「…とまぁ、そういうわけなんだよ、オヤジ」
「つまりその小娘は昨日おめぇが連れてた猫っつーわけかぁ」
「あぁ、そういう事だ」
「グララララ、それにしたって海賊船に盗みに入るたぁ、随分肝の座った小娘だなぁ」


エースが一連の説明を終えると、大男は自分の船に盗みに入られたことを怒るわけでもなく、名前の行動を腹の底から笑って流した。


「なぁオヤジ、こいつ見ての通りで身寄りがねぇらしいんだ」
「エースよ、まぁお前の言いたい事と気持ちはわかったがなぁ。うちの船にはルールがあるだろう」
「ゔ、それはそうだが…そこを何とか頼むよ、なぁオヤジ」
「この船には女は乗せねぇルールだろう、それはもうこの所ずっと例外なんてねぇ。女の子供なんてなりゃあ尚更だ。それにそれはこの小娘自身の為を思っての事だってぇのは、エースお前にもわかるだろう」


まるで連れ帰った捨て猫を飼う事を親に許しを乞う子供のように、エースは名前を船に置く事を大男に必死に頼み込んだ。
その様子に弱った様子の大男は、エースを宥めようと船のルールを説き伏せる。


「で、でもオヤジ」
「おう、まだなんだってんだ」
「こいつは女じゃねぇ…雌だ!」
「…エースよ、お前そりゃああまりに屁理屈ってもんだ」


ああ言えばこう言う、とはまさかにこういう事だろう。
苦虫を噛み潰したような渋い顔を浮かべる大男に、遠慮なしにエースが畳み掛けていく。


「それにオヤジ、昨日オヤジは俺に好きにしたらいいって言ったじゃねえか。まさかオヤジ、男に二言はねぇだろう?」
「うーむ…」


聞き分けの悪い子供のようにエースが切り出す突拍子のない理論に大男も埒があかないと堪忍したのか、はぁ、と大きな溜息を溢す。


「おい小娘、お前名前はなんていう」
「名前、です」
「ほぅ、…名前かぁ、いい名前だ」


こっちに来い、とでも言うように大きな手をこまねく大男の元に名前がおずおずと足を進めると、まるで壊れ物を触るかのように触れるか触れないかの優しい手つきで頭をひと撫でされる。


「俺は白ひげ。この船の船長だ。まぁ細けえ事はあとでこの屁理屈から聞けばいい。…名前よ、今日から俺の事ぁ、オヤジと呼べ」


(オヤジ…)


昨日から散々耳にしていたその言葉を胸の中で反復するも、お世辞にも品があるとは言えない男勝りなその言葉遣いは、名前にはなかなかしっくりこないらしい。
数秒間をおいて名前の口をついたその言葉に、先ほどまで苦虫を潰したような顔で頭を抱えていた白ひげの口元が綻ぶ。


「…パパ」
「…まぁ娘ってーのも、1人くらいは悪かぁねぇ」


そう言ってグララララと豪快に笑う白ひげは満更でもなさそうで、その表情にエースと名前はほっと胸を撫で下ろした。



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