隣で眠る君

目が覚めてすぐに身動きが取れないことに気づく。口元に触れる細くて柔らかい髪の毛がくすぐったくて思わず目を細める。

目線を下げると、私の腰周りに手を回しぎゅうっと抱きついたまま寝ている彼は五条悟。私より二つ年上の恋人だ。

すーすーと寝息を立てて寝ている彼は本当に寝ているのか?と思うほど強い力で私を抱きしめてくれているものだから、全く身動きが取れない。

せっかく気持ちよく寝ているところを起こすのは少し可哀想だけど、今日は多忙な彼が久しぶりに一日オフの日なので一緒に出かけようと約束をしていた。

正直、久しぶりのデートなので気合を入れてメイクもしたいし髪もセットしたい。支度をしている間彼には寝てもらって、私は支度をするためにそろそろ解放してもらおう。

「五条さん」

私の胸元にある頭を撫でながら名前を呼ぶが起きる気配はない。

相変わらずぎゅうっと抱きしめる力は強くて抜け出せそうもなく、今度は五条さんの体を少し揺さぶる。

「五条さーん、起きてー」
「んー…」

うーん、と少し唸り声をあけてうっすらと目を開ける五条さん。
まだ、ぼんやりとしている彼の姿はとても自分よりも歳上とは思えなくて胸の奥がくすぐったくなる。

「五条さん、そろそろ起きたいので離してもらっていいですか?」

正直、私だってもう少しこの時間を堪能したい気持ちはあるけれど、そろそろ活動しなければ貴重な五条さんとのオフが終わってしまう。それだけは回避したい。多忙な五条さんの一日オフは本当に貴重なのだ。

「出かける準備したいんですけど、離してもらっていいですか?」

私の問いかけに対しまだ半分寝ている彼は嫌々と言うように頭をぐりぐりと私の胸元に押し付けてくる。

「…やだ」

寝起きのせいなのか少し掠れた低い声でそう言われ、五条さんを見ると上目遣いの五条さんと目があった。

私よりはるかに身長の高い五条さんを寝ながらではあるが見下ろす形になって少し不思議な気持ちになる。

「でも、せっかくのお休みなのに時間が」
「名字、お願い」

ぎゅうっと回された腕にさらに力が込められて私はますます身動きが取れなくなる。
まるで小さな子どもみたいぎゅうっと抱きしめてくる五条さんの頭を撫でると五条さんは目を細めて笑う。

「くすぐったいんだけど」
「五条さんてずるいですよね、私が五条さんにお願いって言われるとなんでも許しちゃうの分かってて言うんですもん」

五条さんにそう言うと、また彼は目を細めて笑う。
時折見せるこの子どものような笑った顔が私は大好きだ。

「あと10分だけ」
「…分かりました、あと10分だけですからね」

早く支度しないと出かける時間が無くなってしまうのはわかっているけれど、五条さんの体温が心地よくて私も再び目を閉じて五条さんの首元へ腕を回す。

きっと今日は家でゴロゴロして終わってしまうかもしれないと思いながら、愛しい彼の温もりと匂いに満たされてどんどんと意識が微睡んでいく。

ぼーっとする頭の片隅で、たまにはこんな休日もありかもしれないなと思った。

相変わらずぎゅうっと私にしがみつくように回されている腕の熱を感じながら、私もそのまま意識を手放した。