彼女とはちゃんとしたそれをしたことがなかったなと、ぼんやり考えていた。
とはいえ彼女は期待の新人作家、僕もアイドルであるし、簡単に外を出歩けるものではない。ここがパリだったら、彼女とも仲睦まじく街道を歩いたり出来たのかもしれないが。
プライベートで共通の知人に贈る品を選ぶために買い物に出る、という大義名分は立てた。バレない程度の変装もした。これで万事問題なかろうと彼女が1人住む部屋へ向かう途中、携帯電話が鳴り響いた。
……直感などというものを取り立てて信じてはいないが、嫌な予感がした。
「もしもし?」
「もしもし、斎宮?ごめん、今日なんだけど」
「……風邪をひいているのかね」
「え、何でわかった?」
「いつもより微かに声が掠れているのだよ。恋人の異変に気づけないほど僕は莫迦ではないしね」
言い切ると、何故か電話越しに彼女がくすくすと笑いだした。そんなに変なことを言ったつもりはなかったのだが。
「何故笑うのかね」
「……いや、斎宮も変わったなと思ってさ」
「バカにしているのかね!?」
思わず激昂しかけるが、相手は病人だったと思い押し留まる。
もういいから寝ていたまえ、そう告げて電話を切る。
近くのスーパーでいくつか身体に良さそうなものを購入してから、彼女の部屋へと向かった。
*****
「邪魔するよ」
「……え、何で来たの」
「来ないとは言っていないだろう。……調子はどうかね」
「ちょっとダルいかなってくらい。大したことないし、斎宮に移したら悪いから」
早く帰れというようなことをぶつぶつ言う彼女に溜息を吐く。
病気の時くらい弱ったところを見せてくれてもいいと思うのだが、どうにも会話が噛み合わない。覇気のない彼女とではやはり調子もずれる。
「君はベッドで寝ていたまえ。おかゆくらいなら僕にも作れる」
「は?」
「……たまには甘えたまえ。僕が一方的にリサのことを好いているようで寂しいのだよ」
ぽかん、という表現が相応しい表情で彼女が固まる。
しばらくして、今度はケラケラと笑いだした。
まったく、何なんだね今日の彼女は!!
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
「最初からそう言いたまえよ」
「いや、うん。嬉しいよ。いつ……宗がそういう風に思ってくれてるのは」
「……リサ?」
「えーと、病人なので宗に甘えさせていただきマス。部屋で寝てるから、お粥出来たら起こしてくれる?」
もちろんだと返せば、ベッドのある方へ歩いていく彼女。
デートはまた機を見ていつでもやり直せるだろう。
せっかく近くにいるのだから、せめて同じ時間を過ごしたいなどと考えるのは自然な事だと思いたい。
「……僕らしくもないね。だが、悪くない」