はじまりとおわりを繋ぐ糸


姉さんの料理に舌鼓を打ち、二人で一緒に後片付けをして。幸せだと微笑む姉さんに僕も同じ気持ちだと返す、穏やかで甘やかな時間を堪能したあと。
姉さんとの時間を思い出せば一層気合いも入り、それまで以上に研鑽に力が入った。
アトリエの一角にちょこんと鎮座する姉さんの作ってくれたクマは優しく僕を見守ってくれているし、瞼を閉じればいつでも姉さんの笑顔が思い出せる。
渇望は芸術を生むけれど、満たされることでもまた生まれる芸術もあるのだと気づけたのは姉さんのおかげだ。



そして今日は、姉さんとの約束の日。
かつて二人きりで貸し切った教会に、今日は最低限の親族と友人を呼んでいた。
こじんまりとした控え室でタキシードに着替えて出番を待つ。

「……本当にしゅーくんと結婚するんだねぇ」

ぽつり呟きが聞こえて振り返る。
純白のドレスに身を包んだ今日の姉さんはいつにも増して美しい。
……姉さんと呼ぶのも、きっともう最後だ。

「姉さん。……いや、香織さん」
「なぁに?」
「今日の香織さんは世界で一番綺麗だ。僕の知るどんな芸術よりも美しく尊い、最高の花嫁だよ」
「しゅーくんは……、しゅーくんも。いつもとっても綺麗だけど、今日が一番素敵」
「ありがとう」

香織さんの言葉に、自然と表情は柔らかくなる。
きっと旧来の僕のファンが見たら驚くだろうね。そんな相手と、香織さんと結ばれることを僕は誇りに思う。

「ふふ。何だか緊張してきちゃった」
「その割には随分余裕そうに見えるよ」
「それは……しゅーくんがいるからかな。しゅーくんの前だと、ちゃんとしなきゃって思うのよね」
「僕はもう子供じゃないよ」
「そうじゃなくてね」

素敵なしゅーくんの隣に立つんだから私もしっかりしなきゃって思うの、なんてはにかむ香織さんに愛おしさが溢れる。
愛しているよ。陳腐でありふれた表現だけれど、今伝えるに相応しい言葉はやはりそれだろう。
そっと耳打ちすれば、香織さんはふわりと微笑んだ。

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