▼あのこはかわいいおんなのこ?
「あら、一松くん」
散歩していたら思わぬ声に呼び止められた。僕の名前を個別で呼ぶのは下手したら数年振りぐらいになるんじゃないだろうか。僕と名前ちゃんの間で話題に上がらない事の無い、弱井トト子その人である。
「ト、トト子ちゃん…」
「こんな所で会うなんて珍しいわね」
「…………そうだね」
「あれ?いつもみたいに褒めないの?」
「…………えっと」
いつもみたいに。それも随分前の事の様に思える。名前ちゃんと再会して、彼女の話を聞く様になってからは暫くまともに会話を交わした覚えが無い。トト子ちゃんは確かに今日も笑顔が眩しくて可愛いし僕らの憧れ。でも、今は事情が違う。
「あ、そっかぁ。名前ちゃんと付き合いだしたんだっけ!だったらトト子を可愛いなんて言いづらくなっちゃうわよねー!」
「…………」
トト子ちゃんは掌を打って納得した様なポーズを取った。けど、何処か違和感というか、威圧感を覚える。
「………そうね。一応言っておくけど、」
何も言えなくなっている僕とは反対に、彼女は笑顔で僕の耳元に顔を寄せた。未だ嘗て無い接近戦だけれど、違う意味で心臓を鷲掴みにされている気分で喜べない。そのまま彼女が呟いた言葉が、さっきまでの違和感の正体を物語っていた。
「私が本気出せば名前ちゃんいつでも取り返せるんだからね?泥棒猫さん」
辛うじて喉から絞り出せたのは、え、という一文字だけだった。それどういう事なの。トト子ちゃんは名前ちゃんの事をどう思ってるの。言いたいこと、聞きたいことをやっと具体的に思い浮かべられた時にはトト子ちゃんは僕から離れていた。
「じゃ、買い出しの途中だから行くね!名前ちゃんにも宜しく言っておいて!」
―――どう宜しく言えばいいんだよ。
ずっと可愛いと思っていた幼馴染が心底怖いと思った瞬間だった。
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