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 うへー……美人。三年生かあ……美人。
 口元のホクロがセクシー、美人……髪サラツヤ。
 あっ、周りの人もすごい見てる。

「――なんだけど、見学だけでもどうかな?」
「うへっ!? ハイッ」
「! ほんとう!? ありがとう!」
「!」
「じゃあ放課後また来ますね!」

 ぼんやりとしている間に何時の間にか話が進みに進み、清水にそう言われた時にはもう遅く、清水は背中を向けていた。それを見た彼女はしまったと声を漏らすものの、見学だけならと自分の頬を掻いた。

「強くなる皆を見て――来年とか再来年のこと、改めて考えたんだ。私の自分の仕事をやっておかなくちゃ」

「――!」

 清水の脇から顔を出した女子生徒を見た日向ははっと目を見開いて新しい人見つかったんスねと声を上げる。それに菅原や他の面々が集まってくると女子生徒の緊張は更に増すが彼らがそれに気付くことはない。清水はそれを察して一歩前に出ると彼らを見つめた。

「えっと新しいマネージャーとして仮入部の――」
「やっ、谷地仁花です!」

 谷地仁花と名乗った女子生徒が緊張気味にそう言うと、わらわらと部員たちが集まってくる。そんな中で東峰が顔を覗かせて一年生と訊ねれば、その長身に谷地はビクリと体を震わせビシッと居住まいを正した。

「いっち、一年五組であります!!」
「旭ちょっと引っ込め!」
「ええ!?」

 東峰に怯えていると即座に判断した澤村が東峰を下がらせると、不満げながらも思い当る節が多々ある東峰は静かに後方に下がった。その脇では田中と西谷が菅原の後ろで谷地を窺っていて、それに気付いた菅原がそんな反応するんじゃないと彼らの顔面を押し退けている。

 その様子を見て、意外と人見知りをして女子なら誰にでも食いつくんじゃないんだと月島と山口がぼんやりと考えていた。

「良かったなあ。これで来年もマネージャー居るなあ!」
「ハイ!」
「あっ、おう……」
「ま、まだ仮だから……!」

 嬉しそうにそう言った東峰と日向に戸惑う谷地の言葉を代弁した清水は続けて、今日は突然お願いして委員会の仕事の前に来てもらったから顔見せだけだと告げる。それに谷地はやや解けた緊張を持ったまま小さく頭を下げた。

「よ、宜しくお願いシャス……」
「シアース!」
「ひい!?」
「慣れるまでは取り囲んでの挨拶止めて!」
「??」

 男子高校生の運動部の気迫に押されて谷地が怯むと清水はそう注意をしたが、彼らはその意味が分からなかったのか一堂に不思議そうな顔をしている。唯一菅原と月島、山口がそれを察して苦笑いを浮かべていた。そんな面々に清水はため息をつくと、ごめんねと谷地にひと言声をかけるとそのまま委員会に行って良いからと苦笑いをしたので、谷地は頭を下げて早々に第二体育館を後にした。

「……」

 うおおおお……。勢いで来ちゃったけど、デカイ人いっぱいだアア……明日どうしよう……。

 そろりそろりと歩く谷地はハッと表情を変えると、あんな美人の横に二分近く立ってしまったということに気付きファンの人とかに暗殺されたらどうしようと周囲を窺う。そんな時、第二体育館に通じる正面の渡り廊下から鶫が姿を見せたので谷地は反射的にビクリと体を震わせたが、それが鶫だということに気付くと今度は別の意味でビクリと体を震わせた。

「あれ?」
「!!」

 こ、この人、舞雛鶫さんだ……!

 学年首席で可愛いって有名の……。今まで遠くからしか見たことなかった。まっ、間近で見るとすっごく美人んんん! スタイルも良いし……ああこっち来る!

「もしかして……谷地さん?」
「!!」

 鶫にそう問いかけられた谷地が首を縦に振ると、やっぱりと鶫は嬉しそうに笑い、笑顔に谷地が目を奪われているのも知らず鶫は落ちてきた髪を耳にかける。

「今日、潔子先輩から仮入部でマネージャー志望の谷地さんが顔見せだけ来てくれると聞いていたから、そうだと思ったの。すれ違いにならなくて良かった」
「そ、そうなんですね……」
「ごめんなさい、自己紹介がまだでしたよね。私、一年四組の舞雛鶫です。潔子先輩と同じく男子バレー部のマネージャーをしています、宜しくお願いします」
「ふあっ! いっ、一年五組の谷地仁花です。こっ、こちらこそ宜しくお願いしますであります!」

 優しげに笑う鶫に緊張してかビシッと居住まいを正してそう言った谷地に一瞬きょとんと目を丸くした鶫だったが直ぐにクスクスと笑って、それを見た谷地は目を丸くした。

「ふふ、谷地さんって面白い。同級生だし、名前呼びで敬語はなしでお話しませんか?」
「は、はい!」
「じゃあ――宜しくね、仁花ちゃん」
「!! は、はいいいいい!」

 そうして笑う鶫に谷地は感無量になり声を震わせると流石に鶫も驚いたらしく目を丸くしていたが、直ぐにまた嬉しそうに笑って部活があるからとそのまま第二体育館へ向かう。その背中がドアの向こうへ消えるまで谷地は見送ると、ぷるぷると体を震わせて嬉しいと言葉を溢した。

「あの鶫ちゃんとお話してしまった……! 良い匂いしたしすっごく良い人だった……!」

 これもまだファンの人に暗殺されないかと周囲を警戒しながらその場を後にした谷地だったが、その足取りは先程よりも僅かに軽くなっていた。

 

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