怖いもの見たさにのぞいた先は
何が起こるか分からないのが人生で、何が起こるかわからないからこそ面白い。そんなふうに考えられたらどんなに楽だったんだろう、と思うくらいには、思考が疲れきっていた。
敷かれたレールを歩くのが嫌だったのに、敷かれたレールから外れたら1歩も動けやしない。ああ、私ってなんて矮小な存在なんだろう。
生ぬるい海の温度に全身が浸って、浮力でふわふわ漂う。ああ、このまま眠ったらすごく気持ちいいんじゃないかな、なんて考えた。家のことも、家族のことも、ぜんぶぜんぶ忘れて、眠ってしまえたらーー
「お嬢さん」
瞳を閉じて力を抜こうとしたその時、カラリとした声が響いた。
「こんな夜中に海に入っているなんて珍しいなあ!でも、入水自殺はオススメしないぞお」
「…………?」
「遊んでいるだけだったのなら申し訳ない!だが、俺の目にはそうは見えなかったんだなあ」
どこからかやってきたその声の主は、大柄な身体で私の身体を引き上げた。全身海水まみれの体には夜風が冷たい。せっかくいい感じに微睡んでいたのにな。
「お嬢さん、名前は?」
「…………、」
「……まあ、名乗りたくないならそれでいいぞお。とりあえず替えの服を用意させるからついてきてほしい!」
「…………」
「はは、話せないわけじゃないよなあ?俺はまるで人魚姫を拾ったような心地だぞお」
ひとり快活に喋り続ける男に引き摺られるように、海岸を歩く。
話せないわけじゃないはずだけど、何も言葉が出てこなかった。私が人魚姫なら、このひとは王子さまなんだろうか、なんて夢想して苦笑した。
私には家も帰るべき場所もある。理解している。それでも。
深くは尋ねてこないこの人についていけば、私は何者でもない私になれるのかもしれない、なんて幻想を夢見てしまったから。
「……♪」
なんだか楽しくなってきて、鼻歌交じりに彼について行く。
生きていればいずれ戻らされるであろう、敷かれたレールのことは忘れることにした。
私はこの先を、何者でもない私を、1度でいいから経験してみたかったんだ。
-1-敷かれたレールを歩くのが嫌だったのに、敷かれたレールから外れたら1歩も動けやしない。ああ、私ってなんて矮小な存在なんだろう。
生ぬるい海の温度に全身が浸って、浮力でふわふわ漂う。ああ、このまま眠ったらすごく気持ちいいんじゃないかな、なんて考えた。家のことも、家族のことも、ぜんぶぜんぶ忘れて、眠ってしまえたらーー
「お嬢さん」
瞳を閉じて力を抜こうとしたその時、カラリとした声が響いた。
「こんな夜中に海に入っているなんて珍しいなあ!でも、入水自殺はオススメしないぞお」
「…………?」
「遊んでいるだけだったのなら申し訳ない!だが、俺の目にはそうは見えなかったんだなあ」
どこからかやってきたその声の主は、大柄な身体で私の身体を引き上げた。全身海水まみれの体には夜風が冷たい。せっかくいい感じに微睡んでいたのにな。
「お嬢さん、名前は?」
「…………、」
「……まあ、名乗りたくないならそれでいいぞお。とりあえず替えの服を用意させるからついてきてほしい!」
「…………」
「はは、話せないわけじゃないよなあ?俺はまるで人魚姫を拾ったような心地だぞお」
ひとり快活に喋り続ける男に引き摺られるように、海岸を歩く。
話せないわけじゃないはずだけど、何も言葉が出てこなかった。私が人魚姫なら、このひとは王子さまなんだろうか、なんて夢想して苦笑した。
私には家も帰るべき場所もある。理解している。それでも。
深くは尋ねてこないこの人についていけば、私は何者でもない私になれるのかもしれない、なんて幻想を夢見てしまったから。
「……♪」
なんだか楽しくなってきて、鼻歌交じりに彼について行く。
生きていればいずれ戻らされるであろう、敷かれたレールのことは忘れることにした。
私はこの先を、何者でもない私を、1度でいいから経験してみたかったんだ。