No.03
キコキコキコキコ……
「ふんふふーん……」
「……。」
「ふっふんふふーん……」
「……。」
「ふんふふんふー……ナツちゃん。」
「……。」
「……もしかして、寝てる?」
「……起きてますよ。」
「なんだ。返事しなさいよ。」
「……なんですか?」
「ん、いや。あんまり静かだからどうしたかと思って。」
「……この自転車はどこへ向かってるんでしょう。」
「あー。マリンフォードだな。」
……どこだよ。それ。
明らかに日本の地名じゃない。
ていうか、地名なの?水族館の名前?
私は、全然覚める気配の無い夢に不安を覚えていた。
明らかに普通じゃありえない事だらけなのに、自転車の硬い荷台のせいでお尻は痛いし、顔に掛かる風は海の匂いがするし、足元に時折掛かる波飛沫は冷たい。
あまりにファンタジーな状況で、感覚だけがあまりにリアル……そう、まるで夢じゃないみたいに……。
「……。」
「あー……まあ、うん。諸々の事はね、着いたら説明してやるから。」
「……説明……。」
「うん。だからね?もっと、らくーに、楽しみなさいや。海のサイクリングを。」
「え……ああ……そうですね……。」
本当はその「説明」とやらを、今してもらいたい。
マリンフォードってなによ。飛行機にも船にも乗ってない私がどうやって無人島に居たのよ。あの鳩は何よ。豹はなによ。この自転車はどうやって海を渡ってんのよ!!!
もじゃもじゃ頭を見上げる。
顔を少し傾げれば、でかい人の横顔が少し見えた。
今、この人に聞きたいことを聞いても、面倒臭がって適当に流されてしまいそうだ。
なら、とにかくこの人以外の人が居る場所で、違う人に聞いたほうがいい気がする。
……ああ、でもこれだけは聞いておこう。
「……お兄さん。」
「ん?」
「お兄さんの名前は?」
「ん、おれ?クザン。」
「……クザン……ね。」
「いや、お兄さんのままでも良いけどね。」
「ホラ、なんか、いいじゃない?オニイサンて。」とか言っている。
けっこう、私的にはシリアスになってたのに……。
なんだかこの人といると調子狂う……。
バカバカしくなって、でかい人……じゃない、クザンのでかい背中に額を預けて目を瞑った。
あ、さすが大きいだけあって安定感いいわー。
−−
「ねえ……クザン……。」
「ん?」
「この人たちは……一体?」
「え?海兵。」
クザンの「ついたよー」という声で目覚め、自転車から降りると、その場に居た人たちが私たちを見て一斉に動きを止め、全員姿勢を正して敬礼をした。
「だから、なんで海兵が急にこんなに整列したの?」
「ああ、おれ、大将だし。」
「……クザンさん……。」
「今更いいから。さん付けとか。」
横の変なでかい人が実は偉い人だったと知って、思わずさん付けで呼びなおしたら、うさんくさそうな目で見られた。
「まあ、いいや。行くよ。」
「どこに?」
「海軍本部。」
「は?……なぜ?」
まさか、あんなママチャリで向かっているのが、こんなお城みたいな凄い所だとは思わなかった。
海兵って……海軍の兵隊さんでしょ?
こんな兵隊に敬礼されながら入る建物、怖すぎる!入りたくない!!
タラタラと歩くクザンに慌てて、何故行くのかと問うと、彼は足を止めてこちらを見た。
「なぜって、お前さんがニホン人だからでしょうが。」
……ここはやっぱり、外国のどこかだったのだろうか……。
それなら海軍じゃなくて、日本大使館に連れて行って欲しい。
「……日本人だといけないの?」
「いけなくはない。ただ、この世界じゃニホン人が普通に生活するには危なすぎる。」
「……この……世界……?」
「ああ、ナツちゃんが住んでいたニホンじゃない世界ね。異世界ってトコ?」
ポカンと口を開けてクザンを見上げる。
異世界……?
なに言ってるの?このオジサン……。
「……やっぱ……これ、夢……?」
「……何を今更……。」
クザンが呆れた顔で「さ、行くよ。」と私を再度促し、仰々しい建物の中に足を踏み入れた。
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