思い出話なんて一瞬で終わるもの
すっかり温くなって氷なんて一欠片も残ってないお冷やを一気飲みする。
こんなに喋ったのなんて、初めてかもしれない。喉の奥に鋭い痛みを感じるしこれ以上喋ると喉が嗄れそうだ。
目の前で黙って私の話を聞いてくれていたコウキは酷く苦々しい顔で固まっている。
「……ヒカリから、サキさんはトレーナーにならないって聞いたんですけど、そう決めたのはそれが原因なんですか?」
絞り出すような声で尋ねられて、どうだっただろうかと考えてみる。
部屋に引き篭った頃にはもうトレーナーにはならないと決めていた筈だ。いつ決めたのだったか。
トレーナーになっちゃいけないと言われた時だっただろうか。
いや。
「あれはきっかけではあるけど、だから決めた訳では無かった、ような? ちゃんと自分で決めたんだよ。トレーナーになるなって言われたからトレーナーにならない訳じゃない」
トレーナーになっちゃいけないと言われる前に、何かを言われたんだ。それがストンと自分の中に納まって納得したんだったと思う。私が、トレーナーになってはいけない理由。
「ああ、そうだ。私の手持ちになるポケモンが可哀想だって言われたんだ」
「! なんですかそれ! そんなの他人が決めつけることじゃないじゃないですか」
「そうなんだけどねぇ。私自身が納得しちゃったからなぁ」
思い出せるとすっきりする。
私は、ビッパを蹴飛ばした時、申し訳無いとか可哀想だとかは思ったけれど、自分が悪いとは欠片も思っていなかった。だってヒカリを守るためだったのだ。私の方が歳上とはいえ所詮子供の力じゃ妹を運ぶことも出来ない。人を危険な場所から引き離すことが出来ないならポケモンの方をどうにかするしかない。まぁ、あの時そんなこと考える余裕はなくて、勝手に身体が動いた結果がビッパを蹴飛ばすことだったのだけど。
可哀想なんて思いながら、私は躊躇うことも無く後悔することも無かった。仕方無かったとしか思わなかった。
私は、ポケモンを大切にすることが出来ない。
「他人から言われたことがきっかけだけど、私が、確かに私の手持ちになるポケモンは可哀想だな、って思ったから、トレーナーにはならないって決めたんだ」
くしゃりとコウキが顔を歪ませた。
コウキもヒカリも、ポケモンを大切に思っている。大切に思えない、なんて未知の感情だろう。だから私の言うことも理解できないし納得も出来ないと思う。
「大切に思えないからって、大切に接することが出来ない訳じゃないでしょう」
「酷い扱いをするかもしれないし」
「先のことなんて、分からないでしょう」
「取り返しのつかない事を仕出かしてからじゃ遅いんだよ」
思い浮かぶのは、動かなくなったビッパの姿。
あの子がどうなったのか私は知らない。
バトルをしていたあの子は、野生のポケモンだと言い張っていた。その後トレーナーの元に戻れたかどうかも分からない。主人に見捨てられたビッパは、どう思っただろう。
あんな風に、自分で自分のポケモンを大切に出来ないならトレーナーにはなってはいけない。ポケモンだって感情のある生き物なんだから。
「……トレーナーとポケモンの関係の形なんて、沢山あります。サキさんなりの関係を築くことだって、きっと出来る筈なのに」
「そうかもね」
「サキさんにトレーナーになるな、なんて言った人達はおかしいと僕は思います。確かに、ビッパを蹴飛ばしてしまった事は良くない事ですけど、だからってそこだけを見て、そこだけを責め立てるのは、絶対違う」
真面目な、良い子だ。
顔を赤くさせながら、もう昔に過ぎ去ってしまった出来事に憤っている。私が納得いかなかったことに怒ってくれている。
「コウキみたいな子が、あの頃にも居てくれたら良かったのにね」
あの頃そんな風に言ってくれる誰かが居たら、私は今みたいにならなかったかもしれない。
なんて思っても、もうどうしようもない事だけど。
目の前の少年は、私には酷く眩し過ぎる。
20181112
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