無事に黒尾は研磨をみつけだし、合宿所に戻ってこれた。直井コーチにコッテリお説教をされていたので何とか宥め、研磨を入れてアップを始めた。


すると相手校もアップを始めるのか出入り口付近に溜まっていた。ドリンクを作るため外に出ていた私には厄介この上ない。背の高い男子生徒のあいだを、掻い潜っていかなければならないが県外の高校ということもあってか躊躇してしまう。真後ろの私の存在に気づかないまま、男子生徒は雑談をはじめた。

「すげーよな東京から来るなんて」
「向こうのセッターなんか小さくね?」
「うん…それになんかヒョロヒョロしてる」
「控えのセッターなんじゃないの?」

いいえ、彼は正真正銘音駒の正セッターです。と心で思う。

「強いのかな?学校名聞いたことないよな。音駒高校だっけか」

少しだか言い方にトゲがあり、ムカッとする。しかしここ感情のまま言い返すのも子供みたいで嫌だ。そろそろ本当に行かないと、と足を踏み出そうとするがその前に私の目の前に彼らよりも更に大きくて安心する背中が現れ、ほっと胸をなでおろす。

「君等の言うヒョロヒョロのチビとは」

大人気ない。と思わず苦笑いをする。しかし、黙っていられないのが彼らしい。

「俺達音駒の背骨で、脳で、心臓です」

一瞬にして相手チームに緊張が走るのが分かる。そしてこちらを向いてやっと私の存在に気づいたのか、顔を赤らめた。1年生らしき部員が「うわ、かわいっ」と声を漏らした。すると黒尾は胡散臭そうにニッコリと笑った。

「それと、出入り口に固まるのは邪魔になるのでやめましょーね」

行くぞ、と続けて私の背をおす。相手チームにペコリと頭を下げて、黒尾に託されるまま体育館に踏み入れるとタイミングよく笛の音が響く。

「音駒高校対槻木澤高校、練習試合を始めます!」



×××××



「クロさんナイスレシーブ!」

黒尾のレシーブしたボールが完璧に研磨の頭上に上がる。そのボールを少ないモーションで犬岡にあげゲームを決める得点を獲得する。私はスコアブックに記入し、最後に2-0、勝利と書き足す。

挨拶を終えこちらのベンチに戻ってくる一人一人に声をかけながらタオルを手渡し、ドリンクも配る。

「お疲れさま」
「サンキュ」

黒尾に手渡したところで、猫叉監督が今日の試合についての反省点などを話す。それも一言一句逃さないようメモをする。今日は、全体的に動きはよかった。だがやはり入ったばかりの犬岡と研磨のコンビネーションがまだ不安定だ。でも、雰囲気はいい感じ。
猫叉監督に続けて直井コーチの話を終えると、体育館の清掃にはいる。私もベンチ周りを片付けるためにパタパタと走り回っていると「あの!」と声をかけられた。振り返ると先ほどの試合には出ていなかった槻木澤の選手たちだ。あ、でも真ん中の人は後半でてたWSだ。

「…何でしょう」
「その、よかったら名前教えてもらえたらなーって」
「…えっ」
「そんでできれば連絡先も教えてほしかったり」

…東京の練習試合で声をかけられることは多々あったが、まさか宮城にきてまでされるとは思わず目を丸くする。無表情だった美沙がキョトンと、どこか幼い表情で見つめてくるものだから声をかけた男は顔を赤くした。

どう断ろうかと悩んでいると、突然首に腕が周りぐらりと後ろに引き寄せられた。すぐ硬い胸板に頭がぶつかる。顔を上げるとやはりといったところか、黒尾の顔が見える。

「悪いけど」

ぼんやり彼の顎を眺めているとそれが近づいて慌てて顔を正面に戻すと、つむじのあたりに衝撃が走る。見なくても分かる。わたしの頭に顎を乗せたのだ。

「こいつ、俺のだから」

きっと意地の悪いかおをしているのだろう。そして目の前の彼らは、ポカンと口が開いて石のように固まっていた。「それじゃあ失礼します」とそのままズルズルと美沙は引きずって連れ去られる。

「絡まれてんじゃねぇ」
「ごめんなさい」
「いつもの警戒心はどーしたよ」
「まさか宮城で声かけられると思わなかったの」

ようやく解放されたかと思うと、黒尾はペシペシ美沙の頭を叩く。それを受け入れ、されるがままな美沙は反省の色を瞳にうつしながら謝る。美沙の様子に、さすがの黒尾はこれ以上責めるようなことはできずわざとらしくため息をついた。

「…どこでも気をつけろ」
「うん、ごめんね」

先ほど試合が終了し、今はまだ清掃中だ。それなのに甘い雰囲気を醸し出す二人に夜久は目を吊り上げながら怒鳴るのであった。

「そこの二人!イチャついてないで、掃除しろ!!」
「スミマセン」
「…イチャ?」