再会は突然に


マネージャーから、次クールのドラマはメインヒロインの役だから頑張ってね、と渡された台本。
これまではメインではなく、脇のちょっとした役が多かった。エキストラ以上メイン未満、そんな感じ。人見知りを拗らせて女優になった私にはそれくらいの役がちょうどよかったし、今後もそんな感じで女優業を続けていくんだと思っていた。そこに突然の抜擢。いくら何でも突然だし、メインヒロインをはれるような自信はこれっぽっちもない。どうして私だったんだろうか。
「これ、男女のバディものなんだけどね、先に決まってたメインの子があんたを指名してくれたみたいなのよ」
「指名、ですか?」
「そう。七種茨くんって子なんだけど、知ってる?」
「さえぐさいばら……」
聞いたことの無い名前だなと思い疑問符を浮かべる。後で調べておこうと心に決めた。
「まあ、あんたなら大丈夫よ。先方のご迷惑にならないようにね」
「が、頑張ります……」
自信はないけど、とは言えず曖昧に笑顔を浮かべる。
マネージャーにぺこりと頭を下げて自宅へ戻った。

「ええと、七種茨……」
香盤表を見ながらネットで検索をかける。どうやら人気のあるアイドルらしく、調べたらざくざく情報が出てきた。
アイドルユニットとしてESトップ3と言われるEdenに所属していて、コズミック・プロダクションの副所長を務めている。……めちゃくちゃ偉いひと、ってこと?でも、そんな人なら尚更、なんで私なんかを相手役に指名したんだろう。
全然自分に繋がる要素が見つからなくて天を仰ぐ。どこかのタイミングで聞けるだろうか。いや、そんな会話ができるほど共演者と仲良くなったことなんてないんだけど。
「……台本、読も」
考えていても仕方がないと、台本を開く。男女のバディもので恋愛要素は薄め、これならまあ何とかやれるのかもしれない。あてられた役は普段の自分とはだいぶ雰囲気が違うけど、そこは女優だし間違っても演じられません、なんて言いたくない。必死で読み込むうちに夜が更けていった。



*****



「名字名前です。このような大役をいただくのは初めてでとても緊張していますが、精一杯頑張らせていただきます。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて席に着く。今日は出演者の顔合わせだ。こんなに早い順に挨拶をするのは緊張するなと思いながら何とかやり遂げると、先に挨拶を済ませていた七種くんがこちらを見てにこりと微笑んだ。
「……、」
どこか仮面みたいな笑顔にぞくりとしながら、ぎこちなくも笑顔を返す。何だろう……この人とバディ役なんて務まるのだろうか。というか、指名されたというのがやっぱり間違いな気もする。

ようやく顔合わせが終わり、スケジュールを確認して解散になる。
既に緊張やら何やらでめちゃくちゃ疲れていて、本当にこの仕事をやり遂げられるのか不安になりながらもエレベーターホールに出ると、七種くんと鉢合わせた。き、気まずい。ここはいったん立ち去って自販機コーナーでも冷やかして帰ろうと踵を返そうとしたところで、七種くんに呼び止められた。
「ああ、名前さん!今回はオファーを受けていただきありがとうございます!」
「っえ、あ、はい……?」
「おや、聞いていませんか?今回貴女にオファーするようたのんだのは自分なのですよ」
「き、聞いております……」
間違いなんじゃないかと疑ってます、なんて口が裂けても言えない。オファーを出してくれたことに対するお礼を言うべきか、それとも何故自分だったのか確認するべきか、頭の中でぐるぐるしているうちに七種くんはつらつらと言葉を並べていく。
「いやあ、名前さんのような素敵な方にこのような役をお願いするのは自分もどうかと思ったのですがね、やはりどうしても名前さんが良いとお願いさせていただいたんです」
待って、それやっぱり間違いなのでは。私はそんな素敵とか言われるような人間じゃないし、やっぱり七種くんがどうして私を選んだのかわからない。
「それに自分、演技はほとんど初めてなので。そこは大先輩である名前さんからご教示いただければ幸いです!敬礼〜!」
びしっと敬礼する七種くんに圧倒されながら頭を抱える。何も口をはさめなかった。とりあえず敬礼を下ろしてもらってから、ようやく疑問を口にする。
「……あの、どうして私だったんですか」
「理由はたくさんありますが……まあ、そうですね、敢えて言えば」
"貴女が名字名前さんだから、でしょうか。"なんて、答えになってない。


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