04
日向の宣戦布告を聞いた月島が彼をしばらく見つめていると、街灯の脇から心配そうな顔をした鶫が顔を覗かせた。どうやら今までのやり取りを見聞きしていたらしく、喧嘩はしないでと言いながら彼らの方へ歩み寄ってくる。
「鶫、なんでお前此処にいるんだ!?」
「……なんで出てきちゃったかな」
「だって喧嘩になりそうだったから」
驚く影山に対して月島はネタバラシをされてしまったと言うようにそう言って、もうちょっとで話終わるから大人しくしててよと笑い鶫の頭をポンポンと撫でる。その瞬間影山の周囲の空気がピシリと音を立てて軋んだが、それに気づいたのは月島と彼の傍にいた日向だけだった。
「君らには重要な試合なのか知らないけど、こっちにとっては別にって感じなんだよね。勝敗に拘りないし君らが勝たないと困るなら――手、抜いてあげようか?」
明らかに相手の神経を逆なですることを意図して紡がれた言葉だったが、単純な影山はその言葉に乗せられて相手を睨み付ける。
「てめえが手抜こうが全力出そうが、俺が勝つのに変わりねえんだよ」
「“おれたち”だろっ!」
「ははっ、凄い自信! さすが王様!」
「おい、その呼び方――」
月島が口にした“異名”に影山が即座に突っかかれば、彼はやっぱりと言いたげに目を細めて口角を静かに上げる。
「コート上の王様って呼ばれるとキレるって噂、本当だったんだ」
「……」
「良いじゃん王様。格好良いじゃん! 凄くピッタリだと思うよ、王様!」
「……何なんだ、テメエ」
影山の苛立ちを煽れるだけ煽る月島。そしてそれに乗せられどんどん眉間の皺を増やしていく影山。そんな二人の様子を窺っていた鶫が間に割って入るか考え始めた時、月島は影山の脇を通り過ぎてボールを宙に放る。
「――県予選の決勝、見たよ」
「!」
「あ……」
月島の言葉に込められた意味を正しく理解できたのは、当事者だった鶫と影山だけだった。
「あーんな自己中なトス、よく他の連中我慢してたよね。僕なら無理。まあ――我慢出来なかったから、ああなったのか」
「――っ!」
「飛雄くん!」
トドメとばかりに月島がそう言えば影山は目の前の彼の胸倉を掴み上げ、鶫は慌てて影山のジャージを両手で握った。影山は自分のジャージを握る鶫の手が微かに震えていることに気付くと舌打ちをして月島から手を離し、苛立ちを落ち着かせるように深く息を吐いた。
「……切り上げるぞ」
「ええっ!?」
「鶫、帰るぞ」
「逃げんの? 王様も大したことないねー。明日の試合も王様相手に勝てちゃったりして――」
その瞬間、先程から弄んでいるボールは月島の手に落ちるより早く日向が跳び上がって受け止めた。
それと同時にピリッとした空気が肌を刺し、月島は反射的に後方へ振り返って自分よりも背の低い日向を見下ろした。
「王様王様ってうるせえ!」
「……日向くん」
「おれも居る! 試合でその頭の上、打ち抜いてやる!」
「……は?」
何を言っているんだかと言いたげに月島が首を傾げれば先程までの威勢が嘘のように日向は一瞬で怯んで後方へとジリジリ下がり、月島の出方を窺う。こちらの様子を窺っている日向を見ていた月島だが、しばらくするとふっと笑みを浮かべた。
「そんなキバんないでさ、明るく楽しく程々にやろうよ。たかが部活なんだからさ」
「たかがって何だ!」
「そのままの意味。じゃあまた明日ね」
「おい待てコラ! 結局お前どこのどいつだっ!」
「……一年四組、月島蛍」
今日から君らのチームメイトだよ。
「――あ、明日は敵か。王様のトス、見れるの楽しみにしてるよ」
「あの、月島くん」
「ああ付き合わせてごめんね、舞雛。また明日教室でね」
「何だよ、すっげー感じ悪い奴! 明日絶対ぶっ倒すぞ!」
「……言われるまでもねえよ!」
「っやっぱお前も感じ悪りーっ!」
鶫に手を振ってその場を後にした月島と彼に続いた山口の態度に日向は愚痴を溢し、影山は適当に彼の言葉に相槌を打つ。先程言われたことを気にしているのかと鶫が心配そうに影山を見上げれば、彼は少しだけ硬い表情のまま彼女の頭に手を置いた。
「……悪い、怖がらせたな」
「ううん大丈夫。でも私よりも……」
「良いから気にすんな」
「……分かった」
「それより、迎えに行くっつったのに何で此処にいるんだよ」
「部活が何時もよりも早く終わるから、飛雄くんを待つなら一緒に行こうって月島君が此処まで送ってくれて」
「あの野郎……」
どこまで自分の神経を逆撫でするつもりだと影山は口角を引き攣らせたが、ふと月島自身が口にしていた自己紹介を思い出した。
「っつーかお前、アイツとクラス一緒なんじゃねえのか」
「うん。席も隣」
「……チッ」
「どうかした?」
「何でもねえよ!」
何でもないとは思えない言い方で話を切ってしまった影山に鶫は何か言いたげだったが、彼の勢いに負けて聞くタイミングを逃してしまった。