一目見て確信しました
私、一目見て確信しました。今日は厄日だと。
登校中に声をかけられて、差し出された一本の赤いバラと眉目秀麗の人。嬉しそうに私を見下ろして、満面の笑み。
この要素だけでも、状況がおかしいのだけれど。差し出されたバラも持たれてる腕ごと全部横に押しのけ困惑する。
「あぁ……えっと……?」
「失礼しました。あなたがあまりにも愛らしいので!差し上げます。さぁ。さぁ。さあ!」
「えぇ!?お断りします!」
ぐいぐい押し付けられて、無理に押しのけれども男女の差。押しのけるために開いていた手のひらを無理くり力づくで指一つ一つ抑え込まれ握る形を作られ、半ば受け取る形となる。棘のない大輪のバラが私の手に渡ると彼は満足気に頷いて、よく似合いますよ。やはり綺麗な女性には花が似合いますねぇ!なんていうけれども、長身顔面偏差値のいい男に一般普通科の高校生に花を贈るだなんて。
結論から言おう。少し前から、続く彼との関係は少し前から始まって、ウザ絡みされている。
あの時は、高校に向かうバス待ちの時、最寄りのバス停前のベンチで猫を撫でていたのが始まりだった。声をかけたのは向こうからであった。
「可愛いですねぇ」
「へ?……」
周りを見ても、誰もいない。いるのは目の前の猫一匹。
気持ちよさそうに目を細めゴロゴロ喉を鳴らしている。……今、確かに人語を手繰ったような気がする。聞き間違いかと、思いながら猫の目を見つめると猫があくびをこぼすように口を開いて、嘘じゃないよ。なんて言うから驚いて猫と顔を見合わせる。まさかね、なんてこぼして目線をそらすと後ろからガサガサと音を鳴らして、驚かすかのように、大きな声で「私ですよ!」と耳の近くで言われた。
突然すぎて、女のおの字もない悲鳴が出た。口から心臓が出るぐらいの声量は、一秒か二秒ほどで止められた。私の口が大きな手によってふさがれたからだ。このあたりで不審者の情報もなかったはずというか、目の前が交番。おまわりさんこっちです!とか叫んでも、口は未だに覆われたままで恐怖で身がすくんだ。
「とってもいい驚き方ですね!」
「ひぃっ!!」
パッと手を離されて口の拘束が解かれる。その勢いでバス停のベンチから離れたら、猫も驚いて藪の中に消えてった。ちょっと待って返して、振り返ると薄青の髪をしたブレザーの人が立っていた。愉快そうに眼をゆがめ、楽しそうに笑っていたけれども、すっと目を細めて片膝をつき手を取って唇を落として顔を上げる。
目の前の彼を知っている。いや、知らないと答えるほうが難しい。近くのアイドル育成学院でアイドルしていた人。
友達の推し、学院で頂点に立つユニットの一つ。『fine』の日々樹渉がそこに立っていた。いやいや、なんでこんなところに立っているのかわからない。
私の混乱をよそに、彼はまたもや爆弾を落としていく。
「初めて会ったときから、ずっと慕っておりました。」
綺麗な顔の人間に、そんなことを言われて思考が固まった。いやいや、どういうこと。思考がフリーズする。どうしても理解できなくて、小さな言葉が零れ落ちる。この場をどうやって抜ければいいのかもわからずに、小さく息を飲む。半歩一歩と後ずさると、けたたましい程のクラクションが鳴ったことによってフリーズが解ける。
到着したバスが来たのだ。ベンチの上に置いていたカバンを慌てて掴んでバスに飛び乗る。乗ってすぐのところで、振り返ると彼はこちらににこやかな笑顔を向けて、手を振っている。その笑顔につられて手を振り返したのが全ての元凶で、翌日からこうして毎日一つサプライズよりも濃いレベルのものを受けることになってしまった。
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過去を振り返っていたのを現代に思考を振り戻す。紫の瞳が心配そうに眼前で私の手を使ってバラを振っていた。焦点があったのか、目線があったことに嬉しがって、スイッチを入れたように彼は笑顔になった。
「大丈夫ですか?」
「ですから、あなたはいい加減にしてくださいよ……。」
「すごいでしょう?」
「すごいですけど。こういうのやめてくださいって言ってるじゃないですか。」
がっくりと肩を落としていると、いつも言っているでしょう。首を縦に振ってくれたら解放をすると。いやいや、それ脅迫ですって。あなたが首を縦に振ってくれるだけでいい結果はすぐにやってくるのですよ。それ私にはいいことないでしょうに。
初めて会った時の一言「初めて会ったときから、ずっと慕っておりました。」と言われたけど、私は彼と初めて会った記憶はないのだ。もうその時点で怖いのだ。素直に頷けないので、こう突っぱねる日々。
私の厄日は目の前の男、日々樹渉と出会った日から続いている。今日も今日とて私への嫌がらせのような告白をしているのだ。やめてくれ。