ささやかな抵抗
喫茶店、小さなチェーン店ゆえに、いろんな客がいる。喉を潤しに、だべりに、腹を満たしに、仮眠を取りに、ノマドワーカー。子連れ、喫煙者。エトセトラエトセトラ。
安さゆえか、バイトはすぐに入れ替わるから、気づけばいつの間にか気軽に飛ぶとかできなくなってしまった。
人がいないから、一人で回す。店長も顔を出さない、視察の社員も煙たそうで、バイトは消えてった。近くに住まう主婦や常連たちは、そんな事情も知ってるからか大体は理解してくれるのだが、そうじゃない人は眉を顰めたりするのはよく見ている。
今日の客は特にもっとひどい気の短い人だったのだろうか。茶色く染まった視界の中で、そう思ってしまった。表情筋さえも動きを止めて、相手を見つめて口を開く。
「もうしわけありませんでした。」
アイスコーヒーの提供が遅いからと、文句を言い謝意が足りないと紛擾しようとする。買う気をなくした、と返金を要求するので、金額をレジから出して手渡せば手荒に受け取ってから舌打ち一つと遠くなる足音。それなりに埋まった席なのに、しんとしている。客席に向かって深々とお辞儀と謝罪を一つ。割れたコップと転がった氷を片付けだす。髪の毛もシャツも珈琲の匂いが離れないけれども、誰もいないからこそ、着替えに行けない。喋り目的の常連の主婦が心配そうに声をかけてきたけれども、明るく取り繕い何でもないという。よく声をかけてくれることに礼をいい、一旦バックヤードで着替えるのでお客が来たら呼んでほしい旨を伝えて、一旦奥にはける。
後ろ手にドアを閉めたら、口惜しさと腹立だしたが沸騰してきて、涙が零れ落ちた。悔しい、来月には辞めてやる。店長困れ!狸腹!生え際交代しろ3センチぐらい。いやハゲだった気がする。そんなに会ってないので覚えてないけど。
今回の案件に、腑が落ちないままトイレの手洗い場の蛇口でタオルを濡らして髪の毛をぬぐう。白いタオルが茶色くにじむのを見て、あの容器なみなみに注いでいたのを思い出した。ざっくり取り除いて滴り落ちるのがなくなるのを確認してから、シャツを着替えてフロアに飛び出すとレジでは黒髪の美青年が立っていた。知らない人がうちのエプロンをかぶってメニュー片手にレジを打っている。
「えぇっ!?」
「あぁ、名前ちゃん大丈夫?あの人がね手伝いたいって言ってレジを打ってくれてるの。」
「お嬢ちゃん。戻ったのかの。災難じゃったな。まだゆっくりしてていいんじゃぞ?」
まだ濡れた髪を優しくなでられて、声は意気地もなく泣かんばかりに一度震える。触れた優しさを見て見ぬふりして平静を装うとおもったのに、涙が一つ零れ落ちた。私の涙を見た彼は、これでも飲んでおちつくといいんじゃぞい。人嫌いもない笑顔で私の手に今しがた温めたであろうホットミルクを一つのせて、バックヤードに戻された。飲み終わるまで戻ってこなくてもいいよ。というメッセージととらえて、染み入る様に手を付けだした。常連の人の顔を思い浮かべながらこのバイトもうやめよう。と思考を巡らせながら、これからについて考えるとレジに立ってた人。いつも隅でよく寝てる人だと思い出して軽く悲鳴が出た。