美人にはわからない
芸の幅を広げるのに、恋愛などは避けて通れない道だ。薄っぺらな愛ほどつまらないものはありませんからね。愛と驚きで満ちているこの世界で、愛を知らないほど滑稽なことはないでしょう。
……とまあ、私はそう考えるわけです。
だからと言って誰彼構わず愛を告白するほど道化ではありません。まあ正直、そのように見せている側面はあるんですけど、それはそれとして。
ごくごく恋愛的な情をもって愛していると告げているのは心に決めた一人だけです。
世界に愛を咲かせる道化師が、自身の恋愛ひとつうまくいかないのもなかなかにAmazingだとは思いません?
「……なんてモノローグを考えていたんですけどね、飽きてきました」
「何なんだ突然」
「北斗くん!友也くん!私は悲しいです!!どうして私を「のけもの」にして、二人で仲良さそうに練習しているんですかっ!まぜてくださいよ、私が部長でしょう!?」
「いや、あんたが物思いに耽るなんて珍しいと思ったからな、スルーすることにした」
「部長に構われないほうがやりやすいってとこはありますよね、正直。北斗先輩と二人きりで練習できるのも俺としては最高です!」
「Amazing!これが放置プレイというやつですね!愛ゆえの放置!そこにあるのは愛!!」
「部長、煩いぞ」
ぴしゃりと北斗くんに言い渡されるも、正直痛くも痒くもない。
愛の反対は無関心、放置できずにこの場で練習を始めてしまうあたりが北斗くんの愛らしいところですよねえ。
「先程からぼんやり見ていましたけど、二人とも相手に対する愛が薄い気がしますねぇ。台本にとらわれすぎているのでは?もっと自由に!愛をこめて!演じましょう!!」
台本を取り上げて声高に笑う。
ああ、今日も演劇部には平和が溢れていますねえ。
「おはようございます愛しいひと!今日も愛らしいですね……☆」
「っ!?」
上空から彼女に声をかければ、彼女は悲鳴を上げたのち、きょろきょろとあたりを見回して私の姿を探す。こちらですよと手を振って見せれば、まんまるに目を見開いた。ここまで素直に驚いてもらえると、驚かしがいがありますねぇ。
「そういえばあなたに対して気球での登場は初めてですね!驚いている姿もとても可愛らしい……!」
「な、なんで気球……」
「おや、気球はお嫌いですか?なかなか眺めも良いですよ。お望みとあらば毎日気球で送迎いたします☆」
「結構です!!」
気球から降り立って彼女の前へ出る。
何とも言えない表情をしている彼女に、1枚のチケットを差し出した。
「今日はこちらを貴女に」
「えっと……?」
「今度私の所属する演劇部の公演があるのですよ。是非貴女にも観ていただきたい!」
「いやあの、どうして私……」
「貴女をお慕いしていると言ったでしょう?格好いいところを見せて惚れていただきたいのですよ」
「や、無理です」
ばっさり一刀両断、されどそれで諦める私ではありません。
半ば無理やり彼女の手にチケットを握らせた。
「きっと後悔はさせませんよ」