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 各々が新たな技術を身に付け始めようやく形になりかける頃には二週間が経過し、烏野高校にも夏休みが訪れていた。校内にはほとんど生徒の姿はなく、教員の姿もほとんど見かけない。しかし春高を前にして毎日練習を重ねている男子バレー部は夏休み前後もほとんど変わらず、今日もまた練習に練習を重ねていた。

 鶫も当然それに漏れず様々な場所で自主練習を重ねる彼らの様子を小まめに確認してはデータに反映し、烏養の手の届かない範囲の技術指導を普段と変わらず行っている。

 そんな忙しさの中でマネージャーの仕事も熟している鶫に、一緒におにぎりの用意をしていた谷地は横に立つ彼女の横顔をチラリと見た。

「鶫ちゃん。その、結構大丈夫?」
「何が?」
「その、皆のことも色々やってるし、マネージャーの仕事もしてるし。大変じゃないかなって……」

 疲れてたら仕事代わるよと谷地が声をかければ、その声を聞いた清水と武田はそちらへと顔を向ける。谷地の提案に鶫は驚いたように目を丸くしたが、ありがとうと微笑むと大丈夫だからと言葉を続けた。

「無理はしないから。もし何かあれば言うね」
「う、うん!」
「さてと、これで全部かな。皆の所に持っていこうか」

 沢山のおにぎりを乗せた大皿を鶫が持ち上げるとそれに谷地も続き、お茶のペットボトルを持った清水と武田も一緒に調理室を出て第二体育館へと向かい自主練習をしていた部員たちにおにぎりを勧めれば、彼らはお腹を空かせていたらしく直ぐに皿に集まってきて各々がおにぎりを頬張り始めた。

 そんな部員たちの様子に鶫と谷地は顔を見合わせて微笑み、コップにお茶を注いで部員達に配って回る。鶫もお茶を配る中、横から伸びてきた手に顔を上げれば、其処にはおにぎりを頬張りながらお茶を要求する影山の姿があった。

「飛雄くん、口に入れ過ぎ。はい、どうぞ」
「おう、ありがとな」

 もぐもぐと口を動かしてからお茶を飲んだ影山の様子に鶫はくすくすと微笑むと、程々にねと声をかけてから他の部員達にもお茶を配り歩く。パタパタと歩きながらお茶を配り部員たちに微笑みかける鶫の横顔と華奢な背中を影山はじっと見つめていたが、その視線に気付いた鶫が顔を向けて微笑んだので影山の体温はぐっと上がり思い切り顔を逸らす。それに鶫はきょとんと目を丸くして小首を傾げていたが、影山は見て見ぬフリをすることしかできなかった。



「――さて、明日から再び東京遠征です。今回はまるっと一週間!」

 長期合宿は春高予選前、最初で最後です。

「悔いのない様、このチャンスを貪り尽くしましょう」

 僕からは以上ですと武田は話を締めると、烏養が明日の練習は遠征準備の為にやらないことと集合時間を再度伝え解散と声を飛ばす。それに部員たちがお疲れ様でしたと頭を下げると後片付けを始め、鶫を含むマネージャー陣も明日の為に備品の最終チェックと片付けをした。

 揃って帰路につく部員たちの輪の中、途中の道で彼らと別れた鶫と影山は自分たちの家がある方向へと歩き出す。ポツリポツリと灯る街灯の灯りは薄暗い夜道をぼんやりと照らしていた。

「いよいよ明日が長期合宿か……。とても楽しみ!」
「そうだな。またスゲエ相手と合宿でき――あ」
「どうしたの?」
「……そういえば梟谷のセッターに連絡したのか?」
「うん。貰ってから直ぐに」

 何度かメールのやり取りをして梟谷の練習も少しだけ聞けたと嬉しそうに微笑む鶫に影山は何かを言いかけたが、それはぐっと飲み込んでお前が良いならそれで良いとだけ返答をすると黙り込む。そんな影山の様子に鶫は小首を傾げそれがどうかしたのかと訊ねれば、少し引き結んでいた唇が少しだけ震えて僅かに隙間を作った。

 所々に街灯があるだけの暗がりの帰り道。何時も通りのそれも少しだけ違うものに思えた鶫が瞳を揺らした時、影山は鶫の家の前で静かに足を止めそれに気付いた鶫も少し遅れて足を止めた。

「――なあ」
「?」

 影山が隣に立つ鶫へ体を向けると、今までになく真っ直ぐで少し不安を滲ませた影山の目が鶫を見つめた。何時もと違う空気感と帰り道、そして影山の目。それに鶫が僅かに息を飲むと影山はぐっと言葉を詰まらせたものの僅かに空いていた唇を静かに開いた。

「俺はお前と一緒に居てえ」
「飛雄くん?」

 先程よりも震える唇と声。それを必死に抑えて影山が二の句を声にするために息を吸い込んだ。

「俺は鶫と、ずっと一緒に居てえんだ」

 この先もこれからも、ずっとずっとその先まで。
 何時までも鶫と。


「……」
「どういうこと?」
「言葉のまんまだボゲエ」

 ずっと一緒に居たいという言葉だけを口にした影山は両手の拳を静かに握り締めて鶫の問いかけにそう答えれば、明日迎えに行くとだけ言って自宅へ帰りそのままの勢いで自室へ上がりドアを閉じればそれを背にズルズルと座り込み深く息を吐いた。

「余裕なんかねえよ……」

 ただの幼なじみじゃいられねえ。それだけじゃ足りねえ。
 俺がどんなに欲張ったって、お前の気持ちがないと意味がねえんだ。

「……でもあれで全部伝わったわけじゃねえ」

 昔から危なっかしいアイツのことだ、どうせ何も分かってねえ。


「ずっと一緒に居たい、か」

 今までずっと一緒なのに、どうして今更あんなことを言うんだろう。

 これから先だってずっと、

「……一緒に居られないのかな?」

 誰に言うでもなく呟いた言葉がじわじわと自分の何かを侵食していくような感覚に鶫が居心地の悪さを覚えた時、テーブルに置いたままにしていた携帯から電話の着信音が鳴り響いた。こんな時間に誰かから電話があるなんて珍しいと携帯に手を伸ばして相手を確認すると、鶫は驚いた顔をしながらもその電話を取った。

「はい、もしもし」
『あ、良かった起きてた。ごめんね、こんな夜中に』
「いえ、大丈夫です。お疲れ様です――」

 及川先輩。


 

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