No.20-side:CREW
父さん、元気ですか。
おれは今、あー……どこに居るかは詳しく書けないけど、(だってほら、父さんが言いふらすとは思っちゃいないけど、海軍と余計な鉢合わせはしたくないからさ。)とにかく元気でやっています。
クルーは皆いい人達で、食事も美味しいし、年上の兄弟が沢山できたみたいだ。
この間寄った島では、ペンギンさんと数人のクルーで温泉に行った。
キャプテン・ローは行かないよ。彼はもっと静かな感じを好むから。ハルさんと二人で行ったんじゃないかな。
ペンギンさんを覚えてる?副船長の彼だ。
理由がなくちゃゆっくり休めない性格のペンギンさんに、無理矢理クルーの引率という理由を作って連れて行ったんだ。
少しはリフレッシュできていればいいけど、どうだろう。
みんなハメを外し過ぎたから、やっぱり疲れただけかもしれない。
クルーの皆は、おれの修行にも嫌な顔せず付き合ってくれる。
キャプテン・ローなんかこの間、直々におれを武器屋に連れて行ってくれた!
今までの短剣より少し刀身の長いものを買ってくれたんだ。もちろん、今の所何よりも大切な宝物だよ。
島に居た頃から、護身用の武器は短剣と決めていたんだけど、最近は少し銃も使えるようになってきた。
剣より手入れが大変で、やっぱりおれは剣が好きだ。
もう少し背が伸びたら、いつか、キャプテン・ローのような大きな長い剣を持ちたいと思ってる。
そちらはどうですか。
店の方はうまくやっていますか。
もし、可能なら一人で無理せずホールに人を雇ってください。
孤児院を卒業する年齢の子とかどうかな。考えてみて。
父さんさえ嫌じゃなければ、おれが使っていた部屋を下宿にしても良い。
どうか、身体だけは大事にしてください。
じゃあ、元気で。
また手紙書きます。
貴方の息子 カリタス
PS.
そうそう、この船でおれにも友人ができました。もちろんクルーとしてはずっと先輩だけど。
彼は航海士で……白熊なんだ。比喩じゃないよ。本当に熊。全然怖くない。
強くて、優しくて、立派な航海士だ。すごく仲良くしてくれる。
父さんにもいつか会わせてあげたいです。
−−−
「どこに行くの?カリタス。」
「ああ、ハルさん。郵便局ですよ。明日の朝出発なのでその前に手紙を出しに。」
ユニフォームの上からコートを着込みマフラーを巻いて、キッチンの前を通りかかると、中からその部屋の主に声を掛けられた。
丁度良い!と彼女は笑顔で近寄ってくる。
「おつかい頼める?」
「はい。もちろん。」
「じゃあ、シナモンパウダーを買ってきてほしいの。折角リンゴを沢山買ったのに切らしてて。」
「わかりました。」
「おつりはお小遣いにしていいからね。」
おれの手の平にコインをひとつ乗せながら、内緒だよ、といたずらっぽく微笑む。
幼い子供にするような扱いに、居心地が悪いようなくすぐったいような気持ちで苦笑を零す。
「待って、おれもいく!!」
ドスドスドスと足音が近づいてきたと思ったら、オレンジ色の巨体がおれとハルさんの間に割り込んだ。
「ベポさん。郵便局に行くだけですよ?」
「でも、スパイス屋さんに行くんでしょ?その隣はハニーショップだよ。それに郵便局の隣の文具屋で折尺が欲しいんだ。ペンギンが持っててさ。すっごい便利アレ。」
以前は、甘いものにしか興味がなかった彼の買い物に少しの変化があった。
空中に指でジグザグを描いて折尺を示した彼に頷いて笑みを返す。
じゃあ、とハルさんに手を振って二人で歩き出す。
廊下を曲がった所で、パタパタと軽い足音がおれ達を追いかけてきた。
足を止めて振り返る。
「ベポ!!わすれもの!!」
たった今別れたはずの彼女が追いつき、手に持っていたのもを差し出す。
ベポは、大きく口を開けて笑い、それを受け取った。
「たいへん!忘れてた!冬島はこれがなくちゃ。」
そして出入り口の手前でそれを装着する。
おれはこれまで何度も見たその姿に、やっぱり今回も笑う。
ユニフォームと同じオレンジ色。
天辺の左右に開いた穴からはぴょこんと彼の丸い白い耳が飛び出ていて、額の所にBの文字。
ふかふかしたオレンジのニット帽をかぶったその姿で重い入口の扉を開けて振り返る。
「ハル!お土産にハニーショップで美味しい蜂蜜買ってくるからね!」
ベポが後ろに放った大声の後、おれ達はどちらともなく顔を見合わせ、ジャンプして船から地面に降り立つ。
よーい、どんの合図も無く、街まで競争のように走り出した。
絨毯のように白く平らな地面に、大きな肉球型の足跡と、すこしぶかぶかなおれのブーツの跡が点々と残る。
そして、空の光を受けてキラキラと舞い散る粉雪が、静かに、静かに、その跡を消して行った。
− END
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