「あのキチ草!!絶対に眼鏡ぶち割ってやる。」
相手は副所長だろうが、支払ってる分こっちは顧客だこの野郎。家のカギと最低限の荷物を持って、近くのタクシーを呼び出して目的地ESビルに一直線。タクシーの運転手にお釣りで飲み物でも買ってくれ。と言づけて飛び降りた。受付すら華麗に乗り越えて、目的地事務所に到着する。副所長いる?と近くの子に聞いたら、奥の部屋にいるので呼んできますね〜。と別の部屋からキチ草眼鏡を引っ張り出してきた。
「泉本先生じゃないですか!」
「うっせぇ!何送り付けてくれてんだ!」
「気に入りませんでしたか!せっかくの花嫁衣裳でしたから、余計な気を回してしまいましたか?お二人に。」
「……お二人……?」
七種が言った、二人。という数に心当たりはある。この件で怒鳴り込んでくるのなんて、心当たりがありすぎる。
「流石芸術家と作家先生ですな!二人してほぼ同じタイミングで来られるなんて!」
「七種!貴様何処に行くのだね!」
「自分はここにいるので!安心してください!」
「は?」
奥の打ち合わせブースから聞きなれた怒声がする。その怒声に謝罪するように首だけそちらに向け何かを喋っている。あの怒声の根本は、また癇癪おこしてるのか。一種憐みも覚えると同時に自分の怒気も全部吸い込まれていくような感覚を覚えた。どうも、私の家にもあいつの寮にも送られていたようだ。……ごめん、寮は痛いと思うんだ。……っていうか、あいつの寮の部屋って…四人一組とかじゃなかったか…?あれを、四人以上に見られて……。
「絶対に許せん。」
吸われていった怒気は今しがた復活した。着払いで送り届けて、安心できる業者に破棄してくれる保証を付けてやらないとマジで許さん。事務所移動も待ったな……癇癪玉の同室のやつってみんな違う事務所って言ってたよな……絶対にどこ行っても一人は知ってるやつじゃん。
「キチ草!」
後ろで茶を吹き出す音がしたが、無視だ。顔だけ突っ込んでるので、蹴飛ばして中に押し込めると、部屋の中で不機嫌ブリザード吹きすさぶディスプレイ越しの斎宮宗が映っていた。
「泉本かね。」
「何、」
「きみも何かこの七種に言いたまえ。あの猫の額のような家の半分を占めるようなものを送り付けてきて――」
腹立ったので、ここで強制的に通話をきってやった。うるさい、入賞して買った住居兼作業場のマンション。あんたはこっちに来るたびに、寮の面々がうるさいだのなんだの理由付けてうちに来て暴れるだけ暴れて帰っていく癖に、そう扱き下ろすな!上げねぇぞ!!
「これだから、ボンボンは。」
「作家先生、何か言われましたか?」
「着払いで送り返して、誰の手に渡らず処分されないと、その眼鏡割るぞ。と」
「そんなことを言うほどの文字量ではなかったような?」
「細かい男は嫌われるぞ。」
「細かくないとこの業界は生き残れないのですよ!」
今しがた切ったばかりの電話が鳴る。表示されてるのは、斎宮宗。切ったことに腹を立てるのか、送られた荷物についてなのか、正直わからない。けれども、あれはなにをしても触れては爆発する時限でもない即爆する風船だ。
もう少し優しくだったりしたら、いいのにとはおもうのだけれど、ないものはねだれないし、ねだってしまってかなったりしたらそれはそれで張り合いもなく、つまるところない袖は振れないんだ。
「ないものって幻想なのよね。」
「作家先生が出るとお怒りもおさまるといいんですが」
「無理だろうね。だから諦めて私の分と、斎宮の説教受けろ。」