ちっとも怖くなんてない


美味しい美味しいと言ってくれながらきれいさっぱり食べきってくれたのは、さすが男の子だなぁ。って思った。いくつか後で食べたいというから、またパリに行く前に渡すと約束をとりつけた。喜んでくれるのは嬉しい。
「ごちそうさま」が終わったらしゅーくんがお皿を洗うと言うから、隣でお皿を拭いて片付けるのにパタパタスリッパを鳴らしていると、しゅーくんはご飯を食べてる時と同じような顔をしていることに気が付いた。幸せがにじんでいるのが見えて、こちらにもそれが伝わってくる。大きな背中が我が家にいるのが、嬉しくてたまらない。
食器棚にお皿を収めて振り返ると日本の平均的なサイズの台所に大柄のしゅーくんがいるのがミスマッチで、窮屈そうに見える。パリの家でもやっているのだろうか、きびきびとお皿を洗っているのは手慣れている様子だけど、人の家の台所だから動きにくそうで、ちょっと戸惑った感じに動く様子が少し面白くなってしまって一人でクスクス笑ってしまった。一人笑うその様子をみてかしゅーくんが首をかしげていた。

「なにかあったかい?」
「ううん、うちにしゅーくんがいるからなんだかおもしろくて。小さな台所と大きいしゅーくんが、ちょっとおもしろいなと思って。」
「姉さん」
「ごめんね笑って。でも、なんだかそのちぐはぐなサイズ感が愛おしくなってね。」

パリに行ってしまったら、きっとこんな光景が見れないんだろうなって思うとちょっと寂しくなる。でも、きっとこのささやかなやり取りが心を慰めてくれると思っている。それに、今は離れても顔を合わせておしゃべりもできるし、きっと私が寂しいと口にするとしゅーくんはなんだかんだと気をもむだろうというのはすぐにわかる。そして、私の顔を見て何となく察知してしまうのだろう。

「幸せだなぁ。ってかんじちゃってね。」
「僕もだよ。日本に帰って、姉さんの暖かな料理が食べて、隣にいることが。とても幸せだと噛みしめているよ」

ささやかだけれども、きっとこの時間を大事に抱えてふと思い出して心が温かくなって日々を過ごせるようになるとしゅーくんが言う。きっと社会人一年目の私よりもたくさんの壁があるのも想像するのはたやすい。日々がんばっているんだろうなと、思考を巡らせているとそっとしゅーくんが私の頬を撫でた。
壊れ物のように撫でていく大きな手は、今しがたやった水仕事で少し冷たい。その手に触れて、しゅーくんを見上げる。飛行機で眠りに重きを置いてたというけれど、少し眠たそうにも見える。

「ちょっとお疲れ?」
「いいや、そうでもないよ。姉さんのご飯で元気になれたよ」
「そうだったらいいな。しゅーくんはパリで頑張っているんだもん。私はこの時のために腕によりをかけて頑張ったんだから。」
「ありがとう、姉さん。嬉しいよ。」

日頃頑張っているしゅーくんに、お返しができているならなによりだと言えば、しゅーくんの眦がいつもよりも優しくなった。その笑顔を見れるだけで、きっとどんなことでもできるんじゃないかと錯覚する。恐らくしゅーくんだってそうじゃないかと思う。私よりもうんと長い間そう思っていたのだがら、きっとそう。あのひとが、そういう人だって私が一番知っている。


[ Back ] [ Top ]