次元の壁を越えたい
最近ママに会えてない。
ESビルの仕事の関係で天祥院英智やら七種茨やらとはやたらと会う機会が増えたというのに、ママとは仕組まれたかのようにぱったりと会えていない。同じESビルに居るはずなのにそんなことある?……本当に仕組まれてる可能性はありそうだ。
なんて取り留めのないことを考えていたら、後ろから声をかけられた。
振り返ればさらりとした金髪が揺れる。ああ、最悪だ。
「やぁ、名前ちゃん。随分と憂鬱そうな顔をしているね。」
「おかげさまで。……何か用ですか」
「君はアイドルではないけれど、アイドルを支える一端でもあるのだから、もう少し明るい顔をしていた方がいいんじゃないかな、とは思うけれどね。それはさておき、今度の企画について君の意見を聞きたいんだ、時間はあるかな?」
「ないです」
この後は空き時間だから社員食堂でママの出てるテレビを見ながらパフェを食べようと思ってたんだ、せっかくの息抜きタイムを邪魔されたくない。
そんなわけで即答した私に、金髪の悪魔はおかしいなと首を傾げる。
「あれ、この後のスケジュールに変更でも出たのかな。この後1時間空いていたはずなんだけど」
薄々わかってたけど……知ってて声をかけたのか。そうか。そういう人だったよねこの人は。
「……性格悪すぎ」
「褒め言葉として受け取っておくよ。じゃあ、僕は先に応接室で待っているから」
ひらひらと手を振って去った天祥院英智をキッと睨む。これだから天祥院は嫌いなんだ、なんて間違っても口には出せないけど。
気が進まないけど一旦事務所に戻って資料を……と歩き出したところで、携帯がメッセージの受信を告げる。
「……ママからだ」
"咫尺天涯(しせきてんがい)!最近なかなか会えなくて寂しいぞお、今度ご飯でもどうだあ?"……なんて、優しいメールにうるっとする。事務所のロビーでは見たかったテレビがついていて、同じビルに居るはずなのに画面越しでしかママの姿を確認出来てないことにまた切なさが募った。ママと離れて海外にいた時でもこんなに寂しくならなかったのに、おかしいな。