No.2




しょんぼりとした顔を必死に作り、心の中のウキウキした気持ちを必死に隠していた。

昨日、買出しが終わったあと、一人でお菓子の材料を買ったりして市場をフラフラしていたら、ユースタス・キッドと賞金稼ぎの戦いに巻き込まれてしまった。

帰りが遅い私を探しにきたキャスケットが船に帰ってから興奮気味にみんなにその話をした。
話が耳に入ったキャプテンとペンギンさんに呼び出され、女の一人歩きの危険性について1時間ほど正座で聞かされる羽目になってしまった。
2度と船の外で一人になるな。と釘を刺され、お説教は終わった。

そのお陰(?)か、今日はキャプテン自ら私の買い物に付き合ってくれているのだ。
普段は昼間あまり外に出たがらないキャプテンと外で並んで歩けるのが嬉しくて仕方がない。
キャプテンの手のひらを指先でちょん、と突付くと、彼の大きな手が私の手を捉えて握ってくれる。
にやにやと零れる笑みを隠し切れずに俯いた。


「何笑ってんだ。」


ばれていた。
それなら、仕方ない。と開き直って笑顔で彼を見上げる。


「だって、キャプテンとお出かけするの嬉しいんです。」


キャプテンが横目で私を見て、ふん。と鼻で笑い「ばーか。」と言った。
「ひどい!」と頬を膨らますとキャプテンに膨らんだ頬を押され、ぶふっと空気が漏れる。
ケタケタと笑いながら歩いていると、一件の店が目に入った。


「あ、キャプテン。本屋さん。」


くいくいと、繋いだ手を引っ張ると、キャプテンも足を止めた。


「ああ、けっこうでかそうだな。入っていいか。」

「もちろんです。私も本欲しかったので。」


キャプテンの言葉に頷いて本屋に入る。
すぐに専門書のコーナーへ向かうキャプテンに声を掛けた。


「私、文庫か料理本の所に居ますので。」

「ああ。」


一応、自分の居所を告げたが、きっと私の方が先に本を選んでしまい、ぶ厚い本を立ち読みしているキャプテンを迎えに行くことになるのだろう。
そして、きっと、いつものように、キャプテンは悩んだ顔で私に言うのだ。


「なあ、ハル。“神経機能解剖学のすべて”と“治療薬配合ガイドブック・改訂版”どっちがいい?」


そして、答えられず呆然とする私を、さも愉快そうに笑う。
本当に変わり者で意地悪で困ったキャプテンだ。
そんな彼を大好きな私も、きっと相当な変わり者だけど……。
クスリと笑いながら文庫の新刊コーナーへ足を向けた。

ぶらりぶらりと眺めながら棚の間を歩く。
ランキングコーナーに好きな作家の新作を見つけ、手を伸ばす。
目当ての本に触る直前に、さっと伸びてきた手にその本が取られてしまった。


「あっ。」


思わず声を上げ、その本を持った手を目で追う。
黒地に白い水玉模様のシャツから伸びた手は見覚えがある。
私に、その本を差し出した水玉シャツの持ち主が口を開いた。


「また、会ったな。」

「殺戮武人さん……。」


私が見上げて呟くと、仮面の奥で僅かに笑ったような音がしたが、実際の表情は窺い知れない。


「キラーだ。」

「あっ、そうですよね!ごめんなさい。どうしても手配書の二つ名しか思い出せなくて。」

「あれは、海軍が勝手に付けた名だ。」

「なるほど、そうなんですね。じゃあ、気に入ってない?」

「まあな。……興味がないと言ったほうが正しいか。」

「じゃあ、キラーさんて呼びます。」

「ああ。」


キラーの手から文庫を受け取ってにっこり微笑む。


「キラーさんもお買い物ですか?」

「……いや。」

「え?じゃあ、何で本屋さんに?」


首をかしげてキラーを見る。


「探していた。」

「……あ。本を?」

「お前を。」

「…………へ?」


間抜けな声を上げた私にかまわずキラーが続ける。


「キッドがな。お前を気に入ったらしい。」

「キッド……ユースタスさんが?」

「ああ……。」

「私に何か御用が……?」

「お前をうちの船に乗せたいらしい。」

「もしかして……私を攫います?」

「……場合によってはな。」

「わー。それはいけませんね。」


キラーの答えに顔を顰めて首を振ってみせた。


「……お前ら。何仲良くなってんだ。」


背後で不機嫌そうな低い声が聞こえた。


「キャプテン……早かったですね。もう本買ったんですか?」

「ああ。それより、ハル。この状況はなんだ。」

「……トラファルガー?」


キラーが驚いた声を出した。
キャプテンが、キラーを見据え、私の肩に腕を回した。


「キラー屋。悪いがこいつはうちのクルーだ。ナンパなら他でしてくれないか。……ユースタス屋にもそう伝えろ……。」


キャプテンの口元はいつもの様に意地悪そうに口角が上がっていたが、瞳は鋭い怒りに満ちていた。


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