霊力とかそういったちょっと特殊な力を持った人が見る夢は、大抵意味のあるものなのだと言う。予知夢、と言うのだろうか。特に力の強い人は瞬きの数だけ瞬間の未来を視ることが無意識にでき、それは人が眠ることによって脳の中で整理され1つの映像として夢となって現れるそうだ。誰それが水をぶっかけてくる等といったどうでもいいような日常的な内容であったり、時には国をも巻き込む大惨事を引き起こす内容であったりと、まちまちではあるが。
とまあ、そんな予知夢の事を少し長く語りましたが、つまりは何が言いたいかと申しますと。
夢の内容に拠りますと自身が顕現し、これまで共に歴史修正主義者や検非違使と闘って来ました刀剣男士の誰かに私は殺されようとしているみたいなのです。
最近はもうずっと物騒な内容の同じ夢を見ています。お陰で眠れてるんだか眠れてないんだか、もう感覚が麻痺し出している。不思議と欠伸は出ないのですが。
そんな夢の内容がこちらになります。
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私は寝室で眠りに着いていました。閉ざされた障子の向こう側から、誰かが私を呼ぶ声がしふと目が覚めます。上体を起こしてから声の主にどうしたのと尋ねますが、返事は返ってきません。月明かりに照らされて障子に写る人影がゆらりと妖しく揺れました。次の瞬間、ばさりと乱暴に薙ぎ倒される障子戸。墨に塗り潰された様な黒い影が掴む抜身の刀身は、その身に月明かりを美しく走らせており、視線はそちらに奪われます。
――― なんで刀何て抜いているのですか?
当然と言うべきか、私から溢れる声は低く固い物でした。問い掛けに応えてくる事の無いその黒い影は、ゆっくりと廊下と部屋の境を跨いで来ました。そうして確実に私の方に向かって歩みを進めてきます。カサカサと足が畳を擦れる音と2人分の吐息が嫌に響くその空間。影はついに私の側まで到達すると、刀を握り締めたままその身を畳に落ち着けました。完全に固まっている私の耳元で何かを囁く影。咄嗟に振りかざしたのだろう私の腕から身を翻すことで接触を退けて見せたその影は、やれやれと言ったように首を横に振りました。
そして視界は一変。
目に映るのは影の視点から見る恐怖に歪んだ私の顔です。すっと首に這わされた刃が私の肌を抉り、次いでそこから大量に血が噴き出すのを眺める影。
――― どうして…
そんな呟きを最後に夢は終わり、私は目を醒ますのです。
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どうですか。終始物騒でしょう?最早これは誰かが私の安眠を奪う為に見せているに違いないと勘繰る程に不気味な悪夢です。こんのすけにこんな夢を何度も視るのだと相談してみたところで「それは予知夢ですね、恐らく」とやけに自信ありげな返答しか貰えた試しがありません。予知夢だと言うのなら、何か対策をするのかと思いきや放置です。何てことだ。
なら刀剣達に相談してみるのは?と一時考えたこともありましたが、それは即却下しました。もしもこれが本当に予知夢なのだとしたら、相談した途端に「何故貴女がその計画を──!」とか何とかなって、バッサリ切り捨てられることがあるかもしれないではないですか。それだけは御免です。
ひたすらに悩む日々を繰り返す内に、最初に夢を見始めたのが何時なのか、記憶は朧気になってしまいました。最初に視た夢は恐らく最近視る夢より鮮明だったと思います。刀剣男士を覆う黒い影はもっと白に近い色合いの物だったとも思います。
日が経つに連れ、危機感を覚えていくに連れ、夢は黒に染められていく。
狭まる視界に、流れ行く感情。
男士は何故、最後に必ず「どうして」と呟くのか。首に刀を這わされたのにも関わらず、何故毎回その長さが分からないのか。そもそも、何故私は布団から逃げ出さなかったのか。沢山の疑問が浮かんでは不完全燃焼に終わり、すっきりしない。
そんな考えを持ったまま生活を送っていれば、必然と男士達からは「どうしたのか」「何処か具合でも悪いのか」と心配される始末。夢の内容で悩んでいると打ち明ければ詳細を尋ねられてしまう為、曖昧に笑って誤魔化し流してもらう。皆一様に納得していませんといった顔で見詰めてくるけれど、それ以上追求はしてこない。こんな状況で無ければ家の本丸良い子ばっかり!と他の審神者様方に自慢出来るのですがね。
それにしてもまさか、この夢があんな出来事に行き着くのだとは思ってもいなかった。