38



「東京ってもしかして――音駒、ですか!?」
「練習試合っスか?」

 日向と影山の立て続けの質問に武田は嬉しそうに頷くとジャージの袖で鼻血を拭き、鶫は取り出そうとしていたティッシュの行き場がなくなり静かにそれを元の場所へ戻す。

「梟谷学園グループ」
「!」

 音駒を含む関東の数校でできているグループで、普段から練習試合を盛んに行っているらしい。

 今回は猫又監督の計らいで烏野も合同練習試合に参加させてもらえることを武田が話せば、田中と西谷が嬉しそうに声を上げた。

「そういうグループは昔から積み上げた関係性みたいなモンでできてるから、ツテなしではなかなか入れるモンじゃないんだが……。猫又監督に感謝だな」
「はい、そうですね!」
「あと、またしつこく頼んでくれたであろう先生にもな」
「いや僕はそんな! 烏養監督のお名前あってこそ……」
「アザース!」

 烏養に続いて部員たちからも感謝の言葉を貰った武田は照れたように笑い、真っ直ぐに部員たちへ目を向ける。

「――この数年で、県内で昔懇意にしていた学校とも疎遠になってしまった。当時の烏養監督と親しかった指導者が変わってしまった学校も少なくないです」

 このチャンス、生かさない手はない。

 新たに舞い込んできたチャンス。部員たちがやる気に満ち溢れているなか、影山があのセットアップがまた間近で見られるのかと孤爪のことを笑みを浮かべた脇では西谷と田中が気合十分と言った様子で拳を握り締める。

「今度は俺が護り勝つ!」
「うおおおお! シティーボーイ連合に殴り込みじゃあああああ!」
「シティーボーイ連合……」

 シティーボーイ連合という単語に月島と山口が笑うが、田中と西谷は気が付いていない。その騒がしさのなかで日向は音駒との練習試合を思い返し、楽しみで仕方ないという笑みでガッツポーズを取る。

「今度は絶対、ブチ抜いてやる……!」
「ただ向こうはIH予選が今週末からなので、すぐってわけではないです。あとまだ“お誘い”をいただいている段階でして、色々承諾もらわないといけないことなど細かいところはまたあとでお話ししますね」
「分かりました」
「取り敢えず皆の意思は――」
「勿論」
「行きます!」

 やる気に満ちた満場一致の返答に武田は満足そうに笑うと職員会議があるからと慌ただしく体育館を出ていき、部活のことを任された烏養はひとつ頷く。

「忙しくなるなあ……」
「だな! 清水もな初遠征だもんな!」
「……うん。私もがんばる」
「?」

 清水の返答に菅原は不思議そうに首を傾げたが、烏養からの部活開始の声がかかったのでそのままコートの方へ駆けて行ってしまった。

 清水の傍でその会話を聞いていた鶫は部員たちが部活を始めたのを見計らって彼女の方に歩み寄ると、先程の言葉の意味を訊ねてみることにした。

「あの潔子先輩。さっきの頑張るって……」
「ああ、そのこと」
「はい」
「新しくマネージャーを勧誘しようと思っているの」
「え?」

 三年生が卒業すればマネージャーは鶫一人だけ。しかし中学でマネージャー経験のある鶫は一人で仕事をこなすのはそう難しいことではない。

 それなのに何故と鶫が不思議そうに首を傾げると清水は少しだけ微笑んで、彼女が抱えるように持っているデータブックへ視線を落とす。

「鶫はマネージャーだけど、別の仕事があるでしょ」

 誰かが代わることのできない、大切な仕事。

「潔子先輩」
「だからその仕事に専念出来るように……私がいなくなった後でも大丈夫なように、最低でももう一人マネージャーが必要だと思ったんだ」
「……ありがとうございます」
「ううん、気にしないで。ああそうだ、もし鶫のクラスで部活に入っていない子がいたら教えて。私が直接話をしたいから」
「分かりました」
「舞雛!」
「はい!」

 清水の話が切りの良いところで烏養に声をかけられた鶫が返事をしてそちらへ顔を向けた瞬間、グラリと視界が揺れて体のバランスを崩し、鶫は思わず近くの壁に手をついた。近くで見ていた清水は驚いた顔で鶫に駆け寄り、声をかけた烏養も驚いて目を丸くする。

「大丈夫!?」
「だ、大丈夫です。……ちょっとフラッとしただけなので」
「少し休んだ方が」
「いえ、大丈夫です」

 何時も通りに微笑んだ鶫は烏養にも心配されたが、もう大丈夫だと返事をして彼の用件を聞く。ほんの少しだけ色が白い鶫の顔に月島は静かに目を細め、近くでアップを取っている影山もまた彼女を気にかけて視線をそちらへ向けていた。

「……」

 大丈夫、大丈夫。
 私は、まだ頑張れる。

 皆のためにも、頑張らないといけない。

 

×××    TOP   NEXT