御幣島彩という青年が男で尚且つ成人でなかったら(年齢は自称だけれども)声は掛けても、こうして悠長にファミレスで話などしていない。
いや、私と同じ性でも本当は然るべき機関に頼るべきだと諭すのが大人として正しいことなのだろうけど、彼からその選択を取ることに対する拒否を言葉の端々で感じた。

「これから君はどうするんだい」

目を合わせるのが苦手なのか、机に置かれたグラスを見つめる彩君に先の予定を訪ねた。
悩んだ様子で彼は目を伏せる。ぱっと思いつける事が出来ない位、行く宛が無いのだな。

……この後、ここで別れると彼はどうなるのだろう。
雨はまだ止みそうにない。コンビニで傘を買い与えても雨を凌ぐだけの道具だけしか手元にないぞ。
寝床は?食事は?仕事は?

彼の素性の謎より心配が勝ってしまう。
私のような人間だから良かったものの、悪い人間なんてこの世にごまんといる。
その上この街の土地柄の悪さもある。彼をこのまま放ってはおけなかった。

「帰る家は」
「…………ない、です」
「やはりそうか…」
「あの、寝床なら、あるので……丸三音さんのご心配には及びません」
「ネカフェか何かだろう。ちゃんと落ち着ける家に寝泊まりするのが一番だと思うが」
「それがあったらこんな生活……してませんよ」
「ならばこれから暫くするのはどうだい」
「……は?」

漸くこちらを見る彼の瞳は、大きく見開いていた。
そりゃそうだ。突然出会った男がよく分からないことを言い出したら誰だってそんな反応になるな。

「家がない様子だから、もし良ければの話だ。私の所で落ち着くのはどうだろうと」
「えっ、えっ、えぇっ」
「あー………いや、すまない、やはりこれはさすがに良くないな。忘れてくれ……」
「待ってください…!まって、あの、おれ、ほんとに困ってて」

言い出しっぺなのに無責任なことを言ってしまって少し申し訳ないなと思ったら、彩君が突然立ち上がり私の手を握った。
必死さを含ませた泣きそうな顔で、こちらを見つめられると心が揺さぶられる。

「あの、ご迷惑でしたらいいんです。けど、さっきの言葉……俺、本気に、していいなら甘えていいですか……」
「本気か…?」
「いや、こっちがお聞きしたいです」
「あ、あぁ……すまない。そうだ…いや、いいよ。本気にしてくれ」
「……丸三音さん…!」

猫みたいな青年は今は犬のように見えた。拾われ名前をつけられ優しくされた子犬そのものだった。
本当にこの日の私はどうかしていたと思う。
悩ましげな紫の色に惑わされて、らしくないことをしてしまった。
けれどもこうして、偽善的ではあるけれども私なりの善を尽くせて少しばかり満足していたのは確かである。

うつくしさの積
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