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翌日、7月8日の日曜日。遠征最終日。
少々暑さが厳しくなってきたこの日も先日と変わらないメニューでひたすらローテーションで練習試合が組まれていた。烏野は初戦に生川高校を当たっていて、05-05と接戦になっている。
全体的に安定感が出てきたプレー。しかしそれに危機感的な物に近い感情を抱いていたのは鶫だけではなかった。烏野の練習試合を隣のコートで見ていた音駒のコーチの直井と猫又監督、彼らは日向と影山の速攻を見てふっと目尻を下げる。
「烏野はゴールデンウィークの時より落ち着いて見えますね。それに相変わらずのあの10番の速攻!」
「んー、そうね。全体的に安定感が出て来たね」
――だがそれで良いのか、烏野?
今あるその力で負けてきたのだろ?
だから強くなる為に此処へ来たのだろ?
「……危機感を覚えているのは、静かな軍師だけか」
「何か仰いましたか、監督?」
「良いや、何でもない」
「?」
そんな中、生川高校のタイムアウトでお互いのスターティングメンバ―がベンチに戻ってきた時、隣のコートから音駒高校と梟谷学園の練習試合の声が響いて来て日向はそちらへと顔を向けた。ちょうど木兎のスパイクを福永が上げてそれを孤爪がトスしようと動いている。その瞬間、ライト側へと灰羽が勢い良くネットと平行に駆け出した。
「俺に寄越せエエエ!」
「!?」
その声に孤爪は慌てて灰羽の方へトスを上げると灰羽はしなるようなスパイクでそのトスを打ち切り、相手コートへボールを沈めた。その手並みの鮮やかさには影山も目を引いていて、鶫もそちらを注視していた。
「タメ口すんません。調子こきました」
「そういうの良いって何時も言ってんじゃん。それよりブロードなんて突然言われても困る」
孤爪の言葉に今の戦術はブロードというのかと灰羽は目を輝かせ、つまりは今の攻撃は戦略なしのぶっつけ本番の攻撃だったことを意味している。それには流石の影山も口元を引き攣らせていたが、それを知るはずもない灰羽はすっと目を細めた。
「でも――出来たじゃないスか」
俺は音駒のエースだからな。
「センター……エース……」
「……」
日向のその言葉を拾った鶫は僅かに目を見開き、そしてゆっくりと口元に笑みを浮かべた。
その笑みにはヒリヒリとした闘争心が滲み出ていて、策を練りに練り待ちかねたとばかりの策略者の目が光っていた。
「――今なら」
私がしたいことができる。
この瞬間を、私はずっと待っていたの。
強さを手に入れる為に求めるのは安定か。
――それとも、進化か。