05



「噂だけは聞いたことあったけど、あの試合見て納得いったよ」
「……」
「横暴が行き過ぎて、あの決勝ベンチに下げられてたもんね」
「!」

 月島が口にした話はコート内にいた面々だけではなく、その外にいた面々も驚かせた。その驚きの中で鶫はあの決勝で起きた出来事を思い返し、静かに目を伏せた。



「ふざけんな! 無茶過ぎんだよお前のトス! 打てなきゃ意味ねえだろうが!」

 影山のトスをギリギリの状態で打った金田一の不満の声。しかしその不満は彼だけではなく、同じコートにいるチームメイト全員が抱いていた。それはこの試合に限ったことではなく、今までの積み重ねからくる不満だった。

 しかしあの頃の影山には些細なことで、彼の不満は右から左へ通り抜けていく。

「……」

 けど、このブロック振り切らなきゃ勝てねえだろ!
 此処で終わんのか? 負けんのか?

 ――違う。俺は全国へ行く。鶫を連れて行くと約束した。

「もっと速く動け! もっと高く跳べ!」
「飛雄くん!」

 それ以上は、駄目。

「俺のトスに合わせろ! 勝ちたいなら!」

 影山がそう言った瞬間、チームの空気が変わった。
 その言葉を口にした影山自身はそれに気が付かなかった。しかしそれに気付いてしまった鶫はコートの外で息を飲んで悲しげに眉を下げたが、全てはそこで終わってしまっていた。

 そして相手がセットポイントに乗った第1セット。
 影山が“何時も通り”にトスを上げた先には――誰も居なかった。

「……」

 それはあの日何度目かのコンビミス。でも最後の“アレ”はミスじゃない。

 あれは拒絶。“もうお前にはついて行かない”とチームメイトが影山に言った一球だった。


「――影山。お前もうベンチ下がれ」
「……」




「速攻使わないのも、あの決勝のせいでビビってるとか?」

 昔のことを思い返していた鶫は伏せていた目を上げ、周囲が唖然としている様子をその視界に捉える。煽りに煽る月島に田中が突っかかろうとしたが澤村に止められたので、彼は何か言いたげだったもののその口を閉じた。

「……ああそうだ」
「?」
「トスを上げた先に誰も居ないっつうのは、心底怖えよ」
「えっ、でもそれ中学の話でしょ?」

 この静寂に釣り合わない声。その声の主である日向へ周囲の目が向いたが、彼は特にそれを気にした様子もなく話を続けた。

「おれにはちゃんとトス上がるから別に関係ない」
「――……」
「どうやってお前をぶち抜くかだけが問題だ!」

 怖いくらいに純粋で単純。
 昔は昔で今は今だと言うような日向の言葉に思わず澤村と田中は笑い声を漏らし、固かった空気が一瞬で和らいだ。今まで重たい空気を纏っていた影山でさえ虚を突かれたような顔をしていて、鶫もまたコートの外で呆然と彼らのやり取りを見つめていた。

「月島に勝ってちゃんと部活入って、お前は正々堂々セッターやる! そんでおれにトス上げる! それ以外に何かあんのか!」
「っ……」
「――そういういかにも純粋で真っ直ぐみたいな感じ、イラッとする」
「ムッ!」
「――気合いで身長差は埋まらない」
「?」
「努力で全部何とかなると思ったら、大間違いなんだよ」

 最後に月島が吐き出すように口にした言葉。周囲の喧騒に紛れてほとんどの人の耳には届いていなかったが、鶫はそれをしっかり聞き取っていた。

「……どういう意味?」

 何か意図や意味を持って吐き出されたような言葉だったが、その意味を知るには今の鶫では情報が足りなかった。





試合はそれから更に進み、影山側にチャンスボールが上がる。田中が正面でボールを受けてきっちりセッター位置へとボールを返し、それは綺麗な弧を描く。同時に聞こえてきたのは二人のスパイカーの声。

「俺に上げろ!」
「おれに上げろ!」
「……」

 レフト側に走る田中、そしてそのやや後方には日向が走っている。影山はその二人の位置を確認しボールへ手を伸ばすと、その爪先を僅かにレフト側へ向けた。

「田中さ――」
「影山!」
「!?」

 瞬間、ライト側に日向が躍り出た。

「――……」

 そこには、誰も。

「居るぞ!」
「っ……!」

 切れ長の黒目に映り込んだ日向の姿に釣られるようにして影山は上体をライト側へ捻りながらトスを上げ、その鋭いトスは日向の元へと運ばれた。

 トスをギリギリの状態で打った日向のボールは緩い軌道を描きながらもネットの向こうへ渡り、澤村が飛び込んだものの僅かに届かずボールは床へと落ちた。

「あっぶねー……空振るところだった」
「お前、何をいきなり――!」
「でもちゃんとボール来た!」
「!」
「中学のことなんか知らねえ。おれにとってはどんなトスだってありがたーいトスなんだ! おれは何処にだってとぶ! どんなボールだって打つ! 」

 ――だから!

「おれにトス、持ってこい!」

  

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