No.6




珍しい。
酒場から帰ってきても、まだキャプテンがお酒を飲んでいる。
船長室のシャワールームから出て、バスタオルをターバンのようにグルグルと頭に巻きつけながらグラスを煽るキャプテンに近づいた。

私に気づき、おいでおいでと手を上下に振ったキャプテンの横に座る。
隣に座った私の頭からバスタオルを外して自分の膝に敷き、膝枕をするように私の頭を自分の膝に導いた。
キャプテンが、濡れた私の頭を撫でながら、琥珀の液体を口に含む。


「キャプテン、ご機嫌ですね。」

「ふ。まあ、な。」


ボトルから、グラスに酒を足すキャプテンの手を目で追った。


「クク……。それにしても、ユースタス屋の二つ名は傑作だったな。」

「ああ。あれですか……。私は冷や汗かきましたよ。咄嗟だったので。」

「なんでいきなりあんな話始めたんだ?」


にやにやと笑いながら私を見下ろすキャプテンの顎髭に手を伸ばした。


「キャプテンが……怒ってたから……。」


思ったほど固くないキャプテンの髭を少し触り、その手を自分の口元にかざした。
ふあ……あ……と欠伸が出る。


「キャプテンが怒ると、どうしたらいいか分からなくなるんです……。」


私の頭を撫でるキャプテンの手のリズムに乗せて眠気の波が押し寄せる。
「そうか……。」と私の頭を撫で続けるキャプテンの顔をぼんやり見上げた。


「キャプテン、あまり、怒らないで下さい……。」

「俺は、お前には怒ってねえよ。」


キャプテンが、少し首を傾げて、私を見た。


「でも……少しは私がユースタスさんの所に行くかもって思ったんですよね。」

「思ってねえよ。無理やり連れて行かれるか。とは思ったがな。」

「私が外に出ると、ろくなことが無いって言った……。」

「事実じゃねえか……。ったく、海賊と賞金稼ぎの戦いにばかり巻き込まれやがって。」

「ばかりって……2回目です。」

「1回で十分だ。」


私を見るキャプテンの顔が一瞬うんざりした顔になった。


「私はどこにも行きませんよ。」

「ああ……分かってる。」

「……しんじて……ください……。」


懸命に開けていようと努力したが、遂に上目蓋が落ちた。
目を閉じると、頭を撫でていたキャプテンの手の平が、目の上を覆った。

暗闇になった視界の中、キャプテンの動く気配だけを感じる。
トプンと水音がした後に、グラスの氷がカランと動く音がした。


「クク……最弱にして最強か……ペンギンも上手いこと言ったな。」


何か言葉を返そうと思うが、もう、目を開けるのも口を動かすのも面倒だ。


「俺も、お前の事になると、どうしたらいいか分からなくなる。」


静かに話すキャプテンの声だけが聞こえる。
私に話しかけているのか独り言なのか分からない大きさの声だ。


「大した弱みを持っちまったな……。」


また、私の頭を撫でながら、そう言うキャプテンの声はなぜかとても楽しそうだ。
遠のく意識の中で、まだキャプテンの声がした気がしたが、もう半分夢の世界で、何を言っているか聞き取れなかった。








乾かさないまま寝てしまったせいで、酷い寝癖に悲鳴を上げるのは……5時間後。


−END


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