No.1-side:KLR




……ったく、どこに行ったんだ。

人ごみの市場の彼方此方に目を向けながら、足早に進んでいた。
“人ごみ”と言っても、大概の奴らは俺を見ると顔色を変えて道を開けるので、歩き辛いことは無い。
しかし、あんなに目立つはずの目的の人物が見つからない。
市場も真ん中辺りに来ただろうか。
ぐるっと大きな輪を囲むように人々が群れになっている場所があった。

……まさか。

嫌な予感を覚えながら、人を掻き分け中央を目指す。
掻き分ける俺を見上げた人々が「ヒイッ」と言いながら道を開ける。
道ができ視界が開けると、輪の中央で起こっている出来事を一瞬にして理解することができた。

……やっぱり……。

燃えるような赤色が見えた瞬間、頭を抱えそうになった。
赤色の主は、10人程の命知らずな賞金稼ぎを前に、不機嫌そうに立っている。
周りの人々は、こいつ等から十分な距離をとり、ぐるっと囲むように野次馬で群れていたわけだ。

とにかく、俺が賞金稼ぎ達の背後に出てきたのはラッキーだった。
賞金稼ぎたちが俺の存在に気づく前に後ろから始末してしまおう。
目の端に既に俺の姿を捉えているであろう友人を少し見て、使い慣れた鎌を出す。
すると、あいつは片頬を吊り上げ、俺の方を見ないまま、ゆっくりと首を振った。

−手を出すな。

困ったもんだ。うちの頭は余程退屈していたらしい。
構えた武器を下ろし、様子をみることにした。

あいつが賞金稼ぎたちに手をかざせば、次々と奴等の武器がその手に集まる。
ビュンビュンと弧を描き飛んでいく武器を見ていると「キャァ」と小さな声が上がった。
何事かと周りを見れば、小さな女が集まる武器と一緒に吸い寄せられている。
必死に首元の何かを掴みながら、懸命に足を踏ん張ってはいるが、ズズズ……と引きずられるように動き、その地面に2本のラインを残していた。

悪いが、あの女が友人の武器の一部になるのも、反発で吹き飛ぶのを見るのも遠慮したい。
一度下ろした2本の鎌を再度構え、武器を失った賞金稼ぎの中へ、飛び込んだ。

−−

武器を持たない賞金稼ぎなど赤子同然。
奴等など、手入れを怠らない鎌の錆にもなりはしない。
周りの野次馬は、賞金稼ぎたちが首から血を噴出した瞬間、蜘蛛の子を散らすように去っていった。
腕を空中で振り、鎌に付いた血飛沫を切る。

やれやれと、そこらじゅうに横たわった賞金稼ぎたちを見ながら鎌を仕舞った。


「キラー、てめえ……。」


ただでさえ赤い目を、白目の部分まで血走らせながら友人が俺を睨み付けた。


「お前がぼんやりしているからだ。キッド。」

「俺が始末するって、合図したのが見えなかったのか。」

「さあ。分からなかったな。」

「てめえ……すっとぼけんじゃねえ。」

「あの……。」


盛大に舌打ちしたキッドの腕の下で、遠慮がちな小さな声が聞こえた。
……忘れていた。
声のした方に目をやれば、小さな女の首に掛かったネックレスの先がキッドの腕に引っ付いた武器の中に埋もれていた。
機嫌の悪いキッドが「ア゛ァ?!」と見下ろすと、女が困ったような申し訳ないような顔で俺たちを見上げた。


「お話中、ごめんなさい。これ……取ってもらえないでしょうか?」


少し前のめりになった苦しそうな体勢で、首もとのチェーンを指差す。
眉を下げてはいるが、その目に怯えの色は見えない。

……もしかして、この女、俺たちの事知らないんじゃないだろうか。

キッドが少し腕を上に上げた。
やっと前のめりだった体勢から、楽な状態になったようで、少しほっとした顔でキッドに笑いかけた。
キッドが訝しげな顔で女を見る。


「なんだてめえ?」


女が笑い顔のまま首を傾げる。


「何って……名前?それとも私の職業ですか?」


キッドの眉が片方上がった。


「てめえ、俺らを知らねえのか?」


女が可笑しそうにへらぁと笑う。


「知ってますよー。有名人じゃないですか。ユースタスさん。」


なんだ。知っていたのか。
知っていて、この女はこんなに平然と、更には緊張感の欠片もなく笑っていたのか。


「フン。知っていてヘラヘラしてやがったのか。俺らもなめられたもんだなあ?キラー。」

「違いない。」


女が再度困り顔になった。


「なめてないですよ。強い海賊ですよね?あの……ホントにこれはずしてください。」


ネックレスを掴んだ女の口元が歪み、少し泣きそうな顔になる。
ようやく女のネックレスが付いたままだというのにキッドが気づき、能力を解いた。
女のネックレスも外れ、キッドの足元にガランガランと派手な音を立てて賞金稼ぎの武器が落ちた。
女がネックレスによって引っ張られていた首を擦りながら、驚いた顔で落ちた武器をみた。


「すごいですねえ。これ全部くっつけて重たくないんですか?」

「てめえのひょろっちろい腕と一緒にすんじゃねえよ。」

「はぁー。流石ですねえ!!」


女が感心したようにキッドを見上げた。


「ユースタスさん、これ悪魔の実の能力ですか?」

「あ?……ああ。」

「すごいっ!!私、能力って初めて見ました!」


両手を合わせ、ぱあっと嬉しそうにした女にキッドが面食らった顔をした。


「ハルッ!!」


キョロキョロしながら通りの向こうに現れた帽子とサングラスを着けた男が、こちらに気づき叫んだ。
女がその声に振り向き、帽子の男に手を振った。


「じゃあ、ユースタスさん、殺戮武人さん、失礼しますね。」


女がペコリと頭を下げ、帽子の男の方へ走っていった。


「あっ!オイッ!!」


キッドが声を掛けると、足を止めた女がこちらを少し振り返って手を振り、また走っていく。


「お前、何してんだよ。あれユースタス・キャプテン・キッドだぞ!」


帽子の男があせった様子で、女に話しているのが聞こえた。
「うん、知ってるよ?」と女が暢気に返している。
男が呆れた顔で女を促し、どこかへ歩いていった。

「ククッ」と声がして、キッドを見た。
腕を組んで顎を下げ、これでもかと口角を上げて女の消えた方向を見ている。
今にも大笑いをし始めそうな顔だ。


「面白え……。」


キッドが呟いた。
また、嫌な予感がする。


「あいつ……うちの船に欲しいな。」


やっぱり。


「キッド。ただの女だろ……。」


無駄な抵抗だと知りつつも口にする。
キッドが愉快そうな顔を此方に向けた。


「ばぁか。ただの女が俺等やこの惨状を見て、あんなに平然としているかよ。」


たしかに、俺等はまだしも、この真っ赤に染まった地面と倒れた男たちをみて顔色を変えないとは大した女だ。


「何モンだ。あいつ……。ぜってえ、見つけてやるぜ。」


キッドが嬉しそうに下唇を舐めた。


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