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 翌日、扇西高校が四時半に到着するので烏野の部員たちは準備に追われていた。マネージャーの鶫と清水も忙しくしていて、谷地は二人の指示を聞きながらその手伝いをする。

 その様子に田中と西谷は清水が笑っているのを見て今日も平和だとぼやいていたが、その向こうでは菅原がさり気なく鶫に視線を送っていた。

「ええと、椅子はこれで大丈夫――」
「ふん!」
「!?」

 椅子の数を数え終わった谷地がひと息つくと近くで自分の両頬を挟むようにして叩いた日向が居て、それを見た谷地はビクリと体を震わせる。そして絶対負けないと口にした日向に今日は練習試合だよねと改めて問いかけた谷地は、頬を掻きながら首を傾げた。

「その、遠征に行く為の勉強も本番じゃない試合も……どうしてそんなに頑張れるのかなーって」
「えっ? 強くなって勝ちたいから」
「そ、そっか……きっと色々理由があるんだね」
「えっ、理由? 勝ちたい理由?」
「あっ、うん」

 負けたくないことに理由っている?

「!」

 時々凄い威圧感を出す日向のそれに中てられた谷地がビクリと体を震わせるとそれを見かけた澤村が声をかけるより早く、日向はその質問を近くに居た影山にぶつける。それに影山は不愛想に顔を向けたものの、タオルを置いてそちらに顔を向けた。

「知るかそんなもん。腹が減って飯が食いたいことに理由があんのか」
「だよなあ。うーん……」

 影山の答えに日向も同意して谷地の質問に頭を抱えていたが、まさか食欲と同じレベルだとは思っていなかった谷地はやや苦笑いをして愚問だったねと言えば、日向と影山が一緒に谷地へ顔を向け愚問とは何だと問いかけた。それを聞いていた鶫は数日前の部活後の勉強会のことを思い出して苦笑いをした時、近くに居た月島がぐるりと振り返る。

「愚かな質問また自らの問いをへりくだって言う言葉! ついこの前やった!」
「!」
「うん、そうだよね……」

 月島ならそう言うと思ったと鶫が苦笑いをしたまま準備を終わらせた時、扇西高校の一行が姿を見せて澤村の声で一斉に集合して一列に整列する。

「お願いします!」
「シアース!」

 挨拶も済みアップが始まった頃、職員室近くの廊下では扇西高校の監督とその監督の後輩で宮城野大学の男性が顔を揃えて職員室に向かっていた。

「今日の相手は烏野ですか。アレですよね……“堕ちた強豪飛べない烏”」
「はは、その呼び方、正直もうそぐわないと思うよ。この間のIH予選は?」
「大学の方でどうしても外せない仕事があって行けなくて」

 それを聞いた扇西高校の監督は、青葉城西相手にフルセットで最後は30点台まで追い詰めたことを告げると、宮城野大学の男性は目を見開くがそういえばと何かを思い返すように視線を上へ向けた。

「あーでも、千鳥山の西谷と北川第一の影山がいるんですもんね? あとマネージャーには同じく北川第一の舞雛が。この前月バリに大きく載ってましたよ」
「それもそうなんだが……」
「先輩?」

 10番。烏野のセンターに凄まじい運動能力の一年がいてな。たまにゾッとする存在感を放つんだ。

「……」
「恐らく、烏野は化けるぞ」



「そろそろ始まるから着替えとけよー」
「オアース!」

 アップの最中に澤村がそう声をかけると烏野の面々はその場でTシャツを脱ぎ始め、それに遭遇した谷地は思わず持っていたボールを落とす。それに気付いた清水は慣れてねと苦笑いをしていたが、谷地は直ぐに慣れそうにないと顔をやや指先で隠し彼らの様子を窺っていた。そんな中で西谷は東峰の頭に視線を向けると、彼の横から顔を覗かせる。

「旭さん頭カッケーっスね! ひも!」
「ヘアバンドね……。そうかー、西谷に言われると自信つくなあ」
「猫背!」
「旭さんイメチェンすか?」
「この前――」

 「東峰、何時もピッチリ結びで将来ハゲそう」

「って清水にさ……」
「ワハハハハ!」
「俺も気を付けなければ」
「モテるハゲもいますよね!」
「田中さんユニフォーム着ないんですか」

 東峰と西谷、田中の会話から山口が加わり上半身裸の田中に月島がツッコミを入れる。その脇では精神統一している影山と気合いを入れ直している日向が居て、それを見ていた谷地は呆然としていた。

「烏合の衆……」
「烏合……確かに烏だしね。でも試合になると結構息が合うんだよ」
「え、そうなんですか?」
「うん。きっと普段の練習とは違う皆が見られるはずだから」
「鶫ちゃん。へえー、そうなんだ……」

 そうして笑った清水と鶫の言葉通り、円陣を組んで気合い入れをした彼らがコートに向かう時にはその横顔は頼もしく凛々しい物になっていて、それに谷地は目を輝かせた。其処から始まった試合は谷地にとって目を惹く物ばかりで、月島のブロックや西谷と澤村のレシーブ、影山のセットアップ、東峰と田中のスパイクの音に谷地は更に目を輝かせた。

「凄い音……! 派手ですね!」
「ふふ、だよね。――でもパワー型二人に気を取られていると」

 小さい烏を見失う。

「一歩出遅れたらもう捕まえられないんだよ」

「まだ! もっと高い打点で打てる!」
「おう」

 あの一瞬の速攻でも満足していない日向と影山。そんな彼らを見た谷地は思わず息を飲んだ。



 扇西高校との練習試合は烏野のストレート勝ち。後片付けも終わり谷地がその感動を日向に伝えていると日向の擬音語による相槌に谷地は頷き、そこからのマネージャーやってとの声には驚きを隠せなかった。それを聞いていた月島はちょっと会話が意味不明だよねとツッコミを入れていて、それに鶫もやや苦笑い。

 谷地はしばらく日向の言葉に戸惑っていたが、申し訳なさそうに顔を俯かせる。

「でも……こんな凄い部でスポーツ自体に疎い私じゃ足手まといに」
「あっ、そういえばおれもやったことあるよ、村人B!」
「……えっ?」

 それで主役より目立とうとして怒られたと言い切った日向に影山が馬鹿にしたように笑えば、日向は馬鹿にすんじゃねえと噛み付いて影山に顔を向ける。

「村人Bには村人Bのカッコ良さがあんだよ!」
「……!」

 その言葉に谷地が目を見開いている横では影山は何をやったんだと日向が問いかけていて、影山は誇らしそうに夜のシーンで出て来る月だと言い切る。月島はその役必要かと目を細めていたが日向は悔しそうで、東峰は馬をやったなあと溢している。それに澤村と菅原は笑い、菅原は鶫へ顔を向けた。

「舞雛は何やったんだ?」
「あ、ええと……お姫様を」
「可愛いもんな、舞雛」
「そ、そんなことないです!」

「――……」

「そんなことあるだろー」
「褒めても何も出ませんよ」
「良いんだって。ホントのことなんだからさ」

 村人Bには村人Bのカッコ良さがある。

「――!」

 それから帰宅した谷地は自室の机に向かい、シャープペンシルを走らせた。

 「東京遠征――予定より費用が嵩みそうでどうしたものかと」
 「村人Bには村人Bのカッコ良さがあんだよ!」


 谷地が向き合っている紙には、烏野高校バレーボール部寄付金募集の文字が躍っていた。

 

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