思い出話なんて一瞬で終わるもの
「名前さん! あの……ごめんなさい!」
「え? 何が?」
突然コウキに謝られたのは、ポケモンセンターへ向かう途中のことだった。
私の方が一歩先を歩いていたのに思わず立ち止まってしまったせいで追い抜かれる。ムックルの群れがあの特徴的な鳴き声を響かせながら頭上を通り過ぎていった。
コトブキシティはそれなりに賑わっている街だが、すれ違う歩行者は道のど真ん中で立ち止まる私達を少しも気に掛けやしない。
「……ヒカリ、トレーナーズスクールに行くの嫌がってましたよね。僕気付いてなくて……無理やり連れて行こうとしてごめんなさい。名前さんも、行きたくなさそうな雰囲気だったし……」
ああ、その事か。別に気にしなくてもいいと思うのだけど、性格的にそうもいかないのだろう。私だって、自分のせいで他人に嫌な思いをさせてしまったら気にする。気にしないのなんてひねくれていたりで性格に難がある人ぐらいじゃないだろうか。
さりげなくコウキを誘導して道の隅に移動する。
「確かにあまり行きたくない場所ではあったけど、多分ヒカリは自分であそこに行くって言ってたと思うよ。私も気にしてないし、そんな落ち込まなくて大丈夫」
「……ごめんなさい」
しょんぼりと肩を落としてしまったコウキに、どうすればいいか悩む。こういう時の対処方なんて知らない。慰める? 話を変える? 慰め方は分からないし話を変えようにもネタが無い。
考えるのも、面倒臭い。
「……なんでトレーナーズスクールに行きたくなかったか、教えてあげようか」
「聞いても、いいんですか」
「うん。別に大した話じゃないし、……ちょっと愚痴りたい気分なんだよね」
話を逸らせないなら、掘り下げよう。
この年頃の子だ。好奇心は有り余っているだろうし、友達の様子がおかしければ理由を知りたがるだろう。自分からは尋ねてこなくても。
愚痴りたいというのも、嘘ではないし。
「とりあえずポケモンセンターに行こうか。話はポケモンセンターのレストランで、どう?」
コウキが頷くのに少しほっとしながら再び歩き出す。
コトブキシティの人は私達を気に留めることは無い。新人トレーナーなんていくらでもいるし、景色の一部ぐらいにしか思っていないだろう。けれど、見られていないと分かっていても、人通りの多い場所にいるのは落ち着かない。
───ヒカリ以外、皆敵。そう思ったことがある。この街で。
二度とそんなこと思いたくないものだ。気を張り続けるのは酷く疲れるのだから。
ポケモンセンターに着いてコウキはポケモンを預け、私は二人部屋の予約をする。
ジョーイさんはマサゴタウンに居た人と瓜二つ。
同じ家系の人がジョーイさんになることが多いらしいが、特に関係ない人でもジョーイにはなれるらしい。そっくりなのは髪型とメイクで似せている、というのはコウキの話だ。マサゴタウンのジョーイさんは実はジョーイの一族の人ではないらしい。
ジョーイさんはポケモンに平等に接する。たとえそのトレーナーが犯罪者だとしてもだ。ジョーイとはかなり危険と隣り合わせな職業であり、そのため個人を特定されないよう素顔を隠し皆同じ顔になるように化粧をするのだそうだ。
そんな他愛ない事を話しながら向かったレストランは時間が中途半端なこともあり貸し切り状態だった。
さて、どう話し始めようか。
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