いつかの続きを約束しよう
運ばれてきた食事に手を付け終わって食後の一杯を飲みながら、今日はなにか御用なんですか?そんなことを聞いてみた。だけど、ただニコニコされただけだった。向かいの位置で、肘をついて手を組み顎を乗せて笑っている。なまじ顔がいいので見られてることで何故かこちらが圧を受けてる気分で、なんだか蛇に睨まれた蛙の図、ハブ対マングースが頭の中をよぎった。
「嬢ちゃんや。今日は何事もなくてよかったのう」
「……確かに?なかったかも?」
思い返せば、クレームもなく平和に終わった気はする。人は多いが、問題はほぼないに近い。しいて言うとお客さんが小銭をひっくり返したとか、ピッチャーをうっかり落としたとか。そういうレベルなので、問題はほぼない。いつもの通りにやれば問題はない。いや、珈琲ぶっかけられる方が異常なんだけどさ……。
「こっそりと手を回しておいた甲斐はあるのう。」
「はい?」
今なんて言った?手を回しておいた?寝耳に水(いや起きてたけど)。いや、なにしてんだ?と色々言いたいが、もうどこから踏み込んでいいのかわからない。
「一族の手を少し、な」
「……いちぞ、く……」
「野蛮な輩は先に閉め出しておいたから、嬢ちゃんは伸びやかに仕事はできたじゃろうか?」
「…いや、ラストまで粘る人が居たのでやりにくかったのですが」
「ふむ、そんなのはいた覚えがないがの」
あんただよ。
「我輩はな、頑張る子が好きじゃよ。理不尽に耐える姿がいじらしくも愛らしく見えてのう。」
自分で進んで耐えるのは美徳と言えるが、違うのじゃよ。消耗し消費されそして世から離れてしまう。それはいけない、じゃからの?
朔間零はそこで一拍置いてから言った。我輩のお嫁さんとして転職をしないか?我輩に嬢ちゃんを守らせてほしいのじゃよ。と。……はい?
「いや、意味が分からないんですけど。」
「一目ぼれなんじゃよ。じゃから、黙って我輩に嬢ちゃんを愛させてはくれないかの?」
仕事がしたいならすればいい。嬢ちゃんが望むなら働きやすい喫茶店も紹介しよう。勉強がしたいならば費用も遠慮する必要はない。我輩が嫌いなら望むままに…は寂しいから無理じゃけれど、極力遠くから眺めさせてはくれんかの。嬢ちゃんが望むものを望むままに与えていたいのじゃ。ひたむきに生きる嬢ちゃんじゃ、財産を放蕩させることもないじゃろう?
「どうかの?」
「いや、どうもこうもなくてですね。どうして私だったのですか?」
純粋な疑問だった。ただの社畜の私より女の人はたくさんいる。釣り合いの取れるきれいな人は、彼のもとに沢山現れるだろうし、選ぶ権利は朔間零が有することになっているだろう。そんな数多の選択肢を捨てるようなことをするのだろうか。そんなシンデレラストーリーのようなことが起こるはずもない。
「言っておるじゃろうに。一目惚れだと。あの店に入ったのはほんとたまたまじゃよ。日射しがきつくて避難するように入ったのじゃが。そのときから、嬢ちゃんの瞳が輝いて我輩を見てくれぬかと思っておったんじゃよ。」
「……もしかして、あのコーヒー…」
「それは偶然じゃよ。さすがに嬢ちゃんにそんな無体なことはせぬよ。」
後できっちり灸を据えてやったがの。あれは良かったと言う辺りにサイコパス。(いやそういう考えに至った私も私かも知れないけど、今その話はいい)
「それに、デートをして美味しそうにケーキを食べたりする姿を我輩だけが見たいのじゃよ。」
「ええと…私なんかでいいのでしょうか」
「誰でもなく名前がいいのじゃよ。」
「…私は、さくまさ…零さんのことはよくわかりません。」
朔間さん。と口を滑らせたら、睨まれた。怖くなって視線を落としてから言葉を選ぶ。
私はよく零さんを知らないので、いつか私にも教えてください。
「いつかと言わず、その身に唇にすべてを教えようかや?」
「ひぃっ、大丈夫です!!」
「冗談じゃよ。これから我輩とデートをしてくれるかのう?なぁにゆっくり、教えあうのもいいぞえ?」
「……えっと、これからもよろしくお願いします……?」
よろしいよくできました。なんて言って嬉しそうに笑った。