いつかの約束を、ここで


夕暮れに家でご飯の支度をしていたら、玄関に人の気配。家の人だと思ってスリッパを鳴らして玄関に向かえば、そこにしゅーくんが立っていた。驚いてしまった。

「あ、しゅーくん。いらっしゃい。どうしたの?」
「今週日曜日。時間はあるかい?少し遠出をしたいんだ。」
「日曜日?ちょっと確認してくるから框に腰かけてて。」

スケジュール帳を取りに自室に戻って速足で玄関に戻ると、しゅーくんは言ったとおりに腰を掛けて、こちらを見ていた。私の姿に首をかしげているので、不思議に思ってしゅーくんと同じ方向に首が傾く。

「料理でもしていたのかね?」
「あぁ、うん。お家の人遅いからご飯作ろうと思って。」
「姉さんが?」
「私だってできるよ。チョコレートおいしかったでしょう?」
「確かに、ゆっくり味わわせてもらったよ。」
「ふふっ、ならよかった……あぁ、週末の予定だったよね。大丈夫だよ空いてる。」

パラパラスケジュールをめくって問題がないことを告げれば、しゅーくんが嬉しそうに目を細めた。なにをするの?と問いかけても、当日まで待つといいよ。姉さんからはもらってばかりだから、僕からも贈りたいだけなんだ。そう返事をされた。朝はこの時間に迎えに来るから。それだけの口約束をしてしゅーくんは出て行った。
卒業も近いのに、忙しいんじゃないのかとは思ったのだけれど、しゅーくんのことだからスケジュールは大丈夫なのだろう。贈り物をしたいというけれど、なにをだろうか。なんていろいろと考えてしまう。お付き合いをしだしてから、なんだかんだとおしゃべりしたりすることはあったが、二人で出歩くというのは初めてで、何を着ていこうかと思ったりもして残りの日数を過ごした。
当日朝、なんだか気分が高揚して早くに目が覚めてしまった。あれやこれやと着ていく服に頭を抱えたりだとかして、いつの間にか指定されていた時間だ。簡単に荷物をまとめて、あったかそうな服を着て家を出ると、ちょうどしゅーくんが立っていた。

「おはよう、姉さん。気持ちがよく晴れているよ。」
「そうだね、しゅーくん。天気予報は晴れるって言ってたよ。」
「知っているよ、姉さんと出かけるのだからそのあたりもしっかり押さえてるよ。」

じゃあ行こうか、と半歩引いたら、家の前にタクシーがいた。歩いてどこかに出かけるのかと思っていたら、そうじゃなくて驚いてタクシーとしゅーくんを見比べていたら、さぁ行こう。そう言ってしゅーくんはタクシーに乗り込んだ。遠くに行くのとか色々思ったけれども、飲み込んで後を追うようにタクシーに乗ると、出してくれと合図が有ってタクシーは静かに走り出した。
流れる景色を見て、とりとめのない話をして話し込んでいると都会を離れだんだんと家から遠くなっていくのだけはよくわかった。

「ねえ何処に行くの?」
「約束をつむぎにだよ。」
「……?」
「つけばわかるよ。」
「そう、ならいいかな?」

そっか。と頷いて、またこの間見た映画がどうだったとか、ショコラフェスがどうだったとかそういう話を繰り広げていると、タクシーは目的地に着いたらしい。そっと止まるとドアが開き、帰りにまた頼むよ。としゅーくんは一言残して降り、颯爽と反対側に回り降りようとしている私に手を差し出した。その手を握って車外に出て、周りを見回すと海のそばの一軒家。

「教会?」
「あぁ、そうだよ。今日のために借りたんだ。」
「今日のために?」

理由がわからずに首をかしげる私と反対でしゅーくんは嬉しそうにして、鍵を開けて家の中に入っていくので、そのあとを追いかけるとリビングで足を止めた。近くの椅子にカバンを置き始めたのでそれにならい、私もカバンを置いて周りを見回すと、部屋真ん中の机の上にアクセサリーボックスが一つ置かれていた。しゅーくんはそれを手の中に収めて、私のほうに振り返る。

僕は三月の末、修行として国外に留学する。姉さんと付き合いだして、すぐ離れてしまうのがさみしくなってね、だから僕は姉さんに約束をしたいんだ。姉さんの心臓に一番近い指に、僕が隣にいるという約束をしていたいんだよ。
そっと私の左手をとって薬指を撫でると同時に指輪を一つ差し込まれる。薬指に唇を落としてから、指を見るとしゅーくんの目の色の石が入って少し彫られた指輪が見えた。サイズがピッタリで電気の光によって小さくきらめいた。

「しゅーくんは、いつでも私を大事にしてくれるのね。」
「幼いころの自分との約束だからね。はい、姉さん。僕の指にもつけてくれないかい?」

私の手のひらに、ひとつの指輪を乗せられる。私の目の色の石が付いたシンプルを指先で掴む。しゅーくんは幸せそうに笑って私のほうに手を向けるので、私はそっとその手に添えて、指輪をはめる。私の指先に唇を落としてくれたけれども、なんだか恥ずかしくなって手でなくしゅーくんの頬に口づけをしようとしたら、少しずれて唇の隅にあててしまった。あ、と思ってしまいながらも一歩引くけれども、しゅーくんはすかさず私の背中に腕を回して寄せて、ぴったりと密着する。

「姉さん。」

しゅーくんの長い指はここだよ、と言わんばかりに唇に当てて楽しそうに笑っているので、私はしゅーくんの頬を包んで軽く唇を重ねる。

「私、しゅーくんが帰ってくるまで待ってるよ。大丈夫、常にこの指輪があるんだもん、近くに感じれるよ。」
「ありがとう、姉さん。ちゃんとした約束の時に、またこの場所に約束をさせてほしい。次は、汝病める時も健やかなる時も。だよ。」

しゅーくんの一つ一つが、なんだか心が浮つくと同時に羞恥も混ざる。ちょっと気が早すぎるんじゃない?と投げかけたけれども、ずっと僕は姉さんに焦がれてたからね。手放す気はないよ。と言われて顔から火が出るかと思った。照れる姉さんもかわいいね、と言いながらしゅーくんはキスの雨を落とす。

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