チャンピオンのシロナその人だったのだから。
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