※ヒロインが標準語
※似非関西弁
※財前くんの性格が少し悪いかもしれないです。財前くん好きの皆さんごめんなさい
空を見上げると晴天だった。
今日は秋晴れで、風は少し強いが昼間は暖かい。
そんな過ごしやすい天候の日なのに、三年二組の教室にいる一人の少女の背後からは黒い影が浮かぶ。
「また話してる…!」
少し鼻にかかる甘い声の主、代崎美桜は、顔にかかった髪を耳にかけた。
腰まで伸びたキレイな黒いロングヘアーは色白の肌に良く映えていて、釣り目がちの丸い目や整った目鼻立ちを際だたたせている。
真ん中に黒いラインが入った黄色いワンピースタイプのセーラー服は裾が短めだが、そこから出る美桜の足は、すらりと細い。
窓際の席に座っている美桜の視線の先には、数人の女子生徒と話している一人の男子生徒。
無造作にセットされた銀色の髪は整った顔立ちに良く似合い、切れ長の目は"意地悪そう"とは程遠い印象を相手に与えていた。
第二ボタンまで開けた学ランの袖口から覗く左手に巻かれた包帯が特徴的だ。
すらりと高い身長、バランスの取れた筋肉、美形。それに加え、成績優秀ときたら必然的に女子生徒からの支持率は高く、学校で彼のことを知らない人はほとんどいない。
今だって、恋人である美桜を差し置いてクラスの女子生徒と楽しそうに話している。
「…別に浮気してるわけじゃあるまいし…話しぐらいするでしょ」
横向きに椅子に座り、彼女の机に頬杖を付いている友人が呆れたように言った。
「だって私、蔵の彼女だよ?!」
「なら直接言ったら?私意外の女の子と話さないでって」
「そ、れは…。あんまり言いたくないっていうか…。我儘っていうか…」
ごにょごにょと小さくなる声と一緒に俯く。
肩にかかった黒髪がさらりと落ちた。
そんな彼女に友人は頬杖を付いたまま、顔だけを美桜に向ける。
「美桜、我儘って今更だから」
代崎美桜――。
色白で黒いロングヘアーの美少女。白石蔵ノ介の恋人。どうしようもない我儘少女、と一部の男子生徒からは有名だ。
「パンを購買まで買いに行かせたり、それを食べさせてもらったり。何で白石くんにだけ、そんなに我儘なの?お嬢様キャラとか言われてるけど実際、そんなに我儘じゃないじゃん」
「だって、そうしないと――」
最後まで言い終わらないうちに、楽しそうに笑い声が美桜の耳朶を打つ。
声は教室内からで、さっきから白石と話している女子生徒たちのものだ。
白石も爽やかな笑みを浮かべている。
嫌だ、と思った。
例え、愛想笑いでも自分意外の女の子に笑顔を向けてほしくない。
再び白石たちへ視線を戻し、黙り混んでしまった美桜に友人は溜め息を一つ。
「ま、嫉妬する気持ちも分かるけどね、」
そして、意地悪く口角を上げた。
「あんまり我儘言って嫌われないようにね」
嫉妬や不安はあったけれど、白石は絶対に美桜のことを嫌いにはならない。
最終的には自分を選んでくれる。
漠然とした安心感の隅にあった小さな不安には気付かない振りをした。
***
秋といっても、今は十一月下旬だ。
日が沈むのは早く、まだ夕方の五時だというのに手前の空は紺色に染まり所々に星が瞬いている。
「でね、他の女の子と楽しそうに話してたんだよ!どー思う?!楽しそうとか本当にありえない!」
放課後、美桜は図書室にいた。
白い蛍光灯が受付の椅子に座る彼女の髪に天使の輪を作る。
白石の部活はテニス部だ。
しかも部長なので何かと忙しい。
その間の待ち時間を埋めるために始めた図書委員で、同じテニス部レギュラーで一つ年下の財前光と仲良くなった。
仲が良い、というよりは、美桜が一方的に愚痴や相談事を言うので、少し違う気がする。
強い口調で愚痴を溢す彼女に、黒髪の彼は返却された本をもくもくと戻していく。
「財前くん聞いてる?」
「先輩が仕事したら聞いてあげます」
「気分じゃないー」
財前は手元にある最後の一冊を棚に戻すと美桜に目を向けた。
無造作な黒髪に白い光が反射する。
「先輩」
「…ん?」
静かになった図書室に、テニスコートから聞こえる小気味よいボールの音が響く。
ゆっくりと美桜がいる受付まで歩くと、片手を付き普段と変わらないと声音で言った。
「美桜先輩が部長に嫌われたら、俺が買い取ってあげます」
「――!」
その一言は、美桜が昼休みに抱いた一抹の不安を拡大させるもので。
「財前くんに相談した私が馬鹿だった!絶対に嫌われないから買い取らなくていい!」
かっと赤くなった美桜は、ばーか!と言い残し図書室から出ていった。
「……はー…」
財前が吐き出した呆れたような溜め息は、すでに図書室にいない彼女の耳には届かない。
***
「なんで財前くんにあんなこと言われなくちゃいけないの…!」
まだ空には微かに夕焼けが残っている。
弱い光が差し込む廊下を怒りに任せて歩いていた美桜は、足を止めて呟いた。
なんなのだ。
買い取る、とは、とても失礼な言葉だ。
ぐっと唇を噛んで俯くと、彼女の髪が横顔を隠す。
白石は、美桜が我儘ばかり言っても嫌わないと言った。
そのままの美桜が好きだと。
でも、本当に――?
今までの不安が爆発したように溢れ、気が付けばテニスコートへ向けて走りだしていた。
いつも我儘を言って困らせてた。
そうしないと、白石が他の子のところへ行ってしまうのではないかと不安だったからだ。
「…っ、蔵!」
「うわっ美桜?」
テニスコートまで疾走した彼女は銀髪の彼を見つけると、その背中に飛び付いた。
誰かと話していたが、そんなの気にしない。
驚いた表情で振り向く白石のテニスウェアを握って、足りない酸素を精一杯吐き出す。
「嫌い、に、ならないで…我儘、言わない、から…!だから…」
「大丈夫やで」
テニスウェアを握る美桜の手を掴み抱き寄せる。
ふわりと制汗剤の香りが鼻腔をくすぐった。
「嫌いになんてならへんから、安心してええで。それに、」
美桜のこと我儘やなって思ったことないで。
そう言った彼の頬に口付けた。
Fin.
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