12-1
「oh...シャーロック...。」
玄関に立つ彼を見て、思わず声を失った。
*
私が彼の異変に気付いたのは、半年前の冬休みの初日だ。
たとえ眠る直前までパジャマを着ていたとしても彼はほぼ裸同然でベッドに入るのがすっかり通例になっていたのだが、その日はバスローブでベッドに入ってきた。
「ねえ、ちょっと!濡れてるじゃない!」
「当たり前だろ、バスローブだ。」
「だから、なんでバスローブのままベッドに入って来るの!」
「今までお風呂に入っていたから。」
飄々と答えて寝返りを打つ彼にそのまま寝かせてたまるかと声を上げた。
「シャーロック、バスローブ脱いで。」
「嫌だ、寒い。」
「なら、パジャマを着て頂戴。」
「うーん……あとで。」
「今!」
「……着るよ。君が寝たら。」
彼の言葉が何かおかしいと訝しんだ私は、上体を起こした。
シャーロックは私に背を向けたまま、面倒くさそうな視線をチラリと向ける。
私は裸足のままベッドから抜け出て、彼のクローゼットを開けた。
「勝手に触るな。クローゼットの中は僕が決めたとおりに並べてあるんだ。」
ベッドの中から投げかけられる抗議の声を無視し、決して整っているとは言い難いクローゼットから青いパジャマを一組出した。
それを濡れたバスローブのまま横になっているシャーロックの体の上にぽんと置く。
「着替えて。」
「……見られていたら着替えられない。」
「今更?」
まるで恥らっているかのようなシャーロックの台詞を、はん、と鼻で笑い飛ばす。
「……嫌だ。」
お腹に畳まれたパジャマを乗っけたまま、背中をこちらに向け頑なに拒否をする。
「そのまま寝る気?」
「Yup。」
ッパ、と唇を鳴らすシャーロックに苛ついた。
私は眠いのだ。寒いのだ。でも濡れたバスローブを着てる人間と一緒に寝るなんて御免だ。
彼に掛かっている布団を問答無用で引き剥いだ。
「oi!!何するんだ!」
布団に次いで、彼のバスローブの衿元に手をかける。
ぐいと引っ張ると、シャーロックも慌てたようにじたばたと暴れた。
「馬鹿」とか「やめろ」と言いながら大暴れするシャーロックを抑え込もうと、彼のウエストに膝を掛ける。
「痛いっっ!!!」
瞬間悲鳴のように彼が声を上げ、その声の調子に驚いて飛び退いた。
脇腹を抑え、硬直したように蹲る彼を、呆然と見る。
彼の体の力が緩み、ふうと息を吐いたところで、再びベッドに乗り上げ彼の隣に座りこんだ。
慎重に彼の体に触り、仰向けにさせるように肩を押すと、諦めたように抵抗なく彼は天井を向いた。
ウエストに巻きついている紐を解き、バスローブを肌蹴させる。
小さなスタンドライトだけの薄暗い室内の中、シャーロックの白くて細いウエストに黒々と浮かぶ痣が見えた。
薄いものから濃いものまで、脇腹を中心に数本付いたその痣は棒状の物で叩かれた痕だという事は一目瞭然だった。
「……な、んで。」
「10人がかりでやられた。」
「そうじゃなくて、……その……やられた理由の方。」
「さあ、知らないよ。御親切に理由を述べてくれるような紳士的な奴らじゃない……とにかく分かってるのは、あいつらは僕が気に入らないみたいって事くらいだ。」
「そんな……。」
「何考えているか分からないってさ。異質で気持ち悪いんだって。……僕からしたらあいつらの方が何を考えているか理解に苦しむけどね。授業をサボっているわけじゃなくてもテストの問題が解けないとか、徒党を組んで暴力を振るうとか、そんなの僕の方が分からない。馬鹿だし……まるで動物だ。犬や猿の方がまだ理性的だ。……マイクロフトが言ってた通りだ。」
淡々と無表情で呟くように話すシャーロックを見つめながら、浮かぶ涙を止めることが出来なかった。
その涙を隠すように、くるりと彼に背を向けベッドから抜け出す。
忍び足でキッチンへ行き、戸棚の中に入っているミスターホームズの腰痛の湿布を一袋持ち出した。
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