No.02




−……い

−……おい……


「おい、お嬢ちゃん、起きなさい。」


……ん……誰……?
お嬢ちゃんて……私に言ってるのかな……。


「あららら……死んでんのかな……。まいったな、こりゃ。」


ちょっと……人が死んでるかもしれないのに、何その面倒臭そうな声。
声の主も気になるし、起きようかと首を横に向ける。

頬にザラリとした感覚があった。
いつものフカフカの枕ではない、不快な感覚に顔をしかめる。
なにこの、砂みたいな……

……………………すなっ?!

ガバッと飛び起きて辺りを見渡す。
後ろから「うおっ!」と声が上がった。

……海。
……まだ、夢から覚めてない……。


「ねえ、ちょっと、お嬢ちゃん。どうしたの、こんな所で寝て。」


私を起こしてくれた声が後ろからして、顔を上に向ける。
思った以上に高い位置から見下ろされていたことにまず、驚いた。


「……でか…………人?」


世界びっくり人間?前にTVでこういう人みた事ある。


「……人です。失礼だね、アンタ。」

「……あ、ごめんなさい。」


でかい人が長い足を曲げてしゃがみ込んだ。
もじゃもじゃ頭の前髪をアイマスクで押さえている。
格好はスーツなのに、髪型はファンキー。
……変な人。


「で?どうしたの?無人島に一人で……。」

「はぁっ?!無人島?!」


驚く私の反応に、逆に驚くでかい人。


「え?無人島って知らないで来たの?」

「しらないしらない!何ですか、無人島って!」

「お嬢ちゃん、迷子?ここまでどうやってきたのよ?」


でかい人が、呆れたような顔で聞いてくる。


「……どうやってって……鳩を……追いかけて……?」

「……はぁ?鳩?……寝ぼけてる?」

「いやいやいや、本当なんですって!ネクタイ着けた白い鳩……。」


言えば言うほど自分の言葉が嘘のように聞こえる。
ああ、これは信じてもらえないかもしれない。
しかし、私の言葉に、でかい人が何かに気づいたような表情をした。


「ネクタイ?……お前さん、ロブルッチの知り合いか?」

「……は?あの鳩、ロブルッチって名前なんですか?」

「いや……鳩の名前は違うけど……。」

「そうだ、あの鳩、大変なんです!でっかい豹と一緒にどこか行っちゃって!……たぶん……もう……食べられてる……。」

「ああ〜……豹か。」


でかい人が後ろ頭をボリボリと掻いた。


「ああ、いやその、なんだ。まぁ、鳩は大丈夫だ。」

「は?」

「それより、お嬢ちゃん、どこの島から来たの?しょうがないから送ってくよ。」


……島?島単位で言うの?


「……えっと、島……で言うなら日本ですけど、できれば関東の辺りに行きたいんですが……。」


まぁ、交通機関のあるどこかに辿り着ければ、カードもあるし何とか帰れるけど、出来るだけ家の近くの方がいい。


「は?ニホン?」

「あ、ここも、一応日本か。お兄さん日本語話してますもんね……じゃあ、本州って言えばよかったかな。」


日本人にしては体でか過ぎるけど。
私の答えに少し驚いた顔をした、でかい人が僅かに不機嫌そうな表情になった。


「ねえ、お嬢ちゃん。ニホンなんて誰に聞いたの?ふざけるのも大概にしないとおじさん怒るよ。」

「……え?ふざけるって……。」


……どこらへんが?
自分の発言を、もう一度頭の中で思い出しながら繰り返してみるが、全然わからない。


「日本がふざけてるって……なんで……ですか?」

「……じゃあ、本当にニホンから来たっていうのか……?」


でかい人が、眠そうだった目を見開き、私をマジマジと見つめた。
そして、ふむ。と何か考えたような顔をした後、立ち上がった。


「まぁ、ここじゃ何だから、とりあえず行こうや。」


大きな手を差し伸べられ、つかまって立ち上がる。


「行く……って、どこに……というか、どうやって?」


無人島と言う割に、近くに船らしきものは見えない。


「ん?それ。」


でかい人が指差した先には、砂浜にぽつん。と立っているママチャリ。


「は?」

「あ、そうだ、名前きいてなかったね。なんて名前?」

「いやいや、その前に、あれ……チャリ?」

「うん。」

「……ここ、無人島って言ってましたよね。」

「うん。だね。」

「……チ……チャリ?」

「うん。チャリ。」


……この人大丈夫かな……。
どこに行く気?チャリじゃ、無人島ぐるぐる回るだけじゃない……。


「……で、名前は?」

「…………ウミノ……ナツ……です……。」

「ナツちゃんね。じゃあ、行こうか。」


私のバッグをカゴに入れ、ママチャリの荷台をポンポンと叩くでかい人にこれ以上何か言うのも馬鹿馬鹿しくなり、無言でその荷台に跨った。
でかい人の腰あたりの服をつかまると、彼が鼻歌交じりに自転車を漕ぎ始めた。

……え?ちょっとちょっと……この人海に向かって漕いでる!!
やっぱ、ヤバい人だった!!!

おろして!と口を開こうとした時、その口は開いたまま、声を発することはなかった。

自転車が……海を渡ってる……。


キコキコキコキコ……チリンチリーン……


……お願い私……早く……夢から覚めて…………。


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